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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二十八章 衝動の波紋
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第二十八章 衝動の波紋 8

澄み渡る青い空、山脈に囲まれた荒野にスカイロードの施設が広がっていた。花火を合図に卒業式は始まった。色とりどりのエアジェットが大型空挺から発進し、地上からは一人乗り用のパジェロブルーが離陸した。ブルーの翼に透明な機体が太陽の光を浴びてより一層輝きを放ちながら、パジェロブルーは華蚊帳かに飛行した。グリーンオイル財団研究所からの提供機体なので、デモンストレーションを兼ねたアトラクションを披露した。垂直飛行、燕返し、一回転飛行をするのみだった。卒業した優秀な人材がアトラクションに華を添えた。クライマックスに入ると、レテシア操縦のオレンジのエアジェットと、ジェフ操縦のワインレッドのエアジェットが、アトラクションする。垂直飛行から燕返しはもちろんのこと、平行飛行から重なり合う背面飛行で回転を繰り返した。地上では関係者と卒業生・在校生に、保護者や家族といった観客たちが歓声をあげていた。

レテシアは感極まって涙を流していた。自分が卒業する時に披露するはずだったものが練習時に事故ってやり遂げることができなかったからだ。

「ジェフ、ありがとう。」

「何を言ってるんだか。御礼を言わなきゃいけないのは、俺のほうだ。ありがとう、レテシア。」

「これで、思い残すことは無いわ。」

その言葉に返事することができなかったジェフは、レテシアが軍を除隊するのではないかという密かな期待を抱いたからだった。

レテシアが地上を見下ろすと、観客が手を振っているのが見えた。いつものように、低空飛行をこころみ、レインの姿を一目見ようとしたが、通信部から制止の命令がきた。

「危険ですから、低空飛行はやめてください。」

レテシアは仕方なく、操縦桿を強く握り締めて、急速上昇をした。

ジェフは、他のエアジェットが帰還したのを確認して、大型空挺に帰着した。


レインは観客に動じず、エミリアの関係者を探していた。あたりを見回すその姿はすこし目立っていてジリアンが辞めさせようとしたが、気にも留めていなかった。エミリアの婚約者を見つけ出すのは辛いけれど、エミリアの父親という人を人目みたいという気持ちが沸いてきていた。一際ひときわオーラを放つ将校がいたのだが、若い上に位が高くないように思えた。その人物がレインと目があって、笑顔を傾けたのでレインはすこし衝撃を受けた。目をそらして、大人しく席に着いた。

「見つかったの?」

「違う。」

先ほどまでの鳴り止まない歓声が、どよめきに変わり始めたのはそれからすぐのことだった。まわりの様子が急変し始めると、軍関係者がこぞって、退席していった。他の観客たちはその様子にどうようするばかりだった。レインはまた、当りを見まわし、エミリアの婚約者をみつけると、その先に将軍らしき人物が足早に立ち去る姿がみえた。

(あの方がエミリアさんのお父さんだろうか。)

レインがその人物を見つめていると、ジリアンが誰かを見つけたらしく、声を掛けていた。

「アップルメイト大尉じゃないですか。ご無沙汰してます。」

「あら、ジリアン君。だったわね。」

「ええ、そうです。何かあったのですか。」

「それが・・・。」

山岳警備隊のアップルメイト大尉はジリアンに耳打ちするように騒ぎの内容を話した。

「そ、そんな・・・。」

レインがその内容を聞こうとジリアンの袖を引っ張ると、ジリアンはレインに語らずにアップルメイト大尉に小声で話した。

「あの、皇女殿下はここにいらっしゃいますが、皇帝陛下は、そのぉ。」

「無事らしいわよ。」

アップルメイト大尉は当りを見回しながら、答えた。

「皇帝は殿下を溺愛されているとのことだから、この場にいるかもしれないらしいわよ。」

「え、本当ですか。」

レインは内容が理解できていないので、イラついてジリアンの腕を引き寄せた。

「何があったんだよ、教えてよ。」

「もう。」

ジリアンはレインに耳打ちした。

「え!?宮殿が・・・。」

大きな声を出したので、ジリアンとアップルメイト大尉から口を塞がれた。

「馬鹿!」

「馬鹿って、言わない。」

「皇帝陛下がいるかもしれないってことなんだよ。」

「え?!」

レインは先ほど目が会った将校の事を思い返した。もしかして、そうかもしれない思いがした。なぜなら、フェリシアに似ていたからだ。振り返って先ほどの将校を見ようとしたが、その場にはもういなかった。

「わたしは山岳警備隊だし、呼び出しは掛からないと思うけど、体制的に動かないといけないから、すぐに駐屯地にもどらないといけないかもしれないわ。」

「すみません、足止めしてしまって。」

「いえ、いいのよ。また、どこかで、お会いしたときには、ゆっくりお話でもしましょう。」

「ええ。」

大尉が去って、あたりの観客席には人がいなくなっているのに、気がついた。

「僕たちどうしたらいいのだろう。」

「宿泊施設にもどったらいいんじゃないかな。」

空を見上げると、大型空挺が飛行していなかった。パジェロブルーは地上に着陸していた。ジリアンはフェリシアのことを心配していた。本人が無事だとしても、自分が生まれて育った場所が攻撃されたとあれば、心を痛めているに違いないと。

ふたりが宿泊施設に到着すると、若い軍人が見つけたといわんばかりに近づいてきた。

「レイン=スタンドフィールドさんですね。」

「はい、そうです。」

「レテシア=ハートランド少尉が卒倒されたのです。診療室にいらっしゃいますから、一緒に来てもらえますか。」

「え?」

「どうしてそうなったかは、診療室に来られてから説明があると思います。ジェフ=マックファットさんがついておられますから。」

どのような症状なのだろうと、思いつつ、レインたちはその軍人について行った。

診療室に入ると、なかにジェフが座ってレテシアの様子をみていた。

「ジェフ。」

「大丈夫だよ。今は安静にしているから。」

ジェフは二人に椅子を差し出し、座るように促した。

「なにがあったのですか。」

「冷静に聞いて欲しいんだが。」

「はい。」

レインは唾を飲み込んだ。

「宮殿が攻撃された話は聞いてるかな。」

「ええ、観客の中で軍の方々が退席されるのをみて、原因を知ることができました。」

「攻撃をされたというのは、宮殿にグリーンエメラルダ号が落ちてきたからなんだ。」

「ええ!?」

ジリアンは即座にレインの口を両手で押さえた。そして、三人はレテシアの様子をみた。微動ダニしない様子をみて、ためいきをついた。

「で、メンバーは無事なのでしょうか。」

「それが・・・。」

ジェフがレテシアの方をちらりとみたので、察しがついた。レテシアの叔父である艦長が無事ではなかったのだと。

「カスターが残っていたのですが。」

「カスターね。無事だといいのだがといったところかな。はっきりとはわかっていないんだが。」

「無事だといい?」

「ああ、どういうわけだが知らないのだが、アルドラー少尉の話だと、前日から独房にいれられていたみたいなんだ。」

「独房?」

「ああ、そして、アルドラー少尉が責任をもって見張っていて、グリーンエメラルダ号の緊急事態に開放したのだが、その後消息がつかめていないらしい。」

「そんな・・・。」

レインはさっきから聞こうとして聞けない事を聞く覚悟を決めた。

「ハートランド艦長はどうなったのですか。」

「おそらくは、グリーンエメラルダ号とともに心中したものと。」

「その話をお母さんは聞いたのですね。」

「ああ、そうだ。」

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