第三十八章 オレンジローズ 6
ジェフ=マックファットとエミリア、ステファノとレオン、二人一組になり2組がエアジェットに乗り、敵地がある場所まで行き、テオとニコラはホワイトソードで待機することとなった。黒衣の民族が急襲するとき、ペアであらわれかならず一人が攻撃要員として仕掛けていることはジェフもテオも熟知していた。
「エミリア、君は僕が蜂の巣に降り立ったら、レオンと一緒に谷底で待機だ。」
「了解です。」
念を押されたのは、痛い程理解でき身につまされた。レインを救出するのに自ら向かえないのは、休暇中の軍人だということと将軍の娘だという理由。そして、レイン救出しに行っているとフェリシアに知られでもしたら、どうなることか想像もしたくないくらいだった。
「君をこんなことまで関わらせるつもりはなかった。相手の正体を暴くのに、一筋縄ではいかず、試行錯誤の末の計画だった。申し訳ないと思っているが。いいか、よく聞いてくれ。」
「はい。」
「レインは僕たちで助け出す。必ず。」
「はい。」
「君は多少、気が重く苛立ちを募らせて待機せざる得ない。だが、絶対に動いてはいけない。いいね。」
「はい。」
ジェフは睨むようにエミリアを見つめて、説得した。
「動かないこと。これが君にできる、僕たちへの助けだ。」
エミリアの肩をポンと叩くと、黒い布地を頭に巻き、顔を覆った。
ジェフはエミリアの冷静さを買っている。この計画に彼女を関わらせたのは、感情を押し殺して事を成し遂げようとする姿勢をキャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地で知り得ていたからだ。
レオンは黒衣の民族の衣装を身につけ、救護の準備を進めていた。注射針を弾いて液体注入を確認し、それを容器に詰め直し、ウエストポーチに仕舞いこんだ。拳銃も胸元に押し込んでいるとニコラに声をかけられた。
「普通、医者が人を傷つける拳銃なんか、持つかな。」
「悪いね。僕の母親は軍医でさ、銃の扱いもちゃんと教わっているんだ。任務遂行に拳銃は不可欠。」
「レオンは軍医じゃないんだし。」
「持っていることに越したことは無いよ。」
「そうかなぁ。」
「攻撃するためだけのものじゃないさ。」
ニコラは少し、首を傾げたが、敵地にステファノを降ろす際に攻撃を受けても拳銃はいらないし、谷底で待機にしても敵に襲われる心配はないだろうと考えた。
「攻撃は最大の防御。攻撃する機会が無ければいいだけでしょ。」
「そう。でも、脅しなら、他にも使えることがあるのさ。」
レオンの言わないとしていることがニコラには理解できなかった。レオンはニヤリを笑って見せた。
「医者だから、できることだけどさ。」
テオがホワイトソードの操縦席に座りこむと、ニコラは副操縦席に座りレーダーを確認した。
「塩山脈を越えたら、上層雲に途中にし、その際、エアジェット2機を発進させる。」
「了解。」
テオはレインの救出とグリーンオイル製造会社の社長の正体を暴くという目的をニコラに再確認した。
グリーンオイル製造会社がレッドオイルを製造している場所、それが空にあるとは誰も創造できないでいたが、その情報をつかんだのがパトリックだ。特定できなかったその蜂の巣という館は、レインが連れ去られることで見つけることができた。
レインたちの目的はレッドオイル製造を止めさせること。パトリックの思惑通りに事が運び、蜂の巣の位置を特定できたわけだが、目的がほんとうにそれだけなのかと、テオはニコラに詰め寄った。
「あたしがわかるわけない。それ以上のことを勘繰って察することなんて、できないよ。それとも何か、それらしい事でもあるわけ?」
テオはジェフとパトリックで計画した点が腑に落ちなかった。ニコラはため息をついた。
「知らないことになっているんだけど。」
「・・・。」
「パトリックとジェフが繋がっているのは、レテシア=ハートランドなんだと。」
「レテシアが?」
「ええでも、なぜレテシアで繋がっているのかは、あたしも知らないんだ。二人の会話でなんとなくわかっただけなんだ。」
テオはウィンディの言った事を思い返した。
(レインを見殺しにしたりしないと。)
「ウィンディはそのことを知っているんだな。」
「おそらく。」
ニコラが間をおいて答えると、テオは言った。
「レインを餌にした理由はレテシアなのだろうか。」
「違うわ。ロブよ。」
「私は知っているぞ。ロブとパトリックの仲が悪いと。」
「ええでも、ロブの息子だからっていう理由だったと思うの。なぜかはわからないわ。」
「なるほど。レインである理由があるのか。」
「そう。そして、かならず助け出す理由がレテシアの息子だからなのよ。」
「わかった。もう、疑うのは時間の無駄だ。後はうまく行くことを願って進めるしかない。」
ニコラは安堵し、通信機にスイッチを入れた。
「ジェフ、ステファノ、用意はいいかしら。」
「スタンバイOKだ。」
「OK。」
フェリシアは軍服を着たまま、グリーンオイル財団のパーティへ向かうことにした。時間がないためエアジェットで一人向かうことにしていたが、護衛をつけられた。テオがいた部隊の女性パイロットでフェリシアを監視しておくように裏指令を受けていたので護衛に志願していた。
フェリシアはエアジェットで護衛をまいて、行方をくらますつもりでいたが、護衛は腕がたち、なかなか引き離すことができないでいた。ほかの手段を考えていて、その方法をしたくない思いがあったが。
「こちら、オレンジローズ。機体の様子がおかしいので点検のために着陸します。」
許可を得て、着陸し、降り立ち、護衛のパイロットが降り立つと後方に回って拳銃を手にして構えた。しかし、フェリシアは躊躇して声をあげることができないでいた。護衛が振り返った瞬間、フェリシアは頭痛に襲われ、気を失って倒れた。
「どうかされましたか、殿下!」
フェリシアは拳銃を握り締めて、護衛に拳銃を向け、安全装置に指をかけた。
「言うとおりにして、さもないと打つわよ。」
護衛は言うことを聞く振りをして、油断した隙に足蹴りをして、拳銃を蹴飛ばした。しかし、フェリシアはすぐさま、片方の手で相手の後頭部を殴りつけ、倒れこんだところをとどめの肘鉄を食らわせて気を失わせた。
蹴られた手首を振って、折れていないか確かめたフェリシアの目は白目を向いたままだった。