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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第三十二章 生命の灯火
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第三十二章 生命の灯火 5

 ステファノは食堂の台所へきて、ジゼルに昼食を頼んだ。

「レインたちを迎えに行くんだけど、軽食を4人分作ってくれないかな。」

「わかったわ。あの子達は悲惨な光景を目の当たりして、心も体も疲れているでしょう。」

 食堂のほうから声がするので、ステファノはそちらに目線を移した。目に入ったのは、レインにそっくりな女性がじいさまことラゴネと話をしている様子だった。

「あの人がレインの?」

「ああ、レテシアね。」

 ジゼルは手を止めて、レテシアを呼んだ。ラゴネに一言言って、台所に向かったレテシアは大きな目をさらに大きくして、ステファノを見ていた。

「あら。」

「レテシア、この子がステファノ。ディゴがつれてきた子なの。」

「ステファノ、よろしく。レテシア=ハートランドよ。レテシアって呼んで。」

「ああ、よろしく。」

 差し出された手にすこし躊躇して手を差し出したステファノは、レテシアを見て言った。

「ほんと、そっくりなんだね。」

「うわさに違わずね。」

 ジゼルに言われて、レテシアは照れ笑いをしていた。そして、握手をしている手をステファノが離さなかったので、不思議そうな目でステファノをみた。

「性格も母親譲りだね、きっと。ロブにはさっき会ったけど、似てないなって思ったんだ。」

 ステファノは言葉をかけながら、レテシアの手を握り指をなでるように動かしていた。

「レインは頑張り屋さんだから、ロブに似てるわよ。わたしはお調子者だから。」

 ステファノはその言葉で吹きだし、手を離した。

「あははは。いや、まいったな。」

 離された手を隠すように後ろにまわし、レテシアはステファノを見ていった。

「あなたは北の民族出身なの?」

 笑顔から真顔に変わり、ステファノは「それがどうかしたの?」と牽制した。

「クレアさんに雰囲気が似てるから。」

 悲しそうな声でそうつぶやくと、ステファノは理解したというような顔をした。

「よく言われたよ。そんなに似てるかな。」

レテシアは首を横に振って、笑顔をみせた。

「似てないわ。あなたは目がはっきりとして大きいもの。ただ・・・。」

「ただ?」

「威圧感がするの。悲しみの。」

 ステファノの反応をみて、予想通りだと思ったレテシアは、「ごめんなさい。」と一言言って、ラゴネがいるところにもどった。ジゼルはその様子を支度しながら聞き入っていたが、「本音をいうなんて、珍しい。」とつぶやいた。


 診療所でレインたち三人はミランダの手伝いをしていた。汚れものを洗濯し干したり、診療所内を掃除したりした。診療所の外に、仮設テントを軍がつくっていき、そこでの作業も行っていた。

 機械音がするのでジリアンが上を見上げると、テントウムシ(小型エアジェット)が飛行しているのが見えた。

「ステファノが来たよ、レイニー。」

 手を振って上を指すジリアンの姿をみて、まぶしそうに空を見上げレインはレオンに声をかけた。レオンはすぐさま、診療所にもどり、ミランダに挨拶をした。

「迎えが来たので行って来ますね。」

「あら、もう。お昼は?」

「ドックで用意してるって言われました。お手伝いできなくてごめんなさい。」

「いいのよ。気をつけて。」

 ミランダが寂しそうに言うので、レオンはミランダに近づき、肩を寄せた。

「もどって来ますから。」

 背中をさすり、少し痩せてしまったミランダの姿を感じて、レオンは胸が痛くなった。そして名残惜しそうに別れを告げた。診療所を出て、テントウムシ(小型エアジェット)に乗り込もうとしたとき、診療所からミランダがあわてて出てきた。飛び立つ寸前だったのを止めて、ドアが開いた。

「レオン、ごめんなさい。」

 ミランダは小さな封筒と靴箱のような箱をレオンに差し出した。

「コーディの荷物を整理していたら、出てきたの。」

 封筒には、「ロブ=スタンドフィールド様」と書かれ、箱には「クレアへ」と書かれていた。

「ロブに渡してくれるかしら。」

「わかりました。お預かりして、ロブに渡しておきます。」

 テントウムシをステファノが操縦し、離陸を始めた。ミランダは笑顔でみんなを見送った。


 ドックに着いた一行は、すぐさまデッキに降り立った。レインとジリアンをロブは両手で抱きかかえた。

「よく無事でいてくれた。」

 その言葉には涙が混じっているように思えた。レインの気持ちはすこし複雑だった。

「カスターが・・・。」

 震える声でジリアンが口にした。

「ディゴから聞いたよ。」

 ロブは二人の頬を自分の顔に摺り寄せた。ロブの頬は火傷の傷跡があり、摺り寄せられるとその感触を味わうこととなった。ただただ、ふたりは悲しみをこらえて、されるがままになった。

 ロブの目の前にレオンが立っているのがみえて、二人をようやく解放した。

「レオン、無事でよかった。」

「心配をおかけしたようで。」

「コーディのことも聞いたよ。レオンには話しておきたいことがあるんだ。」

「僕もロブに話があります。」

 レオンはミランダから手渡された封筒と箱をロブに見せた。

 レインとジリアンがその様子を眺めていると、視線を感じ、振り返った。そこにはレテシアが立っていた。手招きしていたので、レインが近づくと、レテシアは「ジルも来て。」と言った。二人はレテシアに抱きしめられた。ジリアンはいままで我慢していた様子で、泣き始めた。レインはその様子をみて、レテシアから離れていこうとしたが、レテシアはレインの片手を強く握り締めた。

「そばにいてちょうだい。ジルの為にも。」

 左腕でジリアンを抱きしめ、右手でレインの手を握っているレテシアの姿をみて、どこか見た光景だと脳裏にかすめた。しばらくして思い出した。それは、ジリアンが実母セシリアに虐待を受け、レインが発見したときのマーサの姿だった。背中に傷を負い、それまで泣くまいと我慢していたジリアンがマーサに抱きしめられて泣いていた。マーサはレインをそばに呼び寄せ、手を握りしめて、「そばにいてちょうだい。」と言ったのだ。ジリアンの悲しみがマーサから伝わってきた。そして今はレテシアから別の感情が伝わってくる。二人で枯れるまで泣いたから、違う気がしていた。今は安心感で涙が溢れかえっていると気づいた。

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