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第三十四章 燕尾短し 1

 白い羽を広げた鳥のような中型空挺ホワイトソードは、自由自在に飛行体制を変え、切り立った崖を難なく飛行できるところから、名づけられた。修理を加えられたと言っても、白いとは言いがたい黒ずんだ翼でスタンドフィールドに現われた。スタンドフィールド・ドックのメンバーになじられて、機体からは薄汚れた服装の男女二人が降りてきた。

「薄汚れたホワイトソードからそのまんまの乗組員が出てくるとはな。」

 男はノースリーブのシャツで腕に刺青まがいのグリーンオイルの染みがあり、筋肉がひきしまり、体格はディゴに負けないくらいデカかった。

 女は肩より長い髪が痛んでいて整っておらず、切れ端の生地を縫い合わせたような安っぽい服装で男と間違えそうなくらい清潔感がなかった。

「おおい、テオさんという偉い方はいないのか。」

「オイオイ、見世物じゃないんだ。関係ない奴は自分の仕事していろよ。」

 男も女も、口が悪そうだとみんな口々に言うと、その場から去っていった。その場からいなくなれないジリアンは眉をひそめてみていた。ジリアンと目が合った女はにやけてみせた。

「坊や、ロブかテオさんを呼んで来てくれないかな。」

「僕は坊やっていう名前じゃないんだ。ジリアンという名前がちゃんとあるんだよ。」

「それで、自己紹介しているつもり?」

 ジリアンは女をにらめつけることしか出来なかった。

「はいはい。ちゃんと挨拶させてもらうよ。ジリアン君。あたしゃ、ニコラ。」

 にらんだ顔つきを緩めて、ニコラの様子を伺った。ニコラは男のほうを指差した。

「あいつは、エリオ。」

 エリオはにやけたままで、ジリアンをみていた。ジリアンはすこしため息をついた。

「しばらくお待ちください。」

 そして、少しお辞儀をして、足早にデッキの奥へ行った。

「礼儀正しいじゃないか。」

「こっちが礼を尽くせばの話。ちゃんとしろよ、エリオ。」

 二人の会話が聞こえていたジリアンはつぶやいた。

「この先が思い知らされる。」


 テオはホワイトソードが到着する前に、スタンドフィールド・ドックに着いたばかりで、ロブと打ち合わせする時間が必要だった。ジリアンが来る前にステファノから到着の連絡は着ていたので、ジリアンが来ると、食堂で待ってもらおうと指示をした。ジリアンは嫌な顔をして、返事をしたので、ロブは理由を聞いた。

「とんでも無い人たちが来た感じなんだ。」

「ジリアンが嫌がるくらいなら、相当かな。」

「そうでもないけど・・・。」

「わかった。レイン、代わりにいってきてくれないかな。」

 ロブの指示をさえぎるようにレオンが行くと言い出した。レインとジリアンは拍子抜けしたが、ウィンクするレオンをみて、反対はしなかった。

 レオンの思惑は、ジリアンの言う「とんでもない人たち」が家探れ立った荒んだ人たちだと推察したからだ。そういう人たちとは、難民キャンプで慣れていたので扱えるとおもっていた。

 ニコラとエリオの前に現われたレオンは挨拶を済ませると、二人を食堂へ連れて行った。

「テオさんは、さっき到着したばかりでロブさんと打ち合わせをしているのですよ。」

「ロブっていうのは、男前だと聞いたぜ。ニコラ惚れるなよ。」

「何いってんだよ。あたしゃ、男はコリゴリだって。」

 他愛もない二人の会話がわざとらしく聞こえるレオンは、内心、気が抜けないと思った。二人を食堂に案内し、テーブルに着くよう促すと、レインが挨拶をし、飲み物は何がいいかとたずねた。ニコラはブラックを頼み、エリオはレインの顔をまじまじと見ていた。

「僕の顔になにか?」

「いや、誰かに似ていると思ってな。」

 キッチンの奥で飲み物の用意をしていたジリアンは手を止めた。

「ふっ、女の子みたいな顔だから、振られた女の顔に似てるっていいたいんだろ、エリオ。」

「馬鹿か。男だって俺だってわかってる。だから、余計に・・・。」

 いつものことだから、レインはもう機嫌の悪い顔をしなかった。ただ、軍人でもない二人がレテシアを知っているかどうかという点で言おうか言わないか迷った。

「レテシア=ハートランドだ。ロックフォードファミリーにいてたな。」

 エリオの口から出てきたのは、一時軍を抜けていたときにいてたアクロバット飛行のプロダクションの名だった。

「そうです。僕の母はレテシア=ハートランドです。」

 開き直ってそう答えた。

「へぇ、マジかよ。そっくりだな。ロックフォードファミリーにいてたころはファンでポスター持ってたんだ。」

 エリオの嬉しそうな顔をみて、一抹の不安を持ったレインは後ろを振り返った。レオンがニヤ着いていてので、すこしむかついた。その様子を見て、エリオはすこしうろたえ気味に言った。

「え、え、レテシアってココにいてるのか。」

「今はいてません。エリオさん、飲み物は何にしますか。」

「俺は甘党なんだ。砂糖たっぷりのコーヒーにしてくれ。」

 ニコラは二人の会話をはさむように言った。

「このドックはあんたみたいな、10代しかいないのか。」

「馬鹿か。さっき、見物人が何人かいてただろう。」

「さっきから、あたしのこと馬鹿かってばかり言ってんじゃなないよ、エリオ。」

 レインはふたりの間に入って、収めようとした。

「レテシアはココにいてるのか。」

「今はいません。」

「レイン、あたしたちのことは、呼び捨てでいい。さんづけとか気持ち悪いんだよ。」

 レインはそれ以上何もいえなくなった。

「今はいませんって。ドックにはいてるのかぁ。」

 レインの後方でレオンはしきりに笑いを堪えていた。目配せで助けを求めると、ステファノが呼びにやってきた。

「打ち合わせが終わったので、展望室に来てほしいって。」 

登場人物

レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)17歳

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の従弟・愛称ジル)15歳

ロブ=スタンドフィールド(主人公の実父)32歳

レティシア=ハートランド(元空軍少尉。主人公の実母)35歳

シーアリア(主人公の妹)生後6ヶ月

ディゴ (スタンドフィールド・ドックの板金工)37歳

ステファノ(ドックのクルー、北の民族)25歳

ジゼル(ディゴの妻。)32歳

ディゴ・JR(ディゴとジゼルの息子)6歳

テオ=アラゴン(元空挺第五部隊隊長・少佐)45歳


セリーヌ=マルキナ(デューク=ジュニア=デミスト理事長の第六秘書)29歳


エミリア=サンジョベーゼ(空軍少尉。皇女殿下のルームメイト)20歳

カイン(山岳警備隊パイロット。カスターの元同僚)38歳

ジェフ(元山岳警備隊パイロット。レテシアの同級生)35歳

デューク=ジュニア=デミスト(現グリーンオイル財団理事長)41歳

コリン=デミスト(デュークの養子。ジリアンとセイラの父親違いの実兄。)17歳

セイラ=デミスト(セシリアとデュークの娘。)7歳

カミーユ(セイラ付きのメイド)24歳

マルティン・デ・ドレイファス(コン・ラ・ジェンタ皇国の皇帝。セシリアの実兄。)40歳

フェリシア=デ=ドレイファス(皇帝の第一皇女。空軍少佐。)20歳


コーネリアス=アンコーナ(ワイナリー農園のオーナー・食品企業の財閥の娘)15歳

ピエトロ(コーネリアス付きの執事)48歳


イリア 18歳


ニコラ(ホワイトソードの乗組員)23歳

エリオ(ホワイトソードの乗組員)26歳

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