第十章 始動 1
登場人物
レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)
ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟・愛称ジル)
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)
カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)
テス(スタンドフィールド・ドックのクルーで溶接工)
クレア=ポーター(ダンの養女。医者)
レテシア=ハートランド(元ホーネットクルー。グリーンエメラルダ号のクルー)
ジリアンとロブはパジェロブルーで飛行練習をした
展望台で、パジェロブルーから通信のやりとりをしていたカスターはクレアからの電話を受けとった。
「クレアだけど、ロブは?」
通信を中断するとカスターは外の方をみて、パジェロブルーが飛んでいるのを念のために確認した。
「クレアさん。ロブはいま、パジェロブルーでジリアンと飛行練習してますよ。」
クレアはカスターのいうことがいまいち理解できなかった。
「パジェロブルー?何のことだよ。」
「え、クレアさん宛の荷物でグリーンオイル財団研究所から届いたものですよ。」
「エアジェットのこと?」
カスターはクレア宛の荷物だからと、パジェロブルーの存在は周知の上だと思っていた。
「ええそうです。図面にパジェロブルーって明記されていましたよ。
クレアさんがつけた名前じゃないんですか。」
「違うね。どうしてわたしが名前をつけなきゃいけないんだか。」
(ロブの思い込みか。)
ようやくここで、ロブが話していたことで思い違いをしていることにカスターは気がついた。
「バトラー設計主任にやっかいごとを頼まれて、代わりにエアジェットを所望したんだよ。
それを二人で乗り回しているっていうことなんだな、カスター」
「乗り回すなんて、遊んでいるわけじゃないですよ。」
「言い方が悪かったよ。それより、ロブが戻ってきたら、こっちに連絡するように言って欲しい。」
「こっちって今どこですか。」
「医療学園都市カテリーナ病院。」
「病院ですか?」
「ああ、世話になった教授がここで院長しているんだ。調べたいことがあってね。あたし宛で電話くれたらいい。」
「わかりましたぁ。」
電話を切ると、カスターは通信に戻った。
レインはテスから溶接の仕方を指導されていた。
レインは手持ち遮光面を顔にあて、小型の溶接機を肩に下げて、皮手袋で作業をしていた。
「お面を避けるときは、完全にスイッチを切ってからでないと目が焼けてしまう。いいね。」
テスも遮光面を顔にあてて、皮手袋でレインに支持をしていた。
「はい。わかりました。」
「空で作業する場合、お面を当てて作業は出来ないからね、ゴーグルをつける必要がある。
一刻を争う修復作業は、アクロバット的なことが必要になってくるからさ。」
「え、そうなの?」
レインは溶接したまま、遮光面を顔から話した。
「おい、スイッチ切ってからだと言っただろ。」
「あ、ごめん・・・いえ、すみませんでした。」
あわててそれからスイッチを切った。
「手持ち遮光面はレイニーには不向きだな。ま、慣れたらうまく使えるようになるとは思うけどな。」
溶接の扱い方をきちんと身に着けておかないと、危険だということはレインは認識できているが、自覚している部分で落ち着きがないので、なれないことを身に着けるのに時間がかかるという具合だった。
「空挺で作業するときはゴーグルでするといい。溶接の仕方に問題はないよ。レイニー。」
テスはレインの背中を軽く叩いた。
「休憩しよう。」
「はい。」
レインは返事をしつつ、ため息もついた。瞬きを繰り返して、目の調子を確認した。
お面を置いて、肩からかけていた溶接機を下ろし、皮手袋を外した。
レインはデッキの方へ向かった。
第二デッキには、ちょうど、パジェローブルーが着岸していた。
パジェロブルーが戻ってくると、カスターは展望台からデッキに降りてきた。
第二デッキの踊り場の手すりに手をかけて下を除くと、ロブがヘルメットを脱いでいるところだった。
第二デッキから先に降りてきたジリアンが踊り場に上がってきた。
「お疲れ、ジル。今度は一人で操縦できるね。」
「うん。やっとだね。」
カスターが下を覗こうとしたとき、下から声がした。
「兄さん!僕はいつになったら、操縦の練習が出来るようになるの?」
ロブは、レインの作業着が溶接用だとわかって、レインの目をみていた。
「レイン、お前、目が焼けているぞ。」
レインは瞬きを繰り返して、痛みを感じていることに気がついた。
「目をこするな。目薬を差して来い。」
レインはポケットから目薬を出してその場で指した。
「話をそらさないでよ。ちゃんと持ってるんだから。」
踊り場からカスターとジリアンはレインとロブの様子を眺めていた。
ロブは話をそらそうとしたことを見抜かれて、どうしようかと考えあぐねていた。
レインはロブをにらみつけていた。
「僕は兄さんの言うとおりに、ジェイから塗装の仕方、ディゴから板金の仕方や機械の取り付け、テスから溶接の仕方と学んできたよ。」
ロブはレインの話にうなづいて見せた。
「ジリアンはもうひとりで操縦できる状態になっているし、今度は僕が操縦の仕方を教えてもらう番だと思う。」
ロブは頭をかきながら、いやいやながら、うなづいた。
「スカイロード上官育成学校って優秀なパイロットの学校で、そこの学生だったママでしょ。じいさまがよく言ってた兄さんがコンテストの常連だったというパイロットなんでしょ。」
「何がいいたいんだ。」
「僕に、パイロットの才能がないっていうことじゃないでしょ。」
「お前には度胸がないんだよ。」
レインはふてくされた。前々から、ジリアンと比べられてよく言われたことだった。
「それに、飛行を遊びだと思っている。トラブルに見舞われたとき、パニック起して、だめだめになるのが目に見えるようだ。」
「そんなことない!」
「ああ、そうか。だったら、明日、パジェロブルーに乗せてやる。パニック起して、泣いたりしたら、容赦しないぞ!」
売り言葉に買い言葉だった。レインはカッとなってロブに喧嘩を売った状態になったことに気がついた。
青い顔になっているレインの顔をみて、ロブはお灸を吸えるつもりで言った。
「どうした、返事は?」
「・・・わかったよ。泣いたりしなきゃいいんでしょ。」
「言っておくことがある。」
「なにを?」
神妙な顔をしてロブは言った。
「レテシアが空を飛ぶ理由は・・・・。」
「え、理由?」
「スリルを味わう為だ。」
「え?!」
「空を飛ぶのが好きというより、スリルを味わうのが好きというオンナだった。」
レインは、幼いころの記憶で、フレッドに抱かれ、手を伸ばし、背面飛行するブルーボードでロブと手が触れたことを思い出した。
そのとき、ロブは怒っていてレテシアは笑っていた。
「ま、まさか、それが別れた理由じゃないよね。」
「ちがう。」
ロブはばつの悪い顔をした。
「別れた理由は俺の弱さだ。子供が子供の親になったという状態だったからな。」
「ママに会わせてくれんでしょ。会ったら、わかるんだよね。ママがどんなひとなのか。」
「そうだな。約束しよう。お前が度肝を抜くくらい、とんでもないオンナだってことを。泣きたくなるくらい思い知らされる。」
据わった目つきでロブはレインをみた。レインは怪訝そうな顔でロブをみていた。
「意味わからないよ。泣きたくなるくらい思い知らされるなんて。」
「俺も何がいいたいのかわからなくなってきた。これ以上はこの話なしな。明日のこと考えて置けよ、レイン。」
レインは呆れた顔になった。
踊り場にいたカスターとジリアンも呆れていた。
「兄さんっておかしなことを言うんだな。」
「オンナの話なんて、ここ最近のことだからな。よっぽどうぶなオトコかと思うよ。」
「え?」
「ああ、ジルにはまだわからないか。あはは。」
ジリアンはためいきをついた。
「なんだか、ホッとした。」
「なにが?」
「僕は、あの二人の仲の良さに嫉妬していたんだ。」
「ああ、なるほど。」
「親子だって知らなかったけど、なんとなくわかっていたかな。それでいて、不安だったんだ。
きっとそれはあの二人の間に入れない自分がいつかは見捨てられるって言う感じがしたかだと思う。」
「そんなことは絶対無いさ。」
「うん、そうだね。だから、ホッとした。安心した。親子だから、僕が入り込む余地なんてないんだ。」
「そういうことでもないけど。ほら、あいも変わらず、レイニーはロブのこと兄さんと呼んでる。」
「いきなり、父さんって呼べないでしょ。僕なら出来ないな。」
「まぁ、そうかな。レテシアさんのことはママって呼んでいるみたいだがな。」
「兄さんって、気にしているの?レイニーのこと。」
「まぁな。でも、時間が解決してくれるでしょ。」
「そういうもんかな。」
「シャワー浴びておいで。疲れているだろ。」
「うん。」
ジリアンは踊り場から出て行った。
カスターは踊り場からデッキへと降りていった。
レインはロブと話をした後、デッキから去っていった。
ロブはパジェロブルーの点検を始めた。
そこへカスターがやってきて、点検の手伝いを始めた。
「何の話をしていたんだか。変な親子の会話だったな。」
「キャス、聞いていたのか。」
「ジリアンと二人でね。」
ロブはため息をついた。
「自分でもよくわからなくなってきた。レインを操縦させたくないという気持ちが強い。」
「どうしてまた?」
「俺自身がエアジェットに魅せられて、飛行士になったが、危険な飛行をやってのけて、親父たちをよく困らせいた。」
「レインも同じことをするとでも?」
「レテシアの影響もあるからな。」
「いまさら、あわせたくないって言い出すなよ。」
「そういうつもりはないが。」
「明日、どうするつもりなんだよ。」
「とりあえず、怖がらせてみる。」
「はぁ~?」
「試しにな。アクロバット飛行を見ている分には面白いかもしれないが、操縦桿を握って飛行する分には楽しいかどうか。」
「ああ、そういうことか。」
「レテシアはそれを楽しんでいた。」
「だったら、レインも楽しむんじゃないの?」
「どうかな。」
不敵な笑みをうかべてロブはパジェロブルーのオイル口を開いて作業を始めた。
BGM:「VACANCY」Kylee