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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第一章  スタンドフィールド・ドック
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第一章  スタンドフィールド・ドック 1

登場人物


レイン=スタンドフィールド(主人公)

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟)

ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)

カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士)


 濃霧から、大きな音が響き渡る。毎分数十万トンが約300Mの高さから落ちる音。濃霧の奥には、崖に生い茂る木々があり、崖から突き出してるようにみえるエアプレーンがある。さび付いたその機体の上に、少年が立っていた。両手を広げ、深呼吸している。少年が上を見上げて、太陽の光が濃霧を切り開こうとしているさまをみつめていると、風が吹きつけ濃霧が岩肌にむかってかき消される。目を閉じて、耳を澄ましていると、少年にしか聞こえない音を聞き取ったようだ。少年は、後ろを向くと、機体の上を走った。エアプレーンは崖につくられた建物に固定されている。少年は建物の中に消えていった。


 10キロという川幅で膨大な水流を誇るヴェンディシオン川にあるヴィエントフレスコ滝。分流するオホス川があって、それを隔てたラズラルナ島がある。生い茂る森に月の形をした岩山があり、滝つぼに突き出す崖もある。崖の上には木々があり、飛びぬけて高い木が一本だけあった。

 その木の天辺には、小枝が傘のように生え、天辺から2Mくらい下からは枝が切り落とされていて梯子はしごが取り付けられていた。傘のような小枝の下にはとうで出来た椅子いすが取り付けられていて、先ほどとは別の少年が座り、岩山を背に遠くを見ていた。

 濃霧は風に消え、空は晴れ渡っていた。地平線に多少の雲がかかっているぐらいになっていた。少年の目が何かをとらえた様子で、椅子から器用に降りて、梯子を降り始めた。5,6M下に降りると梯子がなくなり、周りの木々に埋もれる。そこからは枝をつたって、降りていく。地上5M付近に木々とつたや縄で作られた橋が木々の間を縫うようにずっと続いていて、少年は小走りで進んでいった。木々を抜けて岩山に到達すると、建物があり、そこのなかに少年は消えていった。


 エアプレーンの機体の上にいた少年は、暗がりの通路に鉄板の廊下を走りぬけ、明るい場所にでてきた。そこは、直径20Mあるタンクがあって、吹き抜けの穴から太陽の光が差し込んでいた。タンクの中には緑の液体が波を打っていた。それはグリーンオイルという燃焼させると水蒸気を出すエネルギー資源で、酸素と水素が排出されるので、公害にはならない代物だ。澄んだ水と太陽の光で繁殖し、水分を多く含む生きたバクテリア。よどんだ水が混入すると異臭を吐き出し死滅する。死滅するときは固形物となって、周囲にへばりついてなかなかとれなくなる。

 少年は、タンクに近づき、においを嗅ぐ。それは青々とした草を刈り取ったときに出る青臭い匂い。そのニオイで、品質の良いグリーンオイルだと確認する。

 タンクの下のほうに目をやると、もうひとりの少年がそこにいた。

「ジル、どこにいたんだよ。操縦の練習時間だろう。」

「パラグアスの木にいてた。霧が晴れないのに練習できないじゃないか。」

「霧が晴れる時間はわかっていたんだ。準備していれば、すぐにはじめられるだろう。」

タンク下の少年は、タンクに取り付けられたレバーの前でためいきをついた。

「レイニーは練習しないのに、準備する必要ないじゃないか。」

小声でぼやいた。


通称レイニーことレイン・スタンドフィールドは13歳の栗毛で大きくて青い目をした少年で、通称ジルことジリアン・スタンドフィールドは11歳の金髪でえらの張ったあごに小さなどんぐり目をした少年である。

ジリアンのところからつながるタンクのホースが建物の壁をつたって上に伸びていて、そばにある梯子をレインは上り始めた。ホースは建物なかに埋まっていき梯子の横にドアがあって、レインはなかに入っていったが、ドアをあけたままにした。ホースの先には、大きな留め金具がついていて、上が塩化ビニールでできたついたてのしたに取り付けられていた。そして、サイレンの音が鳴り響いた。


 月の形をした岩山に沿うように立てられた建物の天辺には、周囲を見渡せるガラス張りになった展望台があった。なかには男がいて、無線機片手に話をしていた。

展望台のしたには、いくつかの鉄筋が前面に左右そろって突き出している。そこは工場のような場所。その工場は、スタンドフィールドドックという空挺修理工場兼燃料補給場だ。

 その工場に、金魚のような赤い空挺が近づいていた。展望台にいる男は、金髪で目が切れ長で少し釣りあがった男前で、ところどころ緑色が薄汚れた作業着を着ていた。男は、ロブ・スタンドフィールドという28歳という若さでこのスタンド・フィールド・ドックのおさだ。無線で、赤い空挺と交信をし、値段交渉しているようだ。


 衝立ついたての手前にレインがホースの金具に取り付けられたレバーに手をかけると、衝立の向こう側に男が現れた。カスター・ペドロという男で、セミロングの黒髪に黒ぶちめがねに三白眼。レインに目配せすると、ついたてから先に伸びる蛇腹のようなホースの先を左脇にかかえて、デッキの方へ向かっていった。


 赤い空挺がドックにドッキングすると、カスターが立っていた位置にちょうど空挺の燃料口があった。

どうやら、この赤い空挺は常連さんのようだ。蛇腹のホースを燃料口に取り付けると、カスターは右手を上げた。レインはレバーをまわして固定し、外れてないか確認すると、右手を挙げた。レインの右手が上がったのを確認すると、ジリアンはタンクのレバーを体重をかけて下におろした。大きなホースにグリーンオイルが注ぎ込まれて、波を打つ。ついたてを通り抜けると、蛇腹で上下にはねた。タンクレバーの横にデジタルで吐出量が表示されるのをジリアンは確認していた。

 赤い空挺から、タラップがおり、中から、起き上がりこぼしの人形のような赤いつなぎをきた女が降りてきた。女がドックのデッキに進み、歩き始めると、体全体が左右に揺れると、デッキは上下に揺れていた。電動昇降棒でロブが降りてきた。

「ハンサム坊や、わたしに挨拶のキスをしにきてくれたのかしら。」

 女はロブに向かって両手を広げた。

「相変わらず、ガキ扱いか、レディ・ロマーノ」

「顔に傷をつくったぐらいで、オトコをあげたつもりなの?」

 女は、モナ・ロマーノという3人の部下を従えた郵便船の船長である。デッキに下りたロブは後ろ手にカスターを呼び寄せた。首をかしげてカスターが近づくと、ロブはカスターの左腕を握って引っ張り、前に突き出した。

「あ~ら、わたしはロブがタイプなのよ。でも、黒髪の坊やもいい感じ。」

 カスターは突き出された勢いでモナの胸元に顔をうずめてしまうと、モナはカスターを抱きしめた。

「うぐぅ、うぐぅ~」

 モナがカスターを離すと、ロブは、赤い空挺の機体に近づいた。

「ずいぶんと、機体に傷がいってるじゃないか。」

「黒衣の民族カラスにやられたわ。郵便船ってわかっても人質にしようと捕縛するのよ。見境が無いわ。」

「そっちも相変わらずか。」

「命あってのお仕事。わたし、引退して若いツバメでもはべらせて暮らそうかしら。」

「引退して余生を楽しむにはまだ、早いんじゃないのか。」

「あら、そうね、ロブにこのもちもち肌を愛撫してもらってから引退しなくちゃね。」

 モナは芋虫のようなむくんだ手を胸の谷間がみえるまで開けた首元においた。ロブとカスターはふたりして、嘔吐するしぐさをしてみせた。

「あら、ご挨拶ね。」

 モナはふっくれつらをすると、タラップにのり、機体に戻ろうとした。そして振り返って言った。

「うでの良い板金工と塗装工がいたわよね。修理もお願いしていいかしら。」

「早急にやらせてもらいますよ。レディ・ロマーノ」

「あせらなくてもいいわよ。奇襲を受けて修理をしているって局には連絡するから。」

 そういうと、モナは中へ入っていった。


 ロブは、一部始終をビニール越しのついたてでみていたレインにむかって、手首を折り曲げて振ってみせた。レインは、外のドア越しにいって、下を除いた。

「ジル~」

 ジリアンが顔を上げるのを確認すると、手首を折り曲げて振って見せた。ジリアンは、レバーをおろし、吐出量を確認して、伝票に書き込んだ。それをもって階段を上がりはじめた。


 ロブはまた、電動昇降棒にのぼった。

「キャス、ディゴとジェイにデッキへ来てもらってくれ。」

「アイアイサー」

 カスターは敬礼をすると、ホースの取り外しを行い、締めなおして、衝立の奥にいった。机があり、マイクがあって、スイッチを押した。

「業務連絡、業務連絡。パテとメイクの注文がはいりました~ん。」

BGM:「FLIGHT!」はじめにきよし

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