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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第三十二章 生命の灯火
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第三十二章 生命の灯火 3

 街はずれの丘の上にあるタンディン診療所には、軽い症状の老人たちがところせましと、休んでいた。重病患者は軍やグリーンオイル財団の医療班が医療学園都市へ連れ出していた。

 医者であるマーク=テレンスはレオンの様子をみて感心していた。母親が軍医であり、家系は医者だと聞いたことを思い出し、納得していた。難民キャンプや戦場を行き来していたレオンにとって、けが人の手当てするのは苦にならず卒なくこなせた。手際の良さから、医療に対して抵抗感があるとは思えなかった。将来医者になるつもりがないとは思えず、素直に受け止めきれない姿勢を何とかしてやりたいと思っていた。

 患者の手当てをひととおり終え、レオンと約束をしていた話をしようとした矢先に、レインたちがやってきた。

「先生、電話を貸していただけませんか。」

「どうしたんだ、そんなすすだらけで。」

「街に行ってきたんだよね。なにかあったの?」

 レオンが心配そうにしているのをみて、ジリアンは涙をこぼして、震える声で答えた。

「コーディの遺体を見つけたんだ。」

 マークとレオンは驚きのあまり、耳を疑った。信じ難かったが、コーディが爆撃前に街に行ってしまったことを思えば巻き込まれてしまっても仕方がないと覚悟はしていた。うつむくジリアンの腕にゆがんだバケツをみて、レオンは言った。

「そのなかにコーディが?」

 ジリアンはゆっくりとうなづいた。ジリアンがバケツを抱えている腕に重ねるようにレオンは抱えた。

「コーディ、どうしてこんなことになったんだよ。」

 レオンがバケツを覗き込むと、金属の破片が混じっていた。それが骨折したものをつなぐボルトやギブスだと理解した。そして、とめどなく涙が出てきた。マークはレオンの肩に両手を添えて、移動するように促した。そして、レインに手を添えていった。

「そのお骨は?」

「カスターなんだ。父さんに報告したいんだ。」

「わかった。でも、落ち着いてからにしよう。興奮しているみたいだから、時間を置いてからにするんだ。」

 レインはマークに促されて、一呼吸すると、後ろを振り返ってから、言った。

「無事に逃げた友達のコリンが連れ去られたんだ。なぜなのか、理由を知るために、父さんに連絡を。」

 マークはレインの後ろにいる人物を確認した。確かにそこに、コリンの母親がいてた。

「コリンのことは、急ぎはしないわ。連絡が早く取れたといっても、すぐに何かできるとは思えないから。」

「ボイドさん、無事でよかったです。さぞ、お疲れでしょう。体を休めてからにしましょう。」

「先生、ありがとうございます。」

 コリンの母親は泣くまいと唇をかんで必死にこらえた。


 マークはレインたちの話を一通り聞いてから、病人搬送に付き添って行ったディゴを呼びつけた。ロブに連絡するのはそれからにしようということになった。ディゴが診療所にもどってきて、開口一番にこう言った。

「軍から情報があったのだが、レッドオイル爆撃はテロリストがグリーンオイル製造会社の施設を乗っ取ったことによるもので、今は軍が制圧に成功したとのことだ。」

 一同は何もいえなかった。ディゴ自身そのことを話したところで何か変わるわけでもないことぐらいは知っていた。

「それと・・・。」

「それと?」

「ロブとレテシア、テオ=アラゴンの3人がスタンドフィールドに向かっていると連絡があった。」

「こっちに向かっているの?」

 レインが驚いていると、ジリアンがつぶやいた。

「身重なのに、こんなところに?」

「それが、ラゴネのじいさまが呼び寄せたらしい。」

「具合がまた悪くなったの?」

「いや、調子が良いときに、レテシアに会っておきたいと言ったらしい。」

 レインもジリアンも理解できないとばかりに顔を見合わせた。そして、マークは事情を把握できたとばかりに言った。

「では、ロブがもどってからにしよう。いろいろと話すことがあるから、整理したほうがいい。」

 とりあえずと言って、マークはディゴとふたりだけで話をしたいと言い出し、診療所を出た。

 レオンはミランダの手伝いをはじめた。汚れたシーツや包帯をバケツにいれ、手洗いを一緒にしていた。レインたちも手伝うことはないかと言い出したが、先にシャワーを浴びてからと言われて、シャワー室へ行った。

「はぁ~。」

「なに、ためいきついてるんだよ、レイニー。」

「だってさ、もう、あの二人が来ちゃうんだよ。」

「あの二人って他人事みたいに・・・。」

「う~ん、ごめん。なんだか、離れていたから、身内に思えなくなったやったっていうか。」

「いろいろあったからね。」

 ふたりはグリーンオイルで出来た石鹸で体を洗った。涙は流しすぎて出なくなったと思うくらい、もう出てこない。さっぱりした顔つきで、シャワー室を出ると、ディゴが手招きしていた。外へでると、夕闇が迫っていた。

「なにか、わかったことがあったの?」

 眉間にしわを寄せて、レインがディゴに詰め寄った。ディゴはコリンのことをレインから聞いた。そして、言った。

「ロブにカスターのことを話ししたら、セリーヌ=マルキナに連絡をすると言った。そのとき、コリンの名前が出てきたんだ。」

「父さんから?」

「ああ。コリンの事情を知る前のことだから。ジリアンの言う、ロブが何か知っているかもしれないのは的を得ている。」

 ふたりの頭によぎったのは、コリンが黒衣の民族との子供だということだった。それが原因で連れ去られたのなら、アルバートが受けた仕打ちがコリンにも及ぶことを恐れた。そのことをレインが口にしようとすると、ジリアンが腕をとって、止めた。

「今、話をしなくても、セリーヌさんに連絡をすると言ったのだから、何か情報を得ているかもしれない。だって、コリンの安否を気にしていたんでしょ。」

「そうかな。」

「ねぇ、ディゴ。ディゴだって思うよね、ロブ兄さんから聞いたほうが確かだって。」

「コリンが爆撃前にあった出来事で、クレアの名が出てきたのなら、思い当たるところがある。それなら、ロブの口から聞いたほうがいいだろう。」

 ディゴ自身、その思い当たるところの一件を知らないわけじゃなかった。クレアが何をしようとしていたか、わかっていたからである。

「ディゴがそういうなら、父さんたちが戻ってきてから。」

「それに、テオがやってくる。軍の情報も携えてくるから、今回の爆撃は何が狙いなのか、本質を知ることが出来るだろう。」

 レインとジリアンは顔を見合わせた。自分たちが狙われるのなら、スタンドフィールドが狙われるはず。街を爆撃されたのは、脅しなのだろうか。いや、考えても無駄なのだ。レインはジリアンが首を振るのをみて、ため息をつきそうになった。

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