第三十六章 黒い森 6
ステファノにウエイター姿の白髪の男ジンが近づいてきた。
「どうかしたのか。」
「いや、トイレ待ち。」
「そうか、中の動きが怪しくなってきた。」
「怪しく?」
「そっちの交渉相手は2階の別室に入ったまま、出てこない。」
「お呼びがかからないと、出向けない。交渉室へいかないと、ことが運べない手はずだが。」
「黒い森の支配人が出入りしている様子がないから、怪しい。それから・・・。」
「それから?」
「暗号めいた言葉が飛び交っていて、『獲物がこちらに。』ということだった。」
ステファノが首をかしげていると、建物の外から、銃声がした。
「なんだ!」
ジンはすぐさま、自分の持ち場に戻り、ステファノは女子トイレに向かった。躊躇することなく、中にはいると、赤毛のオンナがステファノを顔めがけて足蹴りをしてきた。それを交わして、後ろに後ずさりして、応戦すると、フロアから煙が入り込んできて、銃声が鳴り響いていた。
「クソッ!」
赤毛のオンナと格闘を繰り返したが、相手はグリップの鈍器を取り出し、ステファノのこめかみめがけて殴ったので、倒れこんだ。ステファノの後頭部の髪をわしづかみして、壁にたたきつけた。
「ロブの大事な子息を奪取した。」
「ロブ?」と口にできないままに、なぜこのオンナがそんなことをしたのかと考えようとした。思い当たることがあったが、すぐさま否定になった。
オンナは拳銃を取り出し、ステファノの右足めがけて打ち込んだ。
「うがぁっっあぁぁぁぁぁ。」
銃声はあちらこちらで響き渡り、建物は暗闇につつまれていた。
オンナはステファノの髪をひっぱりあげて、耳に口元を近づけて囁いた。
「あの子をジョナサンのようにしてやるよ。」
「ジョナサン?誰だ?」という思いがよぎると、ステファノはまた壁に叩きつけられて、今度は気を失った。
黒い森という館に突入した緑の歩兵はマスクをして催眠弾を打ち込み、ウィンディを探していた。テオ自身はそこにレインとステファノがいてることを知っていたが、うまくことが運べなかったとしても、この騒ぎにまぎれて抜け出してくれるだろうと思っていた。
あちらこちらで銃声が鳴り響くことに違和感を感じた。進入しているのは緑の歩兵の3人だけで、一方向にしか行けていない。それなのに、侵入者があちらこちらと攻撃を仕掛けているように応戦している様子があった。催眠弾が効かないのか、黒い森の護衛と次から次へと出くわす。逃げ去る者は使用人だろうと思いながら、地下室に連れて行かれたであろうウィンディのところへ向かった。
一方、ステファノの隠し潜入者のジンは使用人として館に入り込んでいたが、銃声が鳴り止まないことに危機感を覚え、煙が立ち込めるなか、ステファノのところへ戻った。そして、血を流して倒れているステファノを見つけて、生死を確認し、抱きかかえて、連れ出そうとした。ジン自身はこの館の構造を熟知していて、隠し扉の存在を知っていて、そちらに入り、館から出た。館から離れて、振り返ると、館はあちらこちら煙が吹き出し、2階から炎上していた。
「いつの間に。」
ステファノをおろし、その場で手当てをしようとすると、誰かが近づいてきたので、ジンは胸元から拳銃を取り出し振り返って身構えた。
「ステファノ!」
そこにはレオンが立っていた。