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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第三十章 魔のささやき
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第三十章 魔のささやき 3

エアバスが行き交うターミナル、あらゆる場所からこの場所に集まって多くの人がここから旅立つ。人込みのなかをかきわけ、無精ひげを生やし汚れた服で急ぐ男がいた。一瞬止まって上を見上げると、そこには天井からぶら下がった時計があった。手にしていた時刻表を確認して、先を急ぐ。

一方向から、その男の姿に目をとめた者がいた。

「カスターさんじゃないかしら。」

その人物は天井からぶら下がった時計の位置からほど近いところにバルコニー越しから眺めていた。

「誰なの?」

その人物の肩越しから少年が外を眺めた。

「カスターさんですよ。レインさんたちと一緒にいた人で、眼鏡を掛けていた男性です。」

「ああ、眼鏡を掛けた人は確かにいたね。どこどこ?」

指を指す方向をみたが、そこにはもうその男はいなかった。

「カスターさんはいま、行方がわからなくなっているのです。この前、墜落したグリーンエメラルダ号に乗っていた方なのです。」

状況がよくつかめない少年は後ろにさがり、テーブルの椅子についた。

「だったら、セリーヌさんに連絡したらいいじゃないか。」

「そうですね。」

「たしか、ロブが安否を心配していた人でしょ。」

「ええ。」

「食事を終えて、連絡してみてよ。早くしないと、エアバスに間に合わなくなるよ、コーディ。」

「言われたとおりにします。レオンさん。」

レオンは苦笑いを浮かべて食事を続けた。コーディは浮かない顔をして、席に着いた。


1週間前の話しだった。レオンはガラファンドランド・ドックでエア・ジェットの訓練をうけ、操縦できるまでになった時、スタンドフィールドドックに行きたいと言い出した。最初ロブとレテシアの3人で行く話があったが、レテシアの体調がまだよくなかったので、コーディと二人で行くことになったのだ。レオン自身はロブたちと一緒に行くのは気が引けていたが、コーディと行くのもなんだか落ち着かないと想っていた。クレアを思い出すからだった。

「コーディと一緒かぁ。」

「なにか不満なのか。」

「なんだかね。話し方でかみ合わない感じがしてね。」

「気にならなければ、大丈夫だよ。俺はコーディと一緒にスタンドフィールドドックへ向かってくれるほうが安心なんだ。」

ロブは、レオンの頭をなでながら、そう言った。クレアの意向として、レオンをテレンス夫妻に預けることと、グリーンオイル財団の理事長秘書であるセリーヌ=マルキナから聞かされていた。レオンはいやがるかもしれないが、実際その方がいいだろうと聞いたとき思った。

「コーディはクレアさんが育った場所に行ってみたいと言っていたからね。」

浮かない顔してレオンはロブを見ていた。ガラファンドランド・ドックにレテシアが来てから、空気が変わった。歓迎されないわけではなかったが、グリーンエメラルダ号が墜落することで宮殿が破壊されたという内容だけに、疑念がもたれないわけではなかった。ガラファンドランド・ドックはスターンドフィールドドックと違って、軍の空挺やエアジェットを修理する工場としての色が濃い。常連で少佐だったテオが除隊したことでも何かと不穏な空気が漂って、くわえてエアジェットの操縦士として有名なレテシアがいることでも緊張感が増してきたようだった。

レオンは時間ができればアン=ポーターのところへ行ったが、ロブとレテシアを毛嫌いしているアンはより一層、ドックへ行かなくなった。ガラファンドランド・ドックのオーナーのシモンからアンのことを聞いたときは、その気持ちすら理解できなかったが、レテシアと接するうちにわかるようになった。体調が悪いだけで依然として変わらないレテシアはエアジェットに乗りたがり、ロブを困らせていた。ロブが苛立ちを隠せない様子にレオンは少々呆れていた。エアジェットに乗れなくなったレテシアに気兼ねして、レオンはガラファンドランド・ドックを去る事にした。


食事を終えたコーディは、セリーヌ=マルキナに連絡を取った。そこで、意外な情報を耳にした。白髪の少女イリアを保護したということだった。

「そうですか。手に入れたかった情報が手に入ったのですね。」

「ええ。カスターさんはイリアさんに知られたことで、なにか手を打とうしているのかもしれません。」

「手を打つとしたら、お子さんのところへ向かっているのではないですか。」

「ええ、わたしもそう思います。」

コーディは電話越しでレオンの顔を見ながら考えた。考えてたどり着いた言葉を口にしなかった。

「わたしはこのまま、レオンさんと診療所へ向かいます。」

「情報ありがとうございます。旅の行程の無事をお祈りしております。」

電話を切ったあと、コーディはため息を着いた。不審に思ったレオンは言葉をかけた。

「なにか、悪い知らせでもあったの?」

「いいえ、何でもありませんよ。」

レオンに笑顔を傾けてコーディは荷物を手にした。レオンも荷物を手にして後についていった。そして、ふたりはエアバス乗り場に向かった。





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