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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第三十二章 生命の灯火
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第三十二章 生命の灯火 1

 レインとジリアンはすすにまみれて放心状態になっていた。新型レッドオイルの爆撃を受けて街は焼け野原と化した。学校へ通学していた道すがらの場所はもう跡形もない。あまりの惨劇に心が壊れているのかと思うくらいに反応できない。ただただ、驚愕して体が硬直しているのだと認識するしかできなかった。

「誰が、こんな、酷いことを。」

 ジリアンが力を振り絞って言葉を吐くと、涙があふれ出した。となりで立ち尽くすレインは声を上げれずに涙をこぼしていた。

 ドックから飛び出して、タンディン診療所の医者マーク=テレンスの指示を仰いだ。人命救助に奔走した。火の海と化した街には一歩も踏めこめなかった。街から運良く逃げ延びた人たちをその場で手当たりしたり、すぐさま、移動を促したり、とにかく必死になって動いた。気がかりなことは、カスターとコーディが巻き込まれたかもしれないということだった。カスターのことはグリーンオイル財団の秘書セリーヌ=マルキナから街に来ていることを知った。コーディはレオンと一緒に診療所へ来たことを知りえていたが、爆撃の直前に街へ行ってしまったことをあとから知らされた。

 2日間、街は燃え続けた。鉄筋や木材、いろんなものが燃えつくされて、異臭を放っていた。道端のところどころに白い塊があって目に付いた。近くまでいって、それが人骨だとわかると、一歩下がって恐怖に直面していることに自覚するしかなかった。人骨が折り重なっている場所があり、人々がひとかたまりになって犠牲になった様子が伺えた。その場所より目線を移したところに、キラリと光るものを目にして、近づいた。それは骨にうまっていて、見つけてくれと言わんばかりに輝きを放っていた。レインがそれを恭しく取り出そうとすると、レンズが欠けた眼鏡だった。そして、レインは叫んだ。

「カスター!!」

 叫び声にジリアンは驚いてレインに駆け寄った。

「どうしたの、カスターがいたの?」

 震える声で言いながら、そこにある人骨に見入った。そこには解けかけた金属が見えた。ジリアンは、ハッとして気づいた。

「この金属、ギブスじゃないの?」

 二人は顔を見合わせて、唇を震わせた。

「コーディなの?」


 ミランダ=テレンスに泣いている時間はなかった。マークと一緒に街の近くまで駆けつけて手当てを続けた。救助の軍が駆けつけてけが人を運び出した。それから焼け野原を後にして診療所にもどった。診療所には顔見知りのお年寄りが爆撃から逃れて非難してきていた。疲れ切った体を引きずり、愛想笑いで挨拶もそこそこに居住スペースのトイレに逃げ込んだ。声が漏れないように両手で口を押さえて、嗚咽した。心配して付き添ってきたレオンはトイレの前で言葉を掛けようとしたが、何もいえなかった。残酷な場面に幾度となく遭遇してきた。まだ幼くて状況も把握できないままにパニックを起こしたこともあった。その時々で辛いと思いつつも乗り越えてきた。トイレの前に座り込み、こころのなかで祈った。

(ミランダさんのこころが壊れませんように。)

 レオンは目を閉じ、煤だらけの顔を両手で覆い、疲れている体がゆっくりと呼吸するように、瞑想に入った。そして、あの満月の夜の出来事がよみがえってきた。白髪の少女のことだ。老人だと思っていたが、マークには少女だと告げられ、コーディが外に出て行ったこと。コーディの安否がわからない状態で、白髪の少女のことで爆撃が起きた街へ行ってしまったと思った。瞑想から次第に意識が薄れ、寝入ってしまった。目が覚めたときには診療室のベッドに寝かされていて、うめき声が聞こえた。診療室にレッドオイルによる火傷を負ったけが人が声を上げていたのだ。一瞬で眠気が飛び、ベッドから這い上がって、診療室から出た。

 医者のマークは少ない時間で休憩をとっていた。診療所は老人と火傷を負ったけが人でいっぱいだったので、外に出て喫煙していたのだ。吹かしているとレオンがやって来た。

「先生、休憩時間ですか。」

「ああ、あまりとれないが、体がなまっているせいで動きが鈍くなって・・・。ふあぁ~。」

「僕にできることがあれば・・・。」

「ああ、もう大丈夫だよ。野戦病院から開放されたんだ。それより、レオン。目の下にくまができているんだぞ。もう少し寝ておけばいいよ。」

「いえ、おちおち寝ていられなくて。」

「ああ悪いな、相部屋になってしまって。」

 レオンはしばらくうつむいていた。しかし、意を決したように、口を開いた。

「コーディが街に行ったのは、あの白髪の・・・。」

「その話はまた、落ち着いたら、話そうじゃないか。レインたちにカスターが街に来ていたという情報が入ったそうだから。レインたちのいるところでだ。」

 マークはそう言って、タバコの火を消し、レオンの肩を軽くたたいて、診療所の中に入っていった。

登場人物

レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)16歳

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟<従弟>・愛称ジル)14歳

ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄<実父>)31歳

レテシア=ハートランド(主人公の実母)34歳

ディゴ (ドックのクルー。板金工)36歳

ジゼル  (ディゴの妻)31歳

ラゴネ=コンチネータ(レインたちの叔父・グリーンオイル生産責任者)

コリン=ボイド(レインのクラスメイト)

ジョイス=ボイド(コリンの父親)

プラーナ(ジリアンのクラスメイト)

マーク=テレンス(タイディン診療所の医者)

ミランダ=テレンス(マークの妻。診療所の看護士と医療事務員)

ウィンディ=ゴールデンローブ(クレアの恋人・軍医)

レオン=ゴールデンローブ(ウィンディの息子)15歳




デューク=ジュニア=デミスト(現グリーンオイル財団理事長)40歳

セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。ジリアンの実母。愛称セシル)34歳

セイラ=デミスト(セシリアとデュークの娘。)6歳

カミーユ(セイラ付きのメイド)23歳

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