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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第三十五章 こころ模様
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第三十五章 こころ模様 6

 エリオとニコラは人気のない暗い路地へと歩みを進め、消えたり点いたりする電光看板のある店のドアを開いた。中は薄暗くて所々にオレンジ色の灯りがついた丸いテーブルがある店内で、二人は前から知った様子で奥へと進んだ。奥にはカウンターがあり、スキンヘッドのバーテンダーが二人の姿をみて、グラスを磨いていた手を止め、胸元から紙切れを差し出した。エリオは肘をカウンターにつき、紙切れを手に取った。バーテンダーは二人に赤いカクテルを用意して出した。ニコラはグラスを手に取り、カクテルをゆっくりと回し、炭酸を抜いていた。

「炭酸苦手だったかな。」

「滅多に来ないから、知らなくて当然。」

 バーテンダーの言葉にそ知らぬ顔でニコラは天井を仰いだ。

(野郎どもと、用もないのに、来るわけがない。)

 ニコラは目線をエリオに向けた。

「何を?」

「『準備万端。計画実行する。』それだけ。」

「あたしたちって、計画を反対していたわけじゃないけどね。」

「ニコラ、今、あのときの気持ちのままでいてるか。」

 ニコラの目線はまた天井を見て、そして目を閉じてため息をついた。

「パトリックはわかっていたんだね。あたしたちの気持ちが揺らぐの。」

「ああ。馬鹿な振りをするのは楽じゃないが、騙すのはもっと楽じゃない。」

「あたしたちはうまくやっていると思うよ。でも、あの子たちを騙すのは気が引ける。」

「パトリックが危惧していたのは、やっぱりレテシアの息子のことだろう。」

「会ったことがなくても、レテシアを見ればわかるもんね。」

 今度はエリオがため息をついた。

「いや、あれは演技じゃなくてほんとうに憧れていたんだ。」

「はいはい。」

 ニコラはカウンターに両肘をつき両手でグラスを握り締めて、カクテルの泡がなくなったのを確かめた。

「炭酸抜けたら、爽快感が無くなるんだぜ。」

「喉越しが悪いカクテルだったわけ?」

 バーテンダーは口元に笑みをうかべて言った。

「血の味がするからですよ。」


 空港は豪雨になり、激しい雨音がホワイトソードに響いた。操縦室のなかに冷気が漂い始めて、ステファノは身震いをした。ジリアンは苛立ちから足を小刻みに揺すっていた。

「さっき、二人は戻ってきたから、もうすぐここに・・・。」

 ステファノの言葉でジリアンは睨み返す。その態度にステファノは呆れた。しかし、操縦室に入ってきたのはレオンだけだった。中に入ったとたん、二人は言った。

「レインは?」

「ベッドの部屋に直行。」

 ジリアンは口にしなかった。外は豪雨。レインのこころのなかも激しい雨が降っているのだと。

「じゃ、予想通りに。」

「ああ、みごとに。二人があらわれた。神様がいるなら、意地悪だね、ほんと。」

「で、三つ巴?」

「うん。」

 レオンは不可解な顔をしながら、こころのなかで皇女フェリシアに会えたことを喜んでいた。

「レインにまとわりつく不運ってやつなのか。」

 ジリアンは副操縦士用の椅子に音を立てて座り込んだ。ステファノとレオンはただ驚いていた。

「レインは優柔不断なんだよ。煮え切らないというかなんと言うか。だから余計に付け込まれる。」

「まぁ、無理も無い。」

「なにが?」

「ほんとうに人を好きになるというか愛するというのがどういうものか理解できていないからだ。」

「へぇ~。」

 レオンは関心して見せたが、ジリアンはそうじゃなかった。

「ただ、傷つきたくないだけなんだ。」

「まぁ、そうだな。」

 ジリアンは握りこぶしをつくって、レインへの苛立ちから冷静になろうとした。そして、思い出したかのようにつぶやいた。

「あの二人にあったコーネリアスはどうしたの?」

「ああ、皇女殿下の威圧感に最初震えていたみたいだけど、あとは毅然とした態度とってかな。」

「威圧感?」

「ああ、なんていうかオーラが出ているって言うか。『わたしは皇女フェリシアなのよ。』って感じ。」

 ジリアンもステファノも不思議だというような顔をするしかなかった。自分で言った言葉にレオンは苦笑した。

「ああ、なんか、言い表すことできないや。」

「コーネリアスは大丈夫かな。」

「逃げるようにして去ったから、様子はわからないけど。エミリアさんの存在もなんとなく分かったんじゃないかな。」

 ステファノはジリアンの肩をポンと叩いた。

「なる様にしかならないさ。」

「これでコーネリアスも危機感を感じるかな。そういや、どうしてレインに会いに来たんだ?」

 思い出したようにレオンはコーネリアスの開口一番に言ったことを話した。そのことでステファノ自身が不可解に思っていたことがあり、その情報を手に入れようとしていたが、そのことを二人には話さなかった。

「大丈夫、キャプテン・テオがいるから。」

 そう言って、ステファノは二人の肩を抱き寄せた。


 ベッドにうつ伏せて泣き続けていたレインは打ちひしがれていた。想いを断ち切ろうと思っていた。叶わぬ想いだと確信していたからこそ、好きだという気持ちから目を背けていた。ただただ、はっきりしない態度でいる自分に煮え切らない思いがつのった。

(何、泣いているのだろう。そんなに弱くてどうするんだ。)

 自分に叱咤しったしたところで強くなれるはずもなく、うつ伏せから起き上がり、ベッドから出た。そして、窓に歩み寄り、外を眺めた。豪雨の様子を見て、気持ちが余計に重たくなった。

「いっそ、好きだと言って、失恋したほうがすっきりするかな。」

 考えたそばから首を横に振り、うな垂れた。

「そんな勇気無い。」

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