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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第四章 それぞれの受難
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第四章  それぞれの受難 5

登場人物


レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟・愛称ジル)

ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄)

カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信部・愛称キャス)

ラゴネ=コンチネータ(レインたちの叔父・グリーンオイル生産責任者)

ジゼル(スタンドフィールド・ドックのクルーで食堂担当。ディゴの妻)


セシリア(前にスタンドフィールド・ドックにいてたマーサの知人・愛称セシル)


マーク=テレンス(タイディン診療所の医者)

ミランダ=テレンス(マークの妻・診療所の看護士と医療事務員)

ダン=ポーター(前タイディン診療所の医者)

クレア=ポーター(ダンの養女・医者)

コーディ=ヴェッキア(クレアの相棒)

展望台の部屋に、大きな図面が広げられていた。

バーン。

その図面の上にクレアは両手をたたきつけた。

「これが、スカイエンジェルフィッシュ号だ。」

「えっ、なんですか、これ。」

「空挺でしょ、何の空挺ですか、クレアさん。」

両手を図面にたたきつけたまま、クレアは下を向いた。

「ふふふふ、これは嫌がらせだよ、ロブ。」

「誰のですか。」

「セシリア=デミストの復習なんだよ!」

クレアは顔を上げて、笑顔でロブに言った。

「セシリアさんって・・・・。」

カスターは聞き覚えがあって、思い出すように口にした。

「セシリアをグリーンオイル財団が引き取ったのは知っているだろう。」

クレアは腕を組み、後ろを向いてふたりを背にして話し出す。

「ええ。それで、まさか・・・。」

「そのまさかだよ。セシリアは、デミスト家の坊ちゃんと結婚したんだよ。知らなかったか。」

「知りませんよ、そんなの。」

「デミスト家の坊ちゃんはセシリアと幼馴染で、将来お嫁さんにしたかったんだってさぁ。」

「はぁ、そうですか。で、嫌がらせって・・・。」

「グリーンオイル財団の理事長が去年交代した。前理事がなくなられたとのことでね。

前理事長の甥である、デューク・ジュニア=デミストは、理事長就任にあわせて、慈善事業を展開することを決めたそうだ。

その一端が人名救助隊だそうだ。」

クレアは振り返って、図面を指差して言った。

「クレアさんに白羽の矢があたったんですね。」

カスターは、褒美欲しさの犬のように言った。

「嫌がらせだと言っただろうが。ブオトコ。」

「はぁ~ん、ごめんなさい。どうして嫌がらせなんですか。」

「あたしたちを表舞台に引きずり出す。人命救助とか大義名分、事あらば始末すること。」

クレアはカスターをにらみ、口をゆがませて、驚かせた。

「ひいぃ~、そんなぁ。」

「クレアさん、俺たち目当てとは思いませんが。」

「もちろんだ。セシリアはあの話は知らない。だから、金を使ってあたしたちを見世物にして、苦しむ姿を拝みたいのだろうよ。」

「人命救助で苦しむんですか。」

「カスター、お前、軍隊にいたんだろう。」

「はい、除隊になりましたけど。」

カスターは直立不動になっていった。

「人が死んでいく様を見なかったか。」

クレアは軍隊の上官のようにカスターに質問をする。

「いえ、そんな経験はありません。」

「あたしたちは、いくつも経験した。人命救助とかって職を与えられても、必ず助かるとは限らない。」

ロブはその話を聴いてあきれていた。

「あいつらが、わざと助けられない指令とか、下されないでしょう。」

「さぁな。あのオトコがなに考えてるかわからないんだ。」

「あのオトコって誰ですか。」

「デュークだよ。狐目をした、人をさげすむような目で見るオトコだ。」

「会ったことはありませんが、かなりやり手だって聞いてます。」

「表の財団と、裏の財団がある。デュークは裏の財団だったが、表の財団だった前理事長に跡継ぎがいなかったことでデュークが表に出てくるように計画されていたらしい。」

「そういう話をどこで手に入れるのですか。」

「キャス、お前が除隊になった理由は、窃盗だろう。」

「ロブ、な、なんてことを言うんですか。僕が窃盗なんてしていません。」

「どうして、敬語になるんだよ。」

「濡れ衣で無理やり書かされたけど、えっとぉ、始末書。でも、それは処分してやるから依願除隊しろって。」

「それで病気を理由に除隊したって話だろ。でも、裏では窃盗を犯したという情報が流れている。」

「ひぃ、冗談だろう。物品がなくなったのは、僕たちのせいではないんですからね。」

「さっきの話を聴いていたのなら、わかるだろ。裏をとるにはその手の情報屋とのつながりがある。」

「そんな情報網が、このドックに必要かな。」

「必要だ。そうでなくても、いまだに黒衣の民族カラスに命を狙われている。」

「ドックに必要なくても、あたしには必要だ。いろいろと、足を伸ばせは、いろんな人間とのつながりはできる。」

「で、話を元に戻していいでしょうか。」

「脱線させたのは、お前だろうが。カスター」

「はいぃ。嫌がらせって・・・・。」

クレアは深呼吸して、力を込めて言った。

「しかも、この空挺の塗装色は、オレンジと黒なんだよ!セシリアのたってのお願いだってさ!」

「そ、そんな・・・。」

「狙ってやってくださいっていうことか。オレンジと黒って、的じゃないんだから。」

ロブは自分の体から力が抜けていくように感じた。

「わざわざ、お話してくださるんだよ、そのセシリアのご主人はさ!」

とそこで、二人には聞こえない物音が聞こえたロブが耳を澄まして言った。

「しっ!黙って。」

ふたりは神妙な面持ちでロブの顔をみた。

「ジリアンがこっちに来る。」


コリンが安心して、診療所から出て行った。

老女にまみれてバスに乗り込むコリンを、レインは見送っていた。

病室からは見えないが、診療所前の道からは、ドックがある岩山が見える。

レインはさびしそうに岩山を眺めていた。

「レイニー、お昼にしましょう。中に入って。」

ミランダが玄関からレインに声をかけた。

「あ、すみません。」

レインは足早に中に入っていった。

午前の診察を終えて、マークは診察室から、居住スペースに入っていこうとした。

レインは診療所に入院中、食事をマーク夫妻の居住スペースでとっていた。

「三人の食事は今回で終わりだな。」

「まぁ、あなた、そんなことをわざわざ言わなくても。」

「ご迷惑をかけしまって、ごめんなさい。」

「謝らなくてもいいの、レイニー。これはお仕事でもあるし。子供のいないわたしたちにとって・・・。」

「おいおい、そんな話をするなよ、ミランダ。」

「ああ、ほんと、ごめんなさい。昼食をいただきます。」

三人は、黙々と食事を始めたが、辛気臭い話をしたくなかったので、マークが思い出したように話をしだした。

「そういや、クレアがドックに来るらしいな。」

「ああ、朝には到着したみたいですよ。サイレンが風に乗って聞こえてきました。」

「あら、わたしたちはサイレンなんて、聞こえないのに。」

「耳慣れた音ですからね。微かなボリュームでもわかりますよ。」

「カスターには言っておいたが、クレアがきたのなら、ここに顔を出すようにって。」

「そうねぇ、クレアには2年ぐらいあってないわね。」

「そうなんですか。ドックには半年に一度くらいは来られてますけど。」

「やっぱり、診療所に足を運ぶのは抵抗あるのかしら。」

「ダンの第一発見者だったからな、クレアは。」

結局、辛気臭い話につながってしまった原因をつくったことに気づいたマークは、罰が悪そうにもくもくと食べ始めた。

「ダンのことで、危険な目に合ってないことを祈るばかりなの。

レイニーたちもロブのことが気がかりなのと一緒よね。」

「クレアさんが、医学生時代に下宿していたのが、マーク先生のお家だったんですよね。」

辛気臭い話をそらすような話題に切り替わり、マークはため息をついた。

「そうだ。あのときは、まだ素直でおとなしい女の子だったがな。」

「まぁ、あなた、そんなこと。大人になっても素直なよい女性ですよ、クレアは。」

それから、クレアの下宿時代の話に花が咲いて、苦笑いしながら、レインは二人の話を聞き入った。


「うわぁ、すごい。この設計図は空挺ですか。」

ジリアンは目を丸くして図面を見渡した。

「そうだよ、今は思索段階で、製作には着工していない。いろいろと専門家の意見を聞いて、使い勝手も加えないとね。」

「クレアさんが搭乗する空挺ですか。」

「ああ、そうだよ。この空挺を飛ばしまくって、人命救助に当たるの。」

「すごいですねぇ。」

ジリアンは目を輝かせて図面を見ていた。

天気図を見ることができるが、図面では概観図ぐらい理解できていたジリアンだった。

「兄さんも搭乗するの?」

「ああ、そのつもりだけど。」

クレアはロブに目をやりながら、ニヤリと笑った。

その様子に不安を覚えたロブだった。

「ジリアン、お前ものるんだよ、この空挺に。」

「え、ほんとですか。」

「何を言ってるんですか、クレアさん。乗せませんよ。」

「なぁに、言ってるんだぁ、ロブ。乗組員を集めるっていって、ちっとも集めてないだろ。」

「それと、ジリアンをのせるのとは、話が違います。まだ、いろいろと教え込まなきゃいけないことがあるのに・・・。」

「仲間を巻き込みたくないって悩んでいる男に覚悟をきめさせてあげるよ。レインとジリアンをクルーにいれることだ。」

クレアはロブをにらめつけた。

ロブもクレアににらみ返した。

「危険なことはさせたくないっていうのは親心だが、かわいい子ほど、旅をさせろという。

成長できなくなるんだよ。そんなの過保護なんだよ!」

カスターはいつになく真剣にふたりの話を聴いていた。

ジリアンは罰が悪そうにじっとしていた。

「もうひとつ、提案しておく。レインとジリアンには、母親が必要だ。

母親代わりがいたほうがいいだろう。」

「まさか、ジゼルを。」

「まさか、ジゼルには、わたしが取り上げたチビがまだ2歳にもなってないじゃないのか。

連れて行くわけ無いだろう。」

「じゃ、誰を。」

「コーディだよ。あの子は、わたしなんかより、よっぽど母性本能がある。」

「はぁ~、そうなんですか。」

「クレアさん、彼女は、信用できるのですか。」

「そうだねぇ。グリーンオイル財団からのお目付け役としてあてがわれたからなぁ。

今夜話をつけるさ。」

クレアは片手でコップを持っている振りをして、口につけるしぐさをした。

「お目付け役ってわかってて、彼女を連れてきたんですか。」

「ああ、コーディが介護していた金持ちっていうのは、前グリーンオイル財団理事長ダグラス=Jr=デミストなんだ。」

BGM:「獅子の種」ジン

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