第三十六章 黒い森 4
「キャプテンテオ、『緑の歩兵』から通信です。」
ジリアンはステファノの代わりに通信を受け、暗号じみた相手の名を口にしてから、模索していた。テオが自分の席から立ち上がり、「心配するな。」とジリアンに言った。どんな内容かわかっていたからだ。通信を受けて、「了解した。」というと、振り返ってニコラをみた。
「何でしょうか、キャプテン。」
「悪いが、ホワイトソードを離れたい。あとをニコラに任せたいのだが、いいかな。」
ニコラはわかっていた。テオが呼び出されるという状態になった出来事が何なのか、それも作戦のうちだったからだ。
「わかった。何が起きたのか言わないなら、それでもいいけど。」
テオはちらりとレオンをみた。ジリアンは理由がわからなかったが、目線を向けられたレオンは直感的にわかった。
「ウィンディになにか起きたのですか。」
テオはゆっくりまぶたを閉じてみせた。ニコラはわざとらしく、ジリアンに耳打ちして、「ウィンディって誰?」って聞いた。
「レオンのお母さんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
張り詰めた空気が漂い、ニコラ以外は思っていた、「なにもこんな時に。」と。
「『緑の歩兵』からは、ウィンディの情報を流してくれる手はずだった。」
「それで、誘拐されたんですか。」
「略奪だな。居場所を突き止めたらしいが、救出するのに人数が足りないのだという。」
「それで、キャプテンテオが駆けつけるというわけですね。」
「キャプテンテオだけでいいんですか。私たちで役に立つのなら・・・。」
「エリオとニコラを巻き込むつもりはない。」
レオンとジリアンも賛同しうなづいた。
「でも、レオンとジルを連れて行けないでしょう。」
「もちろんだ。」
「いや、僕も行きます。行って、後方支援します。」
「では、僕も。通信にはまだ疎い面もあるけど。」
「だめだ、連れて行けない。」
「そんな・・・。」
話すべきではなかったと後悔したテオだったが、ジリアンは絶対つれていくわけにいかないと思っていたから、レオンだけ連れて行くことを認めた。
「二コラ、ジリアンを頼む。」
「了解。大丈夫ですよ。帰還をお待ちしております。」
二人は準備を始めた。『緑の歩兵』に言われて武器を用意するとテオは倉庫へ行き、レオンは負傷することを想定して救護箱の準備をしに行った。その場へジリアンがついていき、診療室に入ると、レオンはドアを閉めた。
「ジリアン、もし、なにかあったら、トランスパランスの先導師に連絡してくれないかな。」
「なにかあったらって、ニコラたちを疑っているの?」
「疑うということじゃなくて、なにかある感じがするんだ。彼らたちの信念は固い。でも、それは僕たちの思うところとは違う気がしてしょうがないんだ。」
「う~ん。わかった。なにかあったらなんて、無いことを祈るよ。」
「もちろんだ。」
レオンはジリアンに連絡先を手渡した。そして、机の引き出しから、機械を取り出した。
「ステファノからは、僕がこのホワイトソードを離れるときに、スイッチを入れて置くように言われたものがあるから、そうするね。」
「ステファノも疑ってるの?」
「うん、ステファノは完全に疑っている。」
「そうは思えなかったけど。」
「その辺は芝居がかかってるけど。まぁ、とにかく、この機械が鳥にしか聞こえない超音波を出すから、ホワイトソードになにかあったら、居場所だけでもわかる。」
「うん、わかったよ。」
ジリアンはレオンの手をとった。
「かならず、戻ってきてね。」
「もちろんだよ。」
「レインには同じこと言わなかったの?」
「言っても無駄なような気がして・・・。」
「何だよ、それ。あとで後悔してもしょうがないんだぜ。」
レオンの手を離し、診療室から出た。
「分かっている。いつも一緒だったから、離れていても戻ってきてくれるって思っていたから、言わなかったこと。」
いつも気が気でないレインでも、スタンドフィールドドックから離れることなんて考えられなかったから、失う怖さを感じ得なかった。
準備ができ、テオとレオンはホワイトソードを降りた。二人の姿が見えなくなるまで、眺めていたジリアンの後方から手がのび、布で口元をふさいだ。驚いたと同時に左横にはニコラがいることを確認して、しばらくして気を失った。
「悪いようにはしないから、今は眠っていてほしい。」
後ろに倒れこむジリアンを抱えて、エリオは言った。