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第五章  セシリア 4

登場人物


ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)

ゴメス=スタンドフィールド(主人公の父)


ダン=ポーター(前タイディン診療所の医者)

クレア=ポーター(ダンの養女。医者)


セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。前にスタンドフィールド・ドックにいてたマーサの知人。愛称セシル)

「ゴメスは有無を言わさずだな。」

「悪いのは俺ですから。」

ロブはダンの部屋で手当てを受けていた。

女性は寝息をたてて穏やかに眠っていた。

「ゴメスに聞いたのだが、急に叫び声をあげていたとか。なにか言ったか。」

「何か言った気がするんですけど、セシリアとしか聞き取れなかったのです。あまりの大きな声で叫ぶ様子に驚いてしまって、それ以外は思い出せないんです。」

「そう、セシリアという名前の女性か。」

ダンは何かひっかかるようで、その名を繰り返し唱えるように頭の中でつながりを探していた。

「あの、先生。死んでいた男は、黒衣の民族のなかで戦士ですよね。」

「戦士か。ロブはそう思ったのはどうしてなんだ。」

「筋肉質な気がしたんです。腹筋が腕に当たったので。」

「そうか、戦士の子なら、戦士にするべく、麻薬を使う可能性があるな。」

「麻薬って何ですか。」

「うう~ん、理性を失わせる悪い薬といえば、わかるかな。」

「悪い薬なんてあるのですか。」

「ああ、あるよ。酒は体に悪い作用と良い作用をもたらすのはわかるだろう。」

「ええ、わかります。」

「悪い薬のなかには、痛みを感じさせないモルヒネという薬もあって、鎮痛剤という薬として使われる。

麻薬は完全に悪い薬だな。理性を失わせるだけでなく、副作用として常習性が強い。モルヒネもそうだな。」

「やめられないというわけですか。」

「そうだ。」

「その麻薬が使われるって・・・。」

「つまり、恐怖を取り除くために、理性を失わせるのだ。

スワン村で読んだ本には、戦士は生まれる前から麻薬を使われて、生まれてからも麻薬を使われて薬漬けにされているという文章があった。」

「では、この女性は麻薬を使用されているということですか。」

「そうだな。その可能性がある。穏やかに眠っているのに、急に叫び声をあげるのだから、理性を失って普段出ない人格がでたのだろう。」

ロブには、理解しにくい内容に、ダンの話を聞いてうなづくことしかできなかった。

「ロブ、このことは、誰にも言わないように。」

「あ、はい。わかりました。

それから、先ほど、黒衣の民族の襲撃にあって、こんなものを。」

ロブは、甲板に投げ込まれたものをダンに手渡した。

「こ、これは・・・・。」

そういって、ダンは黙り込んだ。

「跡継ぎって、あの赤ん坊のことでしょうか。」

ロブは不安そうにそういうと、ダンは、女性が起きていないかどうか確かめてから話した。

「ロブ、このことも内緒だ。決して誰にも話してはいけないよ。わけは、診療所にもどってから話そう。」

「はい、わかりました。」

ダンはそういうと、ロブに手渡されたものを医療セットの箱に仕舞いこんだ。

そして、思い出したように、ロブに言った。

「ロブ、君は命を粗末にするような行動はしてはいけない。」

「はい、父からも言われました。」

「我々や、君を取り巻く連中みんなは、君やレテシアが幸せな様子を、暖かく見守ってきたしこれからもそうしていくだろう。

レテシアが悲しむ姿は出来たら見たくない。それは君にもわかっていることだとは思う。」

「肝に銘じておきます。手当てしてくださり、ありがとうございました。」

ロブは神妙な面持ちで頭を下げると、部屋から出て行った。

ダンは大きなため息をつき、寝ている女性の顔を見ながら、自分がしでかしてしまったことの重大さに不安を覚えた。


女性はその後、意識を回復したが、死産であったことを告げられると、「混血の子ですから。」と一言だけ言うと、後は何も言葉を口にしなかった。

その言葉にダンもゴメスも、赤ん坊を母親から引き離したことは良いことではないが苦悩や困難を避けるための判断だと認識できた。

アレキサンダー号は、その後、何事もなく、航路を飛行し、3日後に積荷を降ろして、スタンドフィールド・ドックに帰還した。

ダンはタイディン診療所へ救出した女性を連れて行き、そこで治療を続けていくことにした。

その後、ロブが診療所をたずねて行った。

診療所の玄関が「休診」と張り紙がされていたので、ロブは裏口から中に入ろうとした。

裏口は不用意にも、鍵がかけられず、ロブは勝手にはいっていった。

足音に気がついたのか、部屋の中から、クレアが出てきた。

「ロブ、何しに来たんだ。」

クレアは小声で言葉をかけた。

「なにかあったんですか。」

「いま、大事なこところで・・・。」

ロブに静止しているように手で合図をすると、クレアは部屋の中にもどった。

クレアは部屋から少し顔を出してきて、ロブに部屋へ入るように手招きした。

ロブが中にはいると、ダンが紐に玉のようなものをぶら下げていて、それを女性の目の前で振っていた。

「セシリア、君はいま何歳でどこにいるのかな。」

「13歳で、宮殿にいてます。」

ロブはその様子をみて、クレアに小声で言った。

「先生は何をしているのですか。」

「退行催眠というものだ。心理治療で使われるものだよ。」

クレアも小声でそういうと、唇の前に人差し指を立てた。

「どうして、宮殿にいてるのかな。」

「どうしてって、わたしは第一皇女ですもの。皇帝ジョアンの皇女ですもの。」

(やはり、そうか)

ダンは言葉を口にせず、こころのなかでつぶやいた。

「では、セシリア、君は黒衣の民族にどのようにして、連れ去られたのかい。」

「連れ去られたのではないわ。わたしは宮殿にいてるのが退屈で、自ら連れていってとお願いしたの。」

その言葉に3人とも愕然とした。

BGM:「SORA NO LION」エゴ・ラッピン

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