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第六章  胸中模索 1

登場人物


レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟・愛称ジル)

ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)

カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信部・愛称キャス)

ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)

ジゼル(スタンドフィールド・ドックのクルーで食堂担当。ディゴの妻)


コリン=ボイド(レインのクラスメイト)

ジョイス=ボイド(コリンの父親)

プラーナ(ジリアンのクラスメイト)


マーク=テレンス(タイディン診療所の医者)

ミランダ=テレンス(マークの妻。診療所の看護士と医療事務員)

ダン=ポーター(前タイディン診療所の医者)

クレア=ポーター(ダンの養女。医者)

コーディ=ヴェッキア(クレアの相棒。看護兼介護士)

朝早く、街中をエアバイクが駆けていた。

クレアはロブに乗せてもらって、街角でおろして貰った。

向かった先は、コリンのパン屋だった。

店の中に入ると、コリンの父親がレジにいてた。

クレアの姿が目に入ると、いぶかしい顔になった。

「ひさしぶりですね。ボイドさん。」

「ご無沙汰してます。クレアさん。お元気そうで。」

「ええ、元気です。」

クレアは店内を見渡し、トレイを手に取り、パンを選んでいた。

コリンの父親ジョイス・ボイドは浮かない顔になり、そわそわし始めた。

後方にパンの工房があり、なかでせわしく働く妻の姿を振り返りながらレジに立っていた。

「テレンス先生が診療所に着任されてから、すっかり姿をみかけなくなったと街の人々は心配してましたよ。」

「そうですねぇ。長い間、用事に没頭してしまったから、街に寄り付かなくなってしまって。」

「ポーター先生のことはお気の毒なことに。みんな、あんな良い先生は滅多にいないと残念がっております。」

「そう、父のことなんですけど。生前、父はあなたに何か預けなかったかなと思いまして。」

虚を付かれたようになり、あせるジョイスは目を天井で泳がせながら言った。

「いやぁ、そんな預かりものはありませんよ。パン屋に預けるものなんて。」

クレアはクロワッサンなど、パンをいくつか、トレイに乗せると、レジに向かった。

そして、ジョイスに顔を近づけて言った。

「あなたがスワン村にいたことをわたしは知っているのですよ。それでもおとぼけになりますか。」

驚きの顔でクレアを見ると、開き直って言った。

「さぁ、何のことをおっしゃってるのか、わかりませんが。」

クレアは、ジョイスから顔を遠ざけると、トレイをレジのところに置いた。

ジョイスはあわてて、清算をはじめた。

「わたしはいま、ドックにいてましてね。ジリアンがこちらのコリンに殴られたという話を聞きました。」

「ええ、知ってます。コリンを叱り付けてプラーナの両親には一緒に謝りに行きました。」

「そういうことは、よくあることなのですか。」

ジョイスはギョッとして、手を止めた。

「いいえ、ありませんよ。いたずらをしたりして手こずらせて叱ることはよくありますけど、喧嘩くらいは男の子にはよくあることでしょう。」

クレアはジョイスの様子を伺いながら、コリンがいないかどうか工房をのぞこうとした。

「あのぉ、クレアさん。妻は忙しいので。」

清算を終了したジョイスはクレアの右腕を引いて、小声で耳打ちした。

「妻は知らないんですよ。あなたの知りたいことは命が関わることなんです。察してください。」

クレアはニヤリと笑った。その姿をみて、怒りを覚えたジョイスはクレアの腕を放した。

「わたしは父から何も聞いていなかったのです。でも、勘が働いたもので、調べたんです。

誰にも話すつもりはありませんよ。あなたは何に気をつければいいのかご存知のはずですから。」

そういって、クレアは店を出た。


乗り合いバスが診療所につき、クレアが降車した。

今日は休診日なので、クレア以外の人は降車しなかった。

クレアは玄関の休診の札を確認すると、勝手口を求めて裏に回った。

リビングのソファでくつろいでいたマークは部屋の戸口に立ったクレアをみて言った。

「やらく老け込んだな。べっぴんさん。」

「三十路を過ぎたら、老け込むのは早いね。マーク、あんた相変わらずだな。」

「おまえさんもな。まぁ、座れ。」

「いや、遠慮しとくよ。」

「相変わらず、人と話をするときは面と向かわないな。」

「いいや、マークとミランダだけだよ。」

「そうかい。ミランダは買い物に出かけていったよ。お前さんが来るなら、ご馳走を作りたいってな。」

「タイミングが良かった。昼食までいるつもりは無いよ。できたら・・・。」

「ミランダとは顔をあわせたくないっていうことか。」

「そうだね。あの人は苦手。」

マークはため息をつくと、手にとっていた新聞をテーブルに置いた。

「ミランダは今もあの時のことを思うと、悔しくてしょうがないと言うんだ。

オンナである自分がどうして気遣ってあげることができなかったかということをね。」

クレアはうつむいた状態で、自分の過去を、下宿していたころを思い出していた。

「それは口に出して言わなくても、わかってくれるでしょう。

心配かけたくなくて、何も言わないことや態度で示せなったということ。」

「今もそのことに変わりはないだろう。ダンのことで何か調べているのは察しがつく。

しかし、それはお前が調べて判明したとしてもどうにかなることではないことぐらいわかるだろう。」

「止めても無駄だからね。一度決めたら、遣り通す。やられたらやり返す・・・。」

「だからと言って、クレア、女のお前が戦うっていうのは、道理が通らないくらい無茶なことなんだ。」

「女だから、無茶なことだから、何もせずに、だまって男でも作って子供でも生んで家庭に収まっていろっていうのかい。

冗談じゃない。父さんが死んだことの意味を知りもしないで、あたしは幸せになんかなれないんだよ。」

「忠告を聞かない奴だったな、お前は。」

「おとなしくしていればいいってものじゃないことを学校で教わったよ。」

「周囲はお前を放っておかないのだろう。」

「お説教を聴きに来たんじゃない。」

「俺もそのつもりじゃなかったがな。」

お互い怒りの感情がぶつけられず、二人はしばらく黙っていた。

意を決して、クレアが口を開いた。

「スワン村にたどり着いたよ。ダンが何をしていたのかも知ることができた。」

「おまえ、まさか打って出るんじゃないだろうな。」

「しばらくは様子をみるよ。ダンが隠していたことを見つけ出すことができたから、まだ触れずにいようと思う。」

「これだけは、言っておきたいのだが、おまえはわかっていると思う。命は粗末にするなよ。」

「使うときは、ここぞって時にするよ。」

ダンは大きなため息をついた。

ロブに言われたことを思い出して、自分には無理だと悟った。

外で大きな急ブレーキをかける音がした。

車のドアが大きく閉じる音が聞こえると家が揺れるほど、勝手口のドアが開く音がした。

バタバタと走る音が家に響くと、ミランダがクレアの目の前に現れた。

「パン屋にいるクレアの姿をみたという話を聞いて、あわてて帰ってきたわ。」

息を切らしてミランダはクレアを見ていた。

意外と早くもどってきてがっかりなクレアが挨拶をしようとしたが、ミランダはクレアを抱きしめた。

「昼食まではいて頂戴ね。ご馳走作るから。なによ、こんなにやせちゃって、ちゃんと栄養とってないのでしょ。」

「いや、ミランダ、今日中にドックを去りたいんだが。」

「だめよ。昼食を食べてからにしなさい。」

「いや、だから・・・。」

「わたしに心配かけさせた罰よ。」

「・・・・・。」

マークは二人の姿をみて、安心して立ち上がって言った。

「やれやれ、ミランダには適わないな。なぁ、クレア。」

クレアは困った顔から、笑顔になった。

ミランダはクレアを強く抱きしめた。

「今度もかならず生きて帰ってくると約束して頂戴。」

「はいはい。」

クレアはめんどくさそうに口にしたが、ミランダを抱きしめ返した。


ロブがドックに戻って、食堂に入ると、二日酔いで弱ってテーブルにうつ伏せているカスターがいた。

ロブはそばによって、小声で話しかけた。

「後で展望台に来てくれないか。話したいことがある。」

「うえぇ、仕事~。」

「チガウ。昨日の話の続きだ。」

カスターは澱んでいた目を見開こうとした。

ロブのスッキリした顔をみて、二日酔いしない奴をうらやましいと思った。

ロブの後ろにレインが立った。

「大丈夫?キャス。」

その声にロブは振り返った。

「兄さん、お帰り。」

「ああ、ただいま。コーディはどこにいてるかな。」

「ジゼルに洗濯機の使い方を教えてもらって洗濯してるよ。自分で洗濯したいからって。」

その話を聞いて、カスターはあきれた顔をして言った。

「だよねぇ。クレアさんの洗濯物をロブが回収してジゼルに洗濯させるなんてなんかおかしいよ。」

「お前はわかっちゃいない。切迫流産しかけたジゼルがクレアさんのことなら、何でもしたいって思ってやってることなんだよ。」

「へぇ、じゃ、救助隊の仕事はじめたら、クレアさんの洗濯物はロブが洗うのかい。」

ロブは、カスターのほうに振り返って睨み返した。

「え、兄さんまた、クレアさんとお仕事出るの?」

「まぁな。まだ、先の話だがな。」

そういうと、カスターの口を押さえた。

「また、危険なお仕事するのかな。心配してもしょうがいなのはわかってるけど。」

「お前に心配されても、どうしようもないな。」

困った顔をしてレインはロブを見ていた。

「一人前にもなれない僕が心配してもしょうがないし、逆に兄さんに心配かけちゃうよね。」

「腕が完治したら、鍛えてやるから、覚悟しておけよ。」

ロブは笑顔でレインにそういうと、カスターの口にふさいだ手を離した。

レインはその様子に安心してうなづくと、食堂の厨房に行った。

「キャス、ジゼルに二日酔いの薬をもらったのか。」

「もちろんだよ。僕はアレルギー体質で、じいさまの作ったワインじゃないと・・・・。」

バンバンとロブはカスターの背中をたたいた。

ゲホッゲホッとカスターが咳き込んだ。

「何するんだよ!」

「レインには連れて行くことを黙っててほしい。俺が話すまで。ジリアンには口止めしている。」

カスターはロブをまじまじと見つめた。

「あとで、展望台に来い。コーディを呼んで来る。」

「クレアさんは?」

「クレアさんは昼過ぎまで戻ってこないと思う。それまでに話をつけておきたい。」

「クレアさんに内緒の話なのか。」

「チガウ。」

ロブはしつこいといわんばかりの顔でカスターを睨み返した。

カスターはテーブルにまたうつぶせになった。

その様子をみて、ロブは食堂から出て行った。


ジゼルは心配そうにコーディに話をしていた。

「ロブはまた、クレアさんと仕事をするっていうことかしら。」

「ロブさんが話しない限りでは、私のほうからは何も申し上げられないです。」

「そうねぇ。ロブは肝心なことはあまり話しないから心配で。」

「気にかけていらっしゃるのは、ご主人のことですか。」

「気にかけても仕方が無いのはわかっているのだけれどね。

このスタンドフィールド・ドックで仕事をしている以上、ロブたちと関わらないようにするわけにいかないし。」

「そうやって、ドックを去った方がたくさんいらっしゃるのでしょう。」

「そうなのよね。でも、わたしたちは生まれる前から、このドックにいてるから。」

ジゼルは笑顔でそう答えたが、こころの内をコーディに見透かされて、聞きたいことが聞けずにいた。

ロブはその話を聞かずして、二人に近づいていた。

「あのジゼルさん。」

コーディがロブの姿を見かけて、言おうとしていたことを口ごもらせた。

その様子に、気配を感じジゼルは後ろを振り返った。

「やぁ、ジゼル。手間をかけさせてしまって悪い。」

「いいのよ。これくらい。ドッククルーっていう家族なんだから。」

「家族なら、心配ぐらいかけてもいいのでしょうけど、限度がありますよね、ジゼルさん。」

コーディはそう言って、ジゼルが言わないとしていることを察して、ロブに釘を刺した。

ロブは気に留めながらも、自分の用件を言った。

「努力はするよ、ジゼル。

コーディ、悪いが、用事が済んだら、展望台に来てくれないか、しておきたい話があるんだ。」

ジゼルはうなづいて、洗濯室から出て行った。

「わかりました。」

コーディの返事を聞いて、ロブも洗濯室から出て行った。

ロブはジゼルの後姿をみながら、立ち止まって考えていた。

(ディゴを連れて行くわけにいかないな。)


展望台にロブは図面を広げて考え込んでいた。

カスターが氷が入った袋を片手にもってあらわれた。

「話ってなんだい。」

カスターの姿をちらりと横にみて、また図面に目線をもどしたロブは言った。

「コーディが来てからだ。」

カスターは氷袋をおでこに乗せて椅子に腰掛けた。

半時過ぎて、コーディがようやく展望台にやってきた。

「遅くなってすみません。」

「いや、かまわないよ。」

ロブは図面をたたみはじめた。

カスターは氷袋の氷が解けてしまったのを確認して、テーブルの上に置いた。

「二人に話しておきたいことがあるんだ。」

直立不動でカスターは話を聞こうとしていた。

「何でしょうか。隊長!」

言いにくいそうな表情で、ロブは二人の目線をそらすように話した。

「レインやジリアンには、まだ、話をしないでほしいんだ。空挺救助隊の話を。」

コーディが口を挟んで言った。

「お気持ちはわかりますが、この機会を逃すと、あの子達の成長を見届けることができなくなりますよ。」

カスターはコーディの言葉に興味を示した。

「3ヶ月待ってほしい。その間に鍛え上げてみて、駄目だったら、搭乗させない方向で行きたいんだ。」

「クレアさんは納得ですか。」

「ああ、昨日、お開きの後、少し話させてもらったから、大丈夫だ。」

「しかし、ロブ、あの二人をドックに残しておくのは心配じゃないか。」

「ディゴを連れて行くつもりが無いから、後のことはディゴにまかせようと思っているんだ。

クレアさんとスワン村を目指して旅していたときもそうだったし。」

コーディは、ロブの話する様子をじっとみていて、本題に入ることを躊躇していることに気がついていた。

「2,3日中にドックを出る身として、そういう話は私に関係ないですよね、ロブさん。」

胸中を見抜かれて、しどろもどろになりながら、レインたちの話をした後、こう切り出した。

「クレアさんにこれだけは、俺の口から二人に話して置くように言われたんだ。」

ふたりは、神妙に聞く姿勢でロブの次の言葉を待った。

「レインとジリアンは、俺の弟たちではないんだ。」

「どういうことなんだよ、ロブ。何が言いたいんだ。」

カスターに突っ込まれて、さらに言いにくそうな顔をしていたロブだが、意を決して言った。

「レインは俺の子供で、ジリアンはフレッドの子供なんだよ。」

無論、カスターは叫んだ。

「なんだって!!!!」

BGM:「Last Smile」LOVE PSYCHEDELICO


第一章~第四章、第六章 登場人物の年齢


レイン=スタンドフィールド(13歳)

ジリアン=スタンドフィールド(11歳)

ロブ=スタンドフィールド(28歳)

カスター=ペドロ(24歳)

ラゴネ=コンチネータ(76歳)

ディゴ (33歳)

ジェイ(40歳)

テス(38歳)

ジゼル(28歳)

モナ=ロマーノ(41歳)

コリン=ボイド(13歳)

ジョイス=ボイド(40歳)

プラーナ(11歳)

キャシー(13歳)

ポーリア(13歳)

ケイト(13歳)

マーク=テレンス(53歳)

ミランダ=テレンス(49歳)

クレア=ポーター(33歳)

カイン(33歳)

レティシア=ハートランド(31歳)

コーディ=ヴェッキア(24歳)

セシリア=デミスト(31歳)

デューク=ジュニア=デミスト(35歳)

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