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第五章  セシリア 1

登場人物


ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)

フレッド=スタンドフィールド(主人公の長兄)

ゴメス=スタンドフィールド(主人公の父)

ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)


ダン=ポーター(前タイディン診療所の医者)

クレア=ポーター(ダンの養女。医者)


セシリア=デミスト(グリーンオイル財団理事長の妻。マーサの知人。愛称セシル)

「諸悪の根源はセシリア。」

ロブがセシリアのことを語る前に言った言葉だった。


遡ること13年前、ロブが15歳のときのこと。

アレキサンダー号はひところの賑わいを見せた空挺輸送時代のなかで花形だったが、そのころは引退したほうがいいといわれるまでになっていた。

いくら、手入れを施しても、衰えるものは数限りない。装甲や内装を取り替えて、だましだまし空を飛んでいた。

艦長は、ゴメス・スタンドフィールド。フレッド、ロブ、ディゴなどの若い者や数名を乗せての航空だった。

仕事の内容は主に運搬で、そのときは境界線付近の山間から多量の鹿をさばいて売りに出される鹿肉を運ぶことだった。

積荷をして、その際スワン村に滞在していて出てきたダン・ポーターを搭乗させ、スタンドフィールド・ドックの近場にあるリゾート地に向かう航路だった。

出発したあと、やけに濃霧が濃くなり、計器類も反応が鈍い状態に陥り、アレキサンダー号は強風にあおられて、境界線危険地帯に入ってしまっていた。

「父さん、大丈夫ですか。近すぎると黒衣の民族に攻撃されてしまいますよ。」

20歳のフレッドが心配そうに、計器で位置を確認しながら、父のゴメスに声をかけた。

「ああ、わかっている。」

甲板で、外を確認していたロブが操縦室に報告を入れてきた。

「左方向に、光るものが見えます。光っては消えを繰り返しています。」

フレッドやロブには、空挺に搭乗している以上、父親に対しても、敬語を使うよう徹底されていた。

「戦闘かもしれないな。境界線ちかくだから、威嚇射撃しているかもしれない。

ディゴ、近づけないように、操縦できるか。」

「はい、やってみます。右方向からの横風がつよいですね。」

操縦室は、操縦しているディゴを前に、後方にゴメスが計器類を前にした場所に座り、ディゴの横をフレッドが計器類と通信器をまかされて座っていた。

ロブは甲板で、耳を澄まして、微かに聞こえる発射される音と、それが当たった音を聞き取っていた。

霧の模様、流れが速くなってくる様をみて、あたりの様子が見えるのを予測した。

アレキサンダー号の姿が、交戦している側に見つかるのは避けたいと思い、ゴメスにロブは報告した。

「交戦はまだ続いている模様ですが、こちらの霧が晴れてくるかもしれません。」

その報告を聞いて、ゴメスは即座にフレッドに指示をした。

「レーダーの様子はどうだ。あちら側の状態が把握できるか。」

「はい、エアジェットのような空挺が何機かいます。前方に1機と後方に2機あります。」

「レーダーでは、軍か、黒衣の民族かどうかわからないな。」

「エアジェットでは攻撃できません。迎撃機なら、軍でしょう。」

ディゴが口を挟んだ。

ロブが甲板から交戦しているほうへ向かって目を凝らしていると、追われている機体が弾が当たり火を噴く様子が見えた。

アレキサンダー号の機体が、交戦している側にも見えたはずだが、機体に命中したことでこちらの様子を把握している状態ではないだろうと憶測できた。

「機体に弾が命中した模様です。火を噴いて下降していると思います。」

ロブの報告を聞いて、ゴメスはディゴに命令を下した。

「上昇しよう。こちらの様子に気づかれないようにするのだ。

ゴメスは、マイクを手に取ってスイッチを押した。

「乗員に告ぐ、急上昇を開始する。各自、体を固定するなり、なにかにつかまったりしてくれ。」

ディゴは操縦桿を強く握り引っ張りあげた。

「ロブ、セーブロープをしっかり握っていろ!急上昇する!」

急上昇でアレキサンダー号は濃霧を切り裂く。

ロブがセーブロープを強く握り締めると、機体が傾き、ロブの体は宙に浮いた。

アレキサンダー号は、勢いよく、濃霧をつきぬけ、雲海を抜けた。

抜けた場所は、太陽の日差しがきつく、ロブは片手でセーブロープを握り、もう片手で首にかけていたゴーグルをかけなおした。

遠めにみて、黒衣の民族の本拠地がある赤山が雲海から姿をあらわしているのを確認し、アレキサンダー号との距離を見計らった。

「境界線区域から、安全区域に戻れた様子です。」

キッキィー、キッキィー、キッキィー。

撃墜された機体が岩肌を舐めるようにこすり付けているのか、金属音が鳴り響いていた。

火花は消え去り、音だけが反響する。

ロブが甲板から、身を乗り出して、雲海の方をのぞくと、アレキサンダー号が飛行している下を撃墜された機体が墜落した様に思えた。

しばらくすると、操縦席に、ダン・ポーターがあらわれた。

「いったい、どうしたんだ。ゴメス。」

「ダン、すまないな。急上昇してしまって。」

そのとき、フレッドがヘッドフォンから通信が入ったのを確認した。

「父さん、あ、船長。SOSの信号が出てます。」

「なんだと。墜落した機体からか。」

「はい。」

「いったいどうしたというんだ。墜落した機体って。」

「いや、その、追撃されていたみたいなんだ。」

「じゃ、助けに行こう。」

「待ってください。ポーター先生。相手は黒衣の民族カラスかもしれないんですよ。」

ディゴは操縦桿を握りながら、マークに忠告した。

「黒衣の民族だろうが、なんだろうが、SOSを発信して助けを求めてきたのなら、応じないといけない。

わたしがいこう。」

「待ちなさい。ダン。ロブをつれていきなさい。」

ゴメスが言うと、ダンはうなづいて、操縦室を出た。


ブルーボードと呼ばれているエアジェットが谷山を飛んでいた。

左右の翼が一枚の板のようになり、操縦席はグライダーのようにうつぶせになる姿勢で乗るタイプである。

ロブが操縦し、ダンは救急医療セットを抱えていた。

撃墜された機体は、谷底まで落ちずに、緩やかな崖に右翼をもぎとられた状態で不時着した様子だった。

ブルーボードは機体からロープを出し、尖った岩にひっかけて固定させた。

ダンは機体からおりると、撃墜された機体の操縦席を覗き込んだ。

手前に白い民族衣装を来た女性が見えた。

中を開けると、その女性は明らかに黒衣の民族ではなかった。

操縦席には、黒い民族衣装をきた男性が顔面から血をながしい、椅子と操縦桿にはさまれて圧迫しているのが確認できた。

ダンが女性の首に手をやり、脈を確認した。

女性は白い肌に頬をりんごのように真っ赤に染めている。

ダンは女性がうつぶせになっているので、左肩をおしあげた。

女性の胸から下の部分をみてダンは驚いた。

「おお、これは・・・・・。」


ロブは、ブルーボードをしっかり固定し、撃墜された機体のエンジンが爆発しないかどうか確認していた。

機体のエンジンは、岩肌にこすりつけて右翼をもぎ取られたとき、エンジンの延焼も一緒に消化させてしまったようだった。

ロブが操縦席の方に向かっていくと、ダンが白い民族衣装を着た女性を抱きかかえていた。

その女性は妊婦だった。

「ポーター先生、その女性は大丈夫なのですか。」

ロブ自身、その女性をみて、民族衣装を着ているものの、黒衣の民族ではないことは理解できていた。

「ああ、生きている。腹部の大きさから言っても、臨月かもしれない。」

「先生、操縦していたのは・・・。」

「男は死んでいる。あきらかに黒衣の民族だ。」

ロブは、ダンを前に進ませて、操縦席の方へ行き、操縦桿にうつぶせになっている男の奥に手をやり、SOSを発信させているスイッチをきった。

境界線区域から安全区域に入ったとしても、SOS発信を受信して黒衣の民族がやってくるかもしれないからだ。

ダンは、平坦な岩を見つけてそこに女性を仰向けに寝かせ、医療キットから聴診器を出し、おなかに当てた。

「胎児の心臓の音は聞こえる。無事だな。」

しかし、寝かした女性の足元をみてみると、血が流れているのが見えた。

「だめだ、破水している。」

ダンは急いで女性を抱きかかえると、ブルーボードに乗せようとした。

「ロブ、すまない。君はここに残って、迎えが来るのを待っててくれないか。」

「あ、どちらにしろ、そうなると思ってましたが、どうかしたのですか。」

「お腹の赤ん坊は無事だが、この女性は破水している。赤ん坊を取り出さないと、母体も赤ん坊も危ない。」

「わかりました。」

ロブは二人が乗り込んだのを確認してから、ブルーボードに固定していたロープをはずした。

ダンがエンジンを入れるのを確認すると、ロブは後ろから崖に向かって押し込んだ。

ブルーボードは、崖に落下せず、弧を描いて、機体が上に向くと、ロケットエンジンが火を噴き、急上昇していった。


ダンは操縦桿を握りながら、考えていた。

境界線区域付近を居住している村民には誘拐が多発していた。

黒衣の民族により拉致だと思われ、拉致された者たちは奴隷にされていることが書かれた書物をダンはスワン村で読んだばかりだった。

撃墜された機体にのった男女は上質な衣装だったので女性自身がふくよかで肌も荒れていないので奴隷扱いはされていないとダンは思った。

陵辱による出産で生まれてきた子供たちが奴隷にされる可能性や、命を軽んじられて戦士として育てられる可能性など、ダンはさまざまに考えをめぐらしていた。

(生まれてきても、母親にとっても赤ん坊にとっても良いことなどあるまいが。)

混血は見た目にはわからないが、思考や行動に異端がみられるので、血液検査で判明することがあった。

疑いをかけられて検査されることはまれだが、世間の目がかなりきつくなるのは目に見えるようだった。

(そういや、クレアが異端児だったので、疑いの目で見られていたな。キツイな。)

ブルーボードが雲海を抜け、アレキサンダー号を前方に確認できると、ダンは不安な考えをよぎらせた。

(死んだ男の衣装が上質だと、貴族かもしれないな。もし、そうなら、見つかったらロブの命が危ないな。)

BGM:「眠れない悲しい夜なら」paris match

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