第五章 セシリア 3
登場人物
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)
フレッド=スタンドフィールド(主人公の長兄)
ゴメス=スタンドフィールド(主人公の父)
ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)
ダン=ポーター(前タイディン診療所の医者)
セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。前にスタンドフィールド・ドックにいてたマーサの知人。愛称セシル)
レティシア=ハートランド(元ホーネットクルー・グリーンエメラルダ号のクルー)
「ロブ大丈夫か、叫び声が聞こえたのだが。」
ロブは我に返り、立ち上がって、ドアを開けた。
「あんまり大きな声で叫ぶから、驚いてしまったよ。」
ゴメスをみて、そのあと振り返ると、ベッドの上の女性は、何事もなかったように眠っていた。
「なにを叫んでいたんだ。」
「よく、わからない。自分のことをセシリアだと叫んでいたのだけはわかったよ。」
「セシリアというのか。」
ゴメスは、ダンの話を聞いていて15歳のロブに混血児の悲惨さを理解するのはまだ早いだろうと思っていた。
「操縦をディゴと交代したの?」
「ああ、そうだ。気の毒な話をお前にさせるのはちょっと酷だな。ダンの奴は、思い立ったら即行動だからな。
俺が代わろう。ロブ、お前はディゴの助手をしていなさい。」
「はい。」
ロブは胸をなでおろすように、ゴメスの言うことをきいて、その部屋から出て行った。
ロブが操縦室にはいると、ディゴは自動操縦に切り替えていて、くつろいでいた。
「ディゴ、出産に立ち会ったって本当かい。」
「もう、驚いたぜ。ポーター先生はいきなりだもんな。湯を沸かして呼びにいったら、頭がでかかっているといわれてさ。」
ディゴはあきれたもの言いをしてて、ロブは苦笑いするしかできなかった。
「ロブ、黒衣の民族の男は死んでいたのは事実か。」
「ああ、目を見開いていたけど、目の前で通信をきるのに手を伸ばしても、ビクともしなかったよ。」
「追撃してきたのが、軍か黒衣の民族か、どっちかによるなぁ。」
「どっちもだと思う。」
「はぁ、どういうことだ。」
「追撃してきたのが、軍だとして、墜落した後、様子を見に来たのが黒衣の民族だと思うんだ。」
「駆け落ちしようとして、境界線を越えたら、軍に追撃されて、撃墜されたってことかな。」
「駆け落ちってなんだよ。」
ディゴはロブに言われて、開いた口がふさげなかった。
説明しようにもニュアンス的なものしか知らなかったからだ。
「あ、あれだよ、男と女の愛情のもつれみたいなもの。」
「はぁ~、なんだよ、それ。それで死にそうな目にあって、境界線を越えるというのか。」
ディゴは半ばあきらめた。
「まぁ、お前には理解できないような話かもな。」
「ディゴ、俺を子ども扱いするのかよ。」
「ああ、悪い。もう、お前は子供じゃなかったなぁ。なにせ・・・・。」
レーダーが何かを捉えて、赤いランプがついた。
「何かが急接近しているみたいだ。」
「なんだ。」
ディゴは、自動操縦から手動に切り替えた。
「俺、甲板言ってくる。」
「ああ、頼む。」
アレキサンダー号は山間部を抜けたあと平野に入っていた。
ダンたちを地上に降下させるために、高度を下げていた。
あたりは濃霧から開放されたものの、上空に厚い雲が多い、あたりはうす暗かった。
ロブが目を凝らして後方を見ていると、赤に黒いボーダー模様のエアジェットが向かってくるのが見えた。
ものすごいスピードで近づいてくるので、アレキサンダー号に接近するのに、時間がかからないと思えた。
ロブは通信でそのことをディゴに伝えると、中にもどり、ブルーボードを出す用意をした。
操縦が自動から手動に切り替わったことを察知してゴメスが操縦室に通信で様子を聞きだそうとした。
「なにがあったんだ、ディゴ。」
「ロブが甲板へ様子をみに行きました。赤と黒のエアジェットがこちらに向かっています。」
「ロブはまだ、甲板にいてるのか。
「偵察するだけといって、ブルーボードを出しに行ってます。」
「馬鹿な。無茶なことをさせるな!ディゴ。」
「申し訳ありません!」
ロブはブルーボードの上にのり、翼の真ん中を押し上げると、操縦桿がでてきて、セーブローブを体に巻きつけると、低い天井のレバーを引いた。
床の部分が開いたので、ブルバードはそのまま、斜めにむかって降下した。
ロブはブルーバードの機体外から操縦して、飛行した。
風を機体にあて、機体の先を上向きにすると、ジェット噴射をして、アレキサンダー号の上にでてきた。
旋回して、赤と黒の機体と平行にすれ違った。
ロブはすれ違いざまに相手の機体を確認した。
赤と黒のエアジェットの上部には、白い長髪の人間が、足を翼に固定して、刀のようなものを握ってたっていた。
操縦席には人がいるのをロブが確認していると、そのエアジェットは背面飛行をした。
アクロバット飛行に、逆さづり状態になったその白髪の人間は、刀を振り回し、アレキサンダー号の通信アンテナの先を切り落とした。
そのあと、片手だけで刀をもち、もう片方でポケットから丸いものを出して、アレキサンダー号の甲板めがけてそれを投げ込んだ。
赤と黒のエアジェットと距離を置いて、旋回しているロブはその様子をみていて驚愕していた。
(黒衣の民族の戦士は命知らずだと聞いていたけど、むちゃくちゃな飛行乗りをするんだ。)
ただ見ていることしか出来なかったロブは、旋回しながら、赤と黒のエアジェットが去るのを見届けると、アレキサンダー号の下にむかって降下した。
アレキサンダー号にもどったロブは、機体から降りると、即座にゴメスがやってきて、ロブを殴りつけた。
「俺の指示が無いとブルバードを出すなと、言っただろう!」
「はい、ごめんなさい。」
「『ごめんなさい。』ではない、『申し訳ありませんでした。』だ。
命の危険を冒すようなことを平気にしでかすな。
お前の体は、お前だけのものではなくなるのだぞ。わかっているのか。」
「はい。」
「お前が命を落としたら、レテシアが悲しむことをいつも頭の中において置くのだ。わかったな。」
「はい。わかりました。」
ロブは殴られた方の頬を手で押さえた。
ロブの口から血が出ているのをみて、ゴメスがいった。
「ダンが戻ったら、口を診てもらうんだ。切れている。」
ロブがうなづいたのをみると、ゴメスは女性がいてる部屋に戻った。
ロブは、甲板に行き、先ほど、投げ込まれたものを確認した。
それは石を紙で包んだものだった。
紙を広げると文字が書かれていた。
(跡継ぎを返せ)
BGM:「Over The Sky」Hitomi(黒石ひとみ)