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第九章  絆 2

登場人物


レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟・愛称ジル)

ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)

カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)

コリン=ボイド(レインのクラスメイト)

マーサ(ロブの父親ゴメス=スタンドフィールドの後妻。カスターの実母)

ダン=ポーター(前タイディン診療所の医者)

セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。愛称セシル)

レテシア=ハートランド(元ホーネットクルー。グリーンエメラルダ号のクルー)

ジリアンはいつものように、朝起きて、身支度を済ませると、レインの部屋に行った。

ドアの前で、声をかけると返事がなかった。

「レイニー、起きてないの?」

ドアを叩いても、返事がしないので、ジリアンはレインの部屋のドアを開けた。

ベッドを覗き込むといないので、レインが部屋にいないことに気がついた。

ドックのどこかにいるのかなと思ったが、昨日聞きたくない話を聞かされたのでもしかして、家出をしたのではとジリアンは思った。

食堂へ行くと、そこにロブはいなかった。厨房へいくと、欠伸ばかりしているカスターがいてた。

「キャス、おはよう。」

「おはよう。ジル。レイニーはまだ?」

「それが、お越しにいったんだけど、部屋にいないんだ。こっちにはまだ来てないんだね。」

カスターもジリアンと同じことを考えた。

「どこかにいてるとも思えない。今日は学校登校日なのに。」

「まぁ、今日さぼるぐらいはいいんじゃないか。そっとしおいてあげよう。ジルはこっちへおいで。」

カスターはジリアンを近くに呼び寄せると、両手でジリアンの頬を押さえて顔をあげて見た。

「ジルは大丈夫か。」

「大丈夫じゃない。」

ジルにそういわれて、カスターは両手を離した。

「僕は分かっていたことだから、ショックなことじゃない。でも、事実を言われるとなんだか赤の他人になった気分になっちゃう。」

「そういうことじゃないってロブは言ってただろう。」

「うん。キャスはいつから知っていたの?」

「3ヶ月前くらいかな。兄弟じゃないなぁって思ってたけど、教えてって言って教えてもらえるとは思ってなかったからな。」

「クレアさんに言われたんだって。言われなきゃ、知らないままだったのかな。」

「どうかなぁ。」

カスターは用意していた朝食を袋につめ始めた。そして、一人分だけジリアンに渡した。

「ほら。もう学校へ行く時間。」

「ああ、うん。」

「レイニーのことは心配しなくて大丈夫だよ。」

「うん。」

「それに、いままでどおりでいいんだよ。ロブやレイニーのことを兄さんだと思っていればいいんだよ。」

「うん、それはわかっているつもりなんだけど。」

ジリアンはそういって、厨房を後にした。

ジリアンがいつもより早かったので、階段で下まで降りた。

エアバイクのあるところまでくると、レインのヘルメットがなかったのに気がついた。

いつものエアバイクはあったので、きょろきょろしていると、一人乗り用のエアバイクがないことに気がついた。

ジリアンはそこから無線でカスターに連絡をした。

「キャス、レイニーは一人用エアバイクで出ちゃってるよ。連絡しておくね。行ってきます。」

「了解。気をつけて学校行っておいで。」


幼いレインはロブにしがみついて泣いていた。

「ママはどこに行ったの?もう戻ってこないの?」

ロブがレインを引き離そうとしても離れない。

後ろからやさしく声をかけてレインを抱きしめるマーサ。

「レイニー。これからはわたしがあなたのママよ。」

「嫌だ。嫌だ。お空を飛んでくれるママがいい。」

レインがロブの顔を覗き込むと、ロブは疲れきった顔をしていた。

ロブはレインの目つきが突き刺ささってこころが痛み、両手でレインの顔を覆った。

その様子にレインは泣きじゃくり、しがみついていた両手を離した。

「ママがいい~~、ママがいいのぉ~」

幼いレインは声を絞り出すように叫んでいた。


ロブが目を覚ましたら、自分の両手が天井に向けて差し出しているのが見えた。

夢の様子と現実の様子がシンクロした瞬間を感じた。

(疲れているな。)

仰向けになっていたのを横向きにして、目を閉じたが眠れなかった。

昨日の晩に話したことを思い返してみた。

ジリアンがセシリアの子供であることともに、セシリアが皇帝の妹であることを話した。

実存しないはずの妹ではあるが、その息子となれば、皇帝の後継者として養子なり何なりして据えることができる。

命を狙われる理由は、セシリアの息子であること。

黒衣の民族の後継者を殺してしまったのも同然のことをセシリアはしてしまっていること。

逆恨みではあるが、ダン・ポーターからセシリアが生きていることとその息子が生まれていることを黒衣の民族が聞き出されている可能性があったからだ。

ジリアンをドックにおいて、ロブは旅立つことができない理由を述べた。

レインの母親がレテシアハートランドで、父親が自分であることも話した。

理由は、レテシアがホーンテッドで一流の飛行士として任務に就いている様子に、家族がいては邪魔になるのではないかという懸念を抱いていたからだ。

そこにハートランド家からレインを養子にしたいという話が舞い込んできたのだという。

レテシアがホーンテッドの機体にレインを乗せた事件をきっかけに、別離したのだ。

ロブはそれが許せなかった。自分がいない間にレインを連れ出そうという魂胆かという考えでレテシアからこころが離れてしまったのだった。

それはあとで真実を知ったとしても、取り返しのつかない状態になり、ハートランドはスタンドフィールドと決別し、グリーンエメラルダ号はドックに着岸することがなくなった。

レインがレテシアを探し求めて泣き叫ぶ姿にロブは何度こころを痛めただろう。

泣きつかれて安らかに眠るレインの寝顔をみて、ロブは安心して眠りについたものの、朝になってもレインがなかなか目が覚めないことがあった。

その度ごとに、心臓がつぶれる思いがした。

ライトを照らし起すことを繰り返すことによって、目が覚めるたびにマーサが抱きしめていくうちに、レインは自分のママがマーサだという認識ができてしまった。

ロブは、自分に言い聞かせてきた。いつかは真実を伝えるときがくるだろうとわかっていたはずだと。

そして、レテシアが成長したレインと会ったとき、母親を忘れてしまっている息子の姿を目の当たりにさせるわけにいかないと。


レインはコリンの家にいた。

昨晩遅くに、コリンの家にやってきて、コリンやコリンの両親に、兄と喧嘩になって家出してきたと伝えた。

コリンはこころのなかで大喜びしていたが、困った顔をして両親にレインを家においてもらうよう頼んだ。

両親は快く引き受けた。

コリン自身幼いころからよく家出をして両親を困らせたことがあったからだが、それは無理やり家族の下に返してあげても解決しないことを知っているからだ。

昨晩はコリンのベッドにレインが一緒になって眠りについた。

朝は、いつもなら、コリンは両親のパン作りの手伝いをするのだが、レインが一緒なので、学校へいく時間まで二人は寝ていた。

コリンの母親に起されて、ふたりは目が覚めた。

「レイン、少しは眠れたかしら。」

「ええ、ご迷惑をかけてすみません。」

「いいのよ。気が済むまでここにいてて。」

「良かったら、ずっとここにいていいよ。」

コリンはそういって、レインの後ろから抱きついた。

「そういうわけにはいかないけど、今はお互いのことが許せる時間が必要だからね。」

「ありがとうございます。おばさん。」

コリンの母親は笑顔でレインをみた。

そしてレインは母親の存在が自分になかったことを実感してしまった。

「学校へ行く用意をしてね。」

「ええ、行きたくない。」

「何を言ってるの。ちゃんと勉強してきてちょうだい。」

「レインは行きたくないよね。」

「ごめん、コリン。僕は学校へ行く用意はしてきているんだ。」

「ええ。じゃ、ジリアンにばれちゃうじゃん。」

「ジリアンには心配かけたくないんだ。学校で理由を話すつもりだよ。」

「レイン。あなたは弟思いね。不本意なできごとはこれからもたくさん遭遇するかもしれないけど、ジリアンにはちゃんと話す姿勢ができていれば、理解してもらえるわ。」

「そうですよね。」

「朝食は用意してるから、ちゃんと食べて行ってね。コリン、お母さんは仕事があるから。」

そういって、コリンの母親は部屋を出て行った。

二人は身支度を始めた。


レインとコリンが学校に登校すると、ジリアンが中等科の校舎で待っていた。

「レイニー、おはよう。コリンのところへ行ってたんだよね。」

「おはよう、ジル。心配掛けてごめんよ。」

「ううん。大丈夫。無事だったらいいんだ。キャスがレイニーのことは心配しなくていいよって言ってたし。」

「おまえって、兄がいなくなっても、冷静なのかよ。」

「コリン、黙っててよ。」

コリンはふてくされて、レインをおいて中等科の校舎へ行ってしまった。

「兄さんはまだ起きてきてなくて、知らないと思うけど。」

「キャスが話をするよね。僕はしばらく、コリンの家にお世話になるよ。」

「帰ってこないつもりじゃないよね。」

「わからない。」

「そんな。」

学校のチャイムがなりはじめると、レインは唇をかんだ。

「いまは、悔しくて、悲しくて、兄さんの・・・・顔も見たくないんだ。

コリンのお母さんが言ってくれた、時間が解決してくれるかどうかはわからないけど。

ジリアンに悲しい思いをさせないようにするよ。

僕たちは、兄弟として育ったんだ。それ以外の何者でもないよ。」

レインの目は涙で潤んでいた。

ジリアンは笑顔で深くうなづくと、その場を去った。

レインはジリアンが初等科の校舎に入っていく姿を見つめていた。

BGM:「現象」岡北有由

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