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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二十九章 青い果実Ⅱ
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第二十九章 青い果実Ⅱ 8

「あはははは、あはははは」

スタンドフィールドドックの展望台に笑い声が響いた。ステファノだった。

「あははは、レイン、最高だな。」

レインは下を向くしかなかった。苦みばしった顔をして、ステファノの笑いがおさまるのを待った。

「ああ、俺、好きだな。そんなレインがさ。あはは。」

後ろから風が吹き込む感じがしたので、振り向くとジリアンが立っていた。

「レイニー、恥ずかしいから誰にもしゃべらないでって言ってなかった?」

「あ、ジル。そ、それは、そのぉ、ステファノに質問があって、話すしかなくて。」

ジリアンはしばらく、二人をにらみ付けていた。

「いつの間にそんなに仲良くなったわけ?まったく。」

ジリアンは紙と鉛筆を取り出して、岩山の天辺へのドアを開けて出て行った。

レインが困った顔でステファノを見ると、お手上げだという素振りをしていた。ステファノの笑いがおさまったので、レインは質問をはじめた。

「酔っていても、反応ってしないものなの?」

恐る恐る口にしたら、笑いを堪えるステファノに対して、真剣な目で見つめると顔色を変えて返答した。

「そういうこともあるということだな。割とデリケートなんだよ、オトコって生き物は。」

納得がいかない様子で、考え込んだ。

「局所を触られても反応しないときはしないんだな、これが。」

「へぇ。」

年頃だから、性教育について無関心でもなく理解していたつもりだったが、コーネリアス付きの執事ピエトロやロブの同級生ヴァンが口にしていたように、実際の体験じゃぜんぜん違うことなのだろうと思うようになった。

「好きな女性とそういうことになっても、反応しないものかな。」

ステファノは鼻で笑った。レインはふてくされた。

「それが聞きたかったんだな。」

レインの顔色をみていたが、的を得ていたようだ。

「反応しないこともあるだろう。緊張していて肩に力が入っていたり。まぁ、そういうのは、お互いのコミュニケーションで成り立って雰囲気が大事ってことかな。」

「ふぅ~ん。」

ステファノは、仕方がないかなと思っていた。初めての体験が何もなかった、しかも自分の同意のもとでもないところからくるから、心配になって仕方がないのだろうと。

「失恋したって話だったよな。生きているんだったら、失恋したぐらいであきらめるなよ。」

「そう、言われても。」

恋敵ライバルでもいるのか。」

「婚約者がいるんだ。仲良くしていたし。」

「相手から奪ってやるくらいの気持ちはもてないのか。」

「そんな、けしかけられても。」

「ふっ、なんかはっきりしない言い方だな。」

「好きなのかどうかも、わからなくて。ただ・・・。」

「ただ?」

「胸が苦しくなるんだ、考えると。」

「まぁ、それを恋だって言うんだけどな。」

まだ、十代だものなとステファノは納得した。

「ステファノは、どうなの?」

恐る恐る聞くレインに対して、ステファノはつぶやいた。

「そう来たか。」

ステファノはスタンドフィールドドックにきて、あまり周囲に素性を話したがらなかった。話さないのなら、無理して聞き出すこともないとディゴは言った。ほかの者もそれに同意した。それはロブがカスターを連れてきた時と同じだったからだ。

ステファノが話をしたのは、自分が生まれ育った村が黒衣の民族に襲われてなくなったことからだった。村人は武術を身に着けて、村を自らを守ってきた。自然災害によって村で生活できなくなり、男たちは村を出て出稼ぎにでた。身につけた武術で生計を立てていた。残った女たちは身につけた武術で村を守ったが、黒衣の民族による襲撃を受けて、若い女たちは連れ去られた。村は壊滅状態になり、出稼ぎに出た男たちは帰る場所を失った。まだ、10代だったステファノは村を出たばかりだった。

「惚れた女は、俺より図体がでかくて俺より強かった。村を守るために盾となって、命を落としたと聞いた。彼女のおかげで幼い子供たちは村を脱出することができたとも聞いた。」

レインは最初に言ったステファノの言葉の意味をかみ締めた。

「惚れた女が生きているのなら、あきらめるなと俺は言いたい。」

唇をかみ締めて返答できずにいるレインに、ステファノは勘付いた。

「もしかして、惚れた女って、軍人なのか。」

レインは横を向いた。


ジリアンは岩山の天辺で紙を広げた。それは天気図の原紙だった。空を見上げ、雲の様子で判断をし、気圧の線を書き込んでいく。雲の動き、早さを見極めて、風の強さを確認する。そうやって、得意の天気図を描きこんでいった。

時に手を止めて、考え込んだ。レインのことを。いつも一緒だった。2歳違いで体の成長やら学業の違いは多少あっても、なんら変わらなかった。いちばんの違いの点は容姿だった。レインは初等科から、女子生徒にまとわりつかれていて、女の子が騒がなかったことはなかった。それはいまも変わらないと思っていた。

「初等科の女の子たちなんて、かわいい者だったんだな。」

成長するにつれて、度が越していくのがわかったのは、ジリアンの知らないところで、レインが女性にからまれていくことだった。車椅子の老婆、白髪の女性カオル、コーネリアスと。

「大人に成りたくないな。」

レインをスタンドフィールドドックにつれて帰ってきた時、ジリアンはそう口にした。その言葉に返して、ディゴが言った言葉を思い起こした。

「俺やフレッド、ロブはそう思ってないぞ。息子たちが成長する姿を楽しみにできるからな。」

大人の責任は自分以外のものを守る責任で、そのかわり子供が成長する姿を垣間見て生きていくことができるのだといったものをジリアンは理解できた。

プラーナのことを思い、ジリアンはプラーナの父親にさとされたことを考えてつぶやいた。

「将来の責任を負いたくないなんて、思いたくないな。」

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