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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二十八章 衝動の波紋
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第二十八章 衝動の波紋 5

スカイロードの施設を案内すると言って、在校生が現われると、レインたちと共にB棟を離れた。レテシアとジェフは打ち合わせをしたいと言って、その場に残った。

「レインの様子がおかしいの。」

一児の母だという自覚があることに安堵感を得たジェフはため息をついた。

「ジェフは何か知っている?」

「知るわけないよ。」

知っていると言えば知っている。でも、そのことを口にするのは筋違いだとジェフは思っていた。

「機会があったら、聞き出してもらえないかしら。」

「だめだよ。レインが何も言わないのなら、聞き出してもだめだ。ロブともそういうことあっただろう。」

まるでレテシアの兄のように諭すものだから、何も出来ないと嘆くように不安な顔をした。

「10代の男の子じゃないか。いろいろあるだろう。」

「そうね。でも、何も相談してくれないのが寂しいの。」

「ジリアンがいてるから、大丈夫だよ。いつも一緒だ。何かとレインの事を気に掛けているし、心配要らないよ。」

「ロブにはフレッドがいたものね。」

ジェフは手にしていた書類をレテシアに渡した。

「アトラクションをするのは知ってるね。」

「ええ、恒例ですもの。」

「デモンストレーションを兼ねるらしい。」

「何のデモンストレーションなの?」

「パジェロブルーのコピーだよ。」

「パジェロブルー?レインたちが乗っていたエアジェットのことかしら。」

「ああ、そうだよ。レテシアが原案を出したと全面的に公表するらしい。」

「何の意味があるのかしら。」

「さぁね。」

書類に目を通して、ある文章に目が留まり、レテシアは奇声を発した。

「うそ!」

事態を予測していたジェフは冷静だった。

「背面ツイン飛行をするというの!」

「ああ、そうだ。俺たちが失敗したアクロバット飛行だ。」

忘れもしない、卒業間近のアトラクション訓練の時に事故をしたことだった。事故でレテシアは重症を負い、卒業を見送られた。ジェフはホーネット隊を希望していたが事故を期に山岳警備隊に変更していた。

「トラウマになってないかしら。」

「それを俺に聞くのか。きつい事を言うんだな。」

「ごめんなさい。でも、あれから、17年以上経っているけど・・・。」

「大丈夫さ。あの頃のようにびびったりしない。俺自身もそういうところから卒業したいって思っていたから。」

「幼い子の父親になったからなのね。私には考えも及ばないことだったわ。」

「まぁ、その辺は、男と女の違いはあるかもしれないな。びびって事故したのは俺のほうだし。」

レテシアのまなざしはまっすぐで、らさないで見つめ返すのはなかなか出来ない。真剣さを相手に伝えるためには、見つめ返すしかなかった。

「話しがある。」

「なぁに?」

「裏のホーネットから離れるんだ。」

考えも及ばない言葉に、レテシアは動揺した。

「なにがあったの?SAF爆破事故に関係あるの?」

「君も知っている通り、軍部は分裂しつつある。」

「ええ、聞いてるわ。艦長が軍部に派閥が出来て、グリーンエメラルダ号は厄介者扱いをうけていると。そして自分の身は自分で守るように言われたわ。」

軍部のなかでは、皇帝排除派と民族解放派、皇帝側の派閥に分かれてきていた。はっきりとした境界があるわけでもなく、上層部のほうで分裂しつつあって、下層のものにはまだ浸透していなかった。

「裏のホーネットが皇帝側だという認識は間違っていないわ。でも、わたしは・・・。」

「わかっている、ロブのためだろう。」

レテシアは開いた口がふさがらなかった。全部お見通しという思いがジェフから感じ取られた。

「黒衣の民族からロブたちを守るために、裏のホーネットに着いたというのなら、それは見当違いだ。」

「どうして?」

「いま、どういう状態に追い込まれている自覚しているのか。」

深くは考えることができなかった。イリアという重荷を背負って、良いように動かされていることはうすうす気づいていた。徹底的に拒否する理由も見つけられないままに、いいなりになっていたのは事実だった。

「艦長も見て見ぬ振りをしているだけではないはずだ。」

レテシアは唇を噛締めて、心の痛みを抑えていた。

「でも、どうしたらいいの。イリアを見捨てるわけには行かないわ。」

「話は聞いている。クレアさんも何も知らないわけではなかった。」

「クレアさんが?」

「ああ、白髪の少女ことを探っていたのは確かだ。」

「そんな。」

「レテシアの事をロブより、一番心配していたんだ。気にならないわけがないだろう。」

手にした書類を丸めて、ぎゅっと握り締めた。

「ジェフは、その派閥抗争の関係で除隊したの?」

「そう言っても過言ではない。しかし、ホーネットは皇帝だけが利用しているわけではない。」

「皇帝ではないというの?」

ジェフは知っていて敢えて害の情報をレテシアの耳に入れた。皇帝の影武者がいて、それはグリーンオイル製造会社の手管ということ。ジョナサンはその影武者にそそのかされて懐柔されていたこと。イリアにはレテシアを傷つけないことを条件に脅されていること。

「そ、そんな。」

レテシアを不安に陥れるような情報は耳に入れたくなかったが、これも彼女の身を守るため、ロブたちの身をまもるためであり、クレアの意向でもあったから、身を切る思いで話をした。

ジェフは知っていた。レテシアたちがいないグリーンエメラルダ号が危険に晒される事を。しかし、それは口にしてはいけないと思っていた。


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