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第三十四章 燕尾短し 4

 スタンドフィールドドックをホワイトソードは旋回する。ヴェンディシオン川と分流したオホス川に挟まれたラズラルナ島の岩山が、復興を急ぐ街に影を落とす。上空から眺める街は涙なしでは見ることができなくらい悲惨で、改めてレッド爆弾の恐ろしさを思い知ってこの世からなくなることを望んだ。


 レインとジリアンはグリーンオイルの種が入ったタンクを点検していた。成長を遅らせたり早めたりしないように調整することを条件にされているので、手を抜くわけにいかない。スカイエンジェルフィッシュ号と違って、技術的な専門の仕事にすこし興奮気味に気持ちであたっていた。

「シーアリアはわかっているんだね。」

 ジリアンの言葉に耳を傾けながら、出発前のことを思い返していた。

 出発前に、レテシアは務めて笑顔で見送ろうとしたものの、レテシアに抱かれながら雰囲気の違うレインをみて泣き出したシーアリア。そしてレテシアの腕から落ちそうなくらい暴れだした。その様子を目にしてレインはようやくシーアリアへの情愛を湧き出てきたことを感じた。唇を噛んで辛さを心の奥底へ押し込もうとしていると、ロブから手を払われるしぐさをされた。涙をこぼす前にシーアリアに背を向け、ホワイトソードに乗り込んだ。

「小さな手でよく僕の顔を撫で回したり、掴んでたりしていた。ほんと、まだ、小さい。」

「ディゴJRも小さい時そうだったよ。いまじゃ、ジゼルの足元を走り回って大変。次に会うときはシーアリアもそうなっているんだろうね。」

「はぁ~、どうなんだろう。僕のことなんか忘れて泣き出したりするんじゃないかな。」

 すぐに違うことを考えて、レインの頭の中でエミリアを思い起こしていた。もし、こんど会うことがあったとしたら、きっと無視されるんだろうと。

「そんなことないよ。だって、レインはお兄ちゃんだよ。嬉しくてしょうがないと思うな。」

 二人はお互いの想いをよそに会話が進んでいることを知らないでいた。そして、ジリアンはセイラを思っていた。はじめて会ったとき3歳だったセイラが兄だと知らず、ジリアンになついていた。何も知らされていなくても直感的にわかっていることを思わせてくれた。父親は違えども同じ母親から生まれた妹の存在にジリアンはこころが暖かくなったことを感じていた。

 いつになくニヤけているジリアンをみて、レインは理解できないでいた。それをジリアンは気づいて呆れた。

「セイラのことだよ。」

「ああ。そっか」

 レインの思考回路が浅いところをいつも嘆いていたが、痛感した。そして次の言葉が予想がついていたので、言わせないようにしようとした。

「あ、でも・・・。」

「コリンとは違うからね。」

「・・・だね。」

 その兄弟の存在を知らなかったジリアンだったが、兄弟だと知らずに会っていたうえで会えばいがみ合っていた者同士のコリンと違い、セイラとは会う前から知っていたからだ。

 グリーンオイルの種は深い緑色を発色し、息をするかのように泡を立てていた。

「酸素の量が多いのかな。」

 レインの言葉にジリアンは眉をひそめた。

「暗幕したほうがいいのかも。蛍光灯の光でも反応しちゃう。」

「そうだね。」


 ホワイトソードを操縦するのはニコラだったが、冷や冷やしながらステファノは見ていた。

「なんだよ、ステファノ。なにか文句でもあるわけ。」

「いや、なに、その小さな体でよく操縦しているなって思ってさ。」

「足は長いんだよ。」

「関係ないね。」

「文句があるなら、替わるかい。資格は持っているんだろ。」

「じゃ、誰が通信をするんだ。」

 ニコラは後方を振り返った。そこにはキャプテン・テオがいた。

「キャプテンが通信なんかしたら、相手に舐められるだろ。」

「誰がやろうがかまいやしないさ。」

「いや、かまうね。」

 ニコラはわざと操縦を間違えてみせて、機体を傾けさせた。

「うわっ。」

「お、いったいどうしたんだ。」

 ニコラはニヤニヤしながら、操縦を元に戻したが、ステファノは顔色ひとつ変えなかった。

「思い知らされるね。」

「どんな状態になろうが、この小さな体のニコラ様がホワイトソード操っていくんだよ!」

 そこでようやく、ステファノとニコラが揉めていることを知ったテオは二人の間に入った。

「私を誰だと思っているんだ。」

「キャプテン。」

「キャプテン・テオ。」

 ステファノとニコラは何を言い出すのだと言わんばかりにテオを見ずに答えた。

「元空軍五部隊隊長だ。エアジェットの操縦士だ。」

「へぇ、その巨体でねぇ。」

「特別仕様の機体だった。」

 これからテオの自慢話が続くのかと二人はうんざりしていた。テオはエアジェットで活躍した内容を次から次へと話し始めた。二人はただ、自分たちのやるべきことをテオの話に相槌をうちながら、やってのけた。

 ニコラはレーダと前方を見て、なにか悪巧みを思いついたかのようだった。

「キャプテン、操縦のお手本を見せてもらえませんか。」

 ステファノはそれはいい案だとばかり、二人に目配せをした。ニコラはそれを不適な笑みで返したのでステファノはいぶかしげレーダーを見た。前方には雲の谷間が見えていたが、レーダーには雲の中に山が隠れていることを示していた。

「良かろう。」

 テオは尽かさずレーダーと前方を交互にみて、ニコラから操縦を交代した。最初のうちは何事もなく、飛行していたが、雲が流れて山肌が現われると、それを避けて機体を傾けた。しかし、傾けた方向にも山が飛び出してきて、テオは操縦桿をすばやく切り替えした。

「うわぁっ。」

 機体が左右に揺れ動き、声を上げたのはステファノだった。ニヤついているニコラは取っ手を握り締めて体を安定させていた。

「大丈夫ですかぁ~、キャプテン。」

 ニコラはわざと大きな声で言って見せたが、顔色変えずにテオは操縦していた。

「大丈夫だ。」

 しかし、このあと、ニコラも平気な顔が出来ない状態に追い込まれた。

 左右をゆりかごのように揺れる機体で周囲の雲が流れていき、いくつもの切り立った山があらわになった。山肌に当たって返ると変な気流が出来て、機体はその気流で上から押さえつけられていた。

「ええ!!」

 予想もしない状態にニコラが叫んだ。ステファノは青い顔をして両手で取っ手を掴んだ。テオは無表情のままで操縦したが、機体はどんどん降下していった。

「ああ、これはエアジェットと違っていたんだ。」

 その言葉に、ステファノとニコラは驚愕した。そして、ニコラはこころの奥底から叫んだ。

「これじゃ、思い知らされる!!!!」

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