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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第三十三章 青眼の姿勢
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第三十三章 青眼の姿勢 4

 ミランダを抱えて診療所に戻ると、マークがあわてていた。

「いま、スタンドフィールドから電話があって、ミランダの様子が 変じゃなかったってあったんだ。」

 レオンは気を失ったミランダをみた。

「いま、もう大丈夫。気を失っているだけだから。」

 やけに落ち着いた様子のレオンにマークは少々驚いた。マークは ミランダを抱きかかえて寝室に寝かせると、台所で用事を済ませた レオンに呼びかけた。

「何があったか、話をしてくれるかな。」

 しばらく黙ったままのレオンが口を開こうとすると、電話のベル が鳴った。

「もしもし、タンディン診療所です。」

 マークがそれから何も言わず、受話器に耳を傾けたままの姿に、 レオンは様子が変だと察した。

「もしもし!もしもし!」

「どうしたの?マーク!」

 驚愕した様子のマークが言った。

「銃声が聞こえて切れた。」


 レオンが心配してウィンディの情報を手に入れようとした先は、 元空軍少佐のテオだった。「調べる。」とだけ言われて連絡が途切 れた。事情をロブに話すと、横で聴いていたステファノが知人に連 絡をとってみると言い出した。

「財団の動きに迷いがなくなった以上、親元の製造会社が謀略に走 る可能性もある。ウィンディが狙われる理由はただひとつ。」

「皇帝の不義の証明のためにウィンディを誘拐したって仕方がない と思うんだ。」

「違うんだ。」

「なにが?」

「ウィンディが軍医であることで、ひとつ狙われる理由があるんだ 。」

 口を閉ざしていたロブが重たい口を開こうとカスターから聞いた 話をしはじめた。それは試験薬で強化作用のレッドオイルを服用し たジョナサンのことだった。クレアと格闘するために服用したと思われた。

「ステファノは、その薬のことを知っているのか。」

「試作段階の話をジャーナリストから聞いたんだ。実験体は怪我をし た軍人だという話だ。」

リゾート地パラディーゾデラモンテグナ都市での災害において、負傷者を死亡にして実験台に仕立てていた。最近では、宮殿事故の被害者も秘密裏で犠牲になっていると話ししだした。

「誘拐して始末したら、ウィンディのせいに出来る。」

 言った後、口を自分でふさいだステファノだったが、レオンは睨み付け、ロブは呆れていた。

「輸送で儲けた男なら、心当たりがある。死体を輸送して成り上がったんだ。」

「パトリック・クロスか。」

「知っているのか。」

「知っているも何も、死体処理屋だぜ。ロブはなぜ?」

「なぜも何も、潜りの輸送屋やっていたんだから、目をつけられて散々痛めつけられたよ。」

「なるほど。」

 3人は顔を突き合わせて眉をひそめていた。

「何も、悩み必要はないんじゃないか。レオンが先導師に会ってパトリックを紹介してもらえばいいだけのこと。」

「護衛が必要だろう。少なくとも、二人はさ。」

「財団を動かせないんだから、ドックから出せば・・・。

 ロブはニヤリとほくそ笑んだ。

「はめたのか、俺を。」

「ま、仕方ないよな。護衛の仕事をしていたくらいなんだから。」

「まさか、手ぶらで行くわけには。」

「グリーンオイルの種を持っていく。粗悪な種しか持っていないだろうからな。」

 レオンは少し感心していた。電話でロブと話をしたとき、一芝居打つからと言って、ドックに呼び出された。こういう展開になろうとは、思いつきもしなかった。

「伊達にクレアさんと一緒にいたわけじゃないさ。」

「仕込まれたわけでもないでしょ。」

「口が良くまわるな、レオン。クレアさんに言いように動かされたことはいくらでもあるさ。」

「へぇ~そうなんだ。」

 3人の会話に入れてもらえず、離れたところから見ているしか出来なかったレインが、我慢できずにそばまで来た。

「知ってた?クレアさんが復縁させようとがんばってたのをさ。」

 無論、遇のねも出ない。

「二人目の護衛って、僕じゃだめ?」

 輝いた目でロブを見ているレインは、いつかのおねだり上手な赤ん坊のように、やってのけた。

「好きにしろよ。」

 逃げ出すロブが振り向くと、そこにジリアンがいた。

「僕は残るからね。じいさまの教えをちゃんと受け継ぐんだから。」

「ジリアンが怒ってるぞ、レイン。」

 レインは罰の悪い顔をしていた。

「レインはやる気あったわけ?じいさまが命かけて教えてくれているのに。」

 ステファノとレオンは笑いを押し殺していた。

「腹がよじれそう。」

「僕も。」


 レオンとレイン、ステファノの3人がトランスパランスを目指して、旅に出ることになった。レオンが心配になっていたミランダの病状は満月のよる以来、良好となり、元にもどりつつあった。勉強がはかどらないことは仕方がないとして、一刻も早く、ウィンディの情報が知りたいと思っていた。出発の朝、テオから連絡があり、ウィンディの無事を聞かされた。消息は危険を避けるため知らされなかった。

「まぁ、無事に良かった。」

「それなら、もうパトリックに会わなくていいんじゃないか。」

 ステファノは正直面倒くさかった。

「そうも行かないのだろう。」

「う~ん、レイン、お前ドックから逃げ出したいんだろう。」

 ステファノの流し目を受けて、目をそらすことしか出来なかったが、開き直るしかなかった。

「シーアリアが苦手なのは、父さんも同じだからね。」

「レテシアさんから逃げ出すわけにはいかないでしょ。」

 レオンは腹を決めていた。パトリック・クロスに会って話をしてみようと。前々からなぜトランスパランスの多額の寄付をしているのか聞いてみたいという思いもあった。

「裏で糸を引くみたいな動きはしたくないんだけど。パトリックに会って、損はしないかもしれない。」

 レオンはそういって、二人に出るよう促した。


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