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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二十六章 空飛ぶ翡翠
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第二十六章 空飛ぶ翡翠 7

思念を送られてきたイリアは、適当なガラスの小瓶を探し出し、グリーンオイルを少量入れ、指を切って自分の血を流し入れた。その小瓶をポケットに入れ、甲板に出てきた。その姿をカスターが見て、レインのことを聞こうとして声をかけようとしたその時だった。イリアが赤い小瓶を外に向かって、投げ込んだ。その場所から、レッドボードにのったタカシが現れ、手に赤い小瓶を持っていたのを目視した。

黒衣の民族は、レッドボードが急上昇する様子を合図にして攻撃をやめ、グリーンエメラルダ号を離れていった。

ジリアンがレインを探しに司令室に現れたときには、黒衣の民族が散在した後だった。

「はぁ、はぁ、レインを探していたのですが・・・。」

鬼艦長は制帽を目深にかぶって、席を立った。

「あのぉ。」

「戦闘は終わった。敵は退散して行ったのだ。自分たちの持ち場に帰りたまえ。」

鬼艦長は司令室から出て行った。

「グ、グレン少尉・・・。」

「度肝抜いたよ。ポールによじ登っている姿が目に付いたと思ったら、敵のレッドボードに飛び移るんだから。」

あきれた様子のグレン少尉に、ジリアンは驚愕していた。

「それで、レインはどうなったんですか!」

「ただいまから、帰還します。」

通信からレテシアの声が聞こえた。

グレンは後方を指した。

「最終的にひまわりが回収したよ。」

ジリアンは、その場で座り込んで安堵した。

「いつも、ああなのかい。」

「ええ、考えなしで行動してしまうので、制止しようと思って探していたのです。」

「そうか。考えなしは母親譲りかな。」

「どうでしょうか。僕たちは民間人で。ここは軍配下のタンカーですから、敵に襲われても仕方ないです。兄からは散々注意されたし、その嫌な思いもしたので、もうしないと思ってました。」

「敵は黒衣の民族で、レッドボードがいた。」

「レッドボード?」

「レテシアの報告だと、レインは経験があると言ったそうだ。」

「SAFの出発式のときに襲われましたが。」

「そ、それだな。レッドボードが現れた話を聞いたよ。」

「そ、そんな・・・。あの時は死ぬかもしれない怪我を負わされたというのに。」

「まぁ、勇敢な行動は買うけど、家族にこんな心配かけさせちゃいけないね。」

「それは父親譲りですよね。」

そういって、ジリアンは苦笑いして見せた。グレン少尉は笑顔を向けて、手を差し出した。

立ち上がったジリアンは司令室から外を眺めて、雲行きが怪しくなる様子をみていた。

「雷雨になりますね。」

グレン少尉は振り返って、うなづいた。


カスターはイリアの姿を見かけると、すぐさま声をかけた。

「君はいったい何者なんだ。」

無言でにらめつけるので、カスターはイリアの腕を取った。

「僕は見たんだ。君が投げた小瓶を敵が受け取って去っていく様子を。」

イリアは腕を振りはらうと、ポケットから何かを取り出し、すぐさま、カスターの首元に触った。

カスターはチクリと痛みを感じたかと思うと、眼がくらみ、倒れこんだ。

イリアは倒れこんだカスターを軽々と抱え込んで、連れ去った。


唇になにか触れる感覚があった。目を開けてみると、見知らぬ女性がキスをしていた。

彼女の肩を握って自分から引き離したら、全裸だった。まっすぐに見つめる女性と口を聞こうとしない自分。

「どうしたの?わたしじゃだめなの?」

すがる様に見つめて迫っている女性をまた、引き離し、今度は立ち上がった。自分は全裸ではなかった。

すぐさま、その場から立ち去ろうとした。

むせび泣く女性の声が耳にこびり付き、怒りの感情を押さえつけて、冷静な態度で立ち去った。

両手を広げると、女性の背中を撫でた感触が残っている。

「まさか。」

あまりのショッキングな出来事を体験したかのように目がくらみそうに、両手で顔を覆った。

カスターは目が覚めた。まだ、うつろで頭がスッキリとしない。

目の前には上半身裸のイリアがいて、服を着ようとしていた。

さっき見た映像が現実のものなのかと、今目に見えているものは現実なのかと疑っていると、カスター自身の上半身は服を着ていても、下半身は何も履いていなかった。

「まさか。」

そう口にすると、イリアが振り向いた。

「口止め。」

その言葉に、気を失う前に何があったかを思い出した。そして、今、何が起きたのか受け入れ難いものを知り得た。

「いったい、何をしたんだ。僕に何をしたんだ。」

「麻酔を打った。そう、動揺しなくても。」

下着と服が側に置いてあったので、すぐに手に取り履いた。

「軍に在籍した時は、強姦未遂ぐらいしたでしょ。」

「あ、あれは誤解だ。」

突発的に出てきた言葉に反射神経のように返答してしまったが、そんなことまで知っていることを恐ろしく思った。

「君は、こんなことを平気で・・・。」

「平気。慣れてるわ。こうやって、キャスの心の中に進入する。」

「そ、それは、君が白い魚だって、言ってるようなものだ。」

「そうよ。体を張った甲斐があったわ。」

「なにを、なにを、知ったんだ。」

「これで、レテシアをロブの元に返すことができる。」

「え?!」

予想もしなかった言葉に、理解しようという気持ちが起きなかった。

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