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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二十七章 黄金の紋章
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第二十七章 黄金の紋章 2

ジヨイスと名乗っていた少年レオンは友人に連れられて司書室に入った。友人はある本棚から一冊の本を取り出した。 青いベルベット生地で装丁されていた。机の上にその本をおき、開いた。

「僕が話していた、君にそっくりな人がここに、どう?」

「どう?と言われても…。」

レオンが開かれたページを見入ると、そこには確かに似た人物の写真が載っていた。金髪、そばかす、痩せ型の少年。しかし、その少年の頭には王冠が載っていた。目を見張って、本を閉じ、表紙を確認した。

表紙には黄金のエンブレムが付いていた。獅子が吠えている紋章である。

レオンは眉間に皺を寄せ、また先ほどのページを開き確認した。王冠をかぶった少年の生誕と逝去の日付を。

(合わないな。)

「ジョセフ=デ=ドレイファス、時の皇帝でしょ。僕が似ているのというのはなにか偶然でしょう。」

「でも、僕は君のその毅然とした態度、姿勢が普通の人と同じだと思えないんだけどよね。」

「買いかぶりすぎだよ。」

「そうかなぁ。」。

「前は、いたずら好きなやんちゃな頭の悪い子供だったのだから。」

レオンはページを何枚かめくった。戴冠の少年が次第に成長していく姿をみていく。威厳をもち厳かな面持ちに変化していくさまにひきつけられていく思いがしたが、もっと惹かれる写真が出てきた。

マルティン=デ=ドレイファスの少年時代の写真だった。父親の少年期に同じく、金髪・そばかす・痩せ型だった。生年月日を確認して、吐きそうになった。

「今の皇帝の少年期にもそっくりだね。」

本をあわてて閉じて、青い顔になった。レオンの頭によぎったのは、自分が命を狙われる理由。そして、今の皇帝に男子の跡継ぎがいないことは知っていた。

「ま、まさか。」

「ど、どうかしたのか。」

「いや、大丈夫。」

その場を取り繕って、友人に心配かけないようにした。

レオンは不憫なことに生まれてきた理由を知っていた。知り得てなお、母親のウィンディのそばにいたいと言った。どんな境遇にさらされ様が自分の生まれてきた意味を見失わないためには母親のそばにいるしかないと思っていたようだ。シヴェジリアンドの地でレッドオイル爆弾攻撃のあと、別れたのは自身が大人になるための儀式だと捉えていた。その答えにたどり着くまでに、このトランスバランスという宗教団体のコミュニティで自分と葛藤してきた。瞑想や体力増強など、自身を強くしていくための修行や体得はうってつけだった。

逃げるばかりが身を守る術ではないだろう。もっと、堂々と生きていくために、見識は広げていくべきだと考えてきた。その時期がくるのは、クレアの使者が迎えにくることだと信じていた。

信じがたい情報に振り回されないように、今はその可能性も視野にいれることだけにしようと、友人の言葉を受け止めた。そして、よりいっそう、思いを強くした。

(クレアが導いてくれるものに乗っていこう。)

「レオン、君に迎えがきたら、本当にここを出て行ってしまうのか。」

「ああ、最初からそのつもりでここにいてたんだよ。」

「先導師は君の意思を尊重してたけど、内心は君をそばにおいておきたいみたいだよ。」

「その気持ちはとてもよくわかるよ。惜しみなく教授してくれたし、親のように叱責してくれた。ほんとうに僕が変わることはできたのは先導師のおかげだと感謝している。」

「だったら、なおさら、その恩返しに・・・。」

「でも、それがすべてだとは思わない。僕は最初からここにとどまるつもりはなかったんだから。去るときは去る。」

「なんだか、寂しいことを言うんだね。」

「ほんと、ごめん。」

取り出した本を元に位置にもどして、ふたりは司書室をでた。

でると、男性が一人立っていた。

「こんなところにいたのだね。探していたんだよ。」

「先導師、なにかあったのですか。」

「レオンに来客だ。今度は本物かもしれないな。」

「そうですか。本物だといいのですけど。」

友人はレオンの手をとり、握手を交わした。

「今度こそ、さよならだね。」

レオンはうなづくだけだった。

そして、先導師に向かって言った。

「確認を取ってからだよ。」


グレーのマントを着た男がトランスバランスの受付を済ませ、案内されて建物の中を歩いていた。

辺りを見まわすことなく、案内する男性の後頭部みていた。

その様子をガラス張りの待ち合わせ室でみていたレオンは、何かを感じた。

(クレアが好みそうな男性だな。)

待ち合わせに入室して、レオンを紹介された男は、自己紹介した。

「ジェフ=マックファットというんだ。クレア=テレンスの依頼で迎えに来たよ。」

レオンは満面の笑みで返事をした。

「お待ちしておりました。旅立つ準備はできております。荷物を取ってまいりますので、もうしばらくお待ちいただけますか。」

「ええ、もちろんだよ。」

「よろしくお願いします。」

手を出されて、ジェフはレオンと握手をした。そして、レオンが待合室を出て行く姿を見守っていた。ロブから聞いていた話の少年とは別人だったので、すこし戸惑った。


ジェフがレオンを迎えに来たのは、セリーヌ=マルキナの指示だった。クレアの依頼だということだったが、クレア=テレンスの名を持ち出すように言われたことに意義を唱えた。ロブがその理由を述べたので、納得した。

「テレンスという名は、クレアさんの義父さんが開いていた診療所の後を継いだ方の名だよ。」

あえて、ポーターと名乗らない理由を、その後、レオンから聞いた。そして、面食らった。

「クレアさんはそこまで考えていたのか。」

「おそらくは、ですね。」

死してなお、生きているかのように、その指図に従う自分たちが手のひらで動かされているように思えた。

そして、レオンはジェフにつぶやいた。

「おそらくは、母がなぜ強姦されたのか、理由を知っていたのだと思います。」

ジェフは不憫だと思いつつ、レオンに生い立ちを聞くことにした。

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