第二十六章 空飛ぶ翡翠 6
サイレンが鳴り響く。レベル5の戦闘態勢でグリーンエメラルダ号は緊急事態に至った。
レッドボードを先頭にした黒衣の民族のエアジェット集団が接近してきていた。
「クルーに告ぐ、黒衣の民族と思われる飛行物体が接近中。レベル5の戦闘態勢、レベル5の戦闘態勢。」
緊張感が一気に急上昇する。この空挺艦隊において、戦闘態勢は日常的になくても、奇襲を食らうことは多々あった。
ましてや、黒衣の民族の攻撃など、数あまりある。
普段隠されて見えていなかった大砲が装備される。エンジンルーム以外に配備されているクルーたちは各々に銃を装備する。
レインたちのような民間人も乗船しているので、戦闘に参加しないクルーたちもいた。
しかして、レインたちはじっとしていられなかった。
レインなどは、スタンガンスティックを持ち出して、格納庫にきた。自分たちが操縦できるエアジェットがあるわけでもないのに。
レテシアのエアジェットひまわりが戦闘態勢のとき、イリアは搭乗しない。ひまわり出動する様をみていて、レインは飛びつこうとした。
「少尉、僕を乗せてください。」
「だめよ。あなたは民間人なのだから。」
「アクロバット飛行なら、僕も自身があります。経験もありますから。」
「あなたを危険な目にあわせるわけにはいかないわ。」
レインはきびすを返して、エアジェットから離れていった。
レインの動向が気になっていたが、任務遂行を専念するために、ひまわりを発進させた。
ジリアンはレインのことが想定できていたので、制止しようと探し廻っていた。
カスターに声をかけて、エアジェットの格納庫に向かっていった。すでにひまわりが戦闘にでていることがわかって、安堵した。
甲板にでたレインは、すでに戦闘になっている上空を見渡した。
回転しながら飛行するひまわりをいち早く確認して目で追う。レッドボードが視界に入ってきて、身震いがした。
SAFの出発式、黒衣の民族で白髪の男がパジェロブルーの上で交戦したことを思い返す。
あの時はまだ力もなくて、体も鍛えきれていなかった。今は違う。戦い方も身に着けた。体もこころも成長した。人質もいない。
旗がたっていたポールによじ登り、両手で回転しながらタイミングを計った。レッドボードが接近したのを確認すると、飛び移った。
その様子が見えていたのはレテシアだけではなかった。司令塔にいた艦長や操縦士・通信士もみていた。
「なんて、無茶なことを。」
レッドボードの翼に飛び乗ったレインは果敢に白髪の男に向かっていった。
「おいおい、あのときのガキなのか。えらく自信家になったものだな。」
白髪の男タカシは足元を肯定させていて、操縦席に合図を送った。レッドボードは回転した。
レインは咄嗟に片手で翼をつかみ、バランスをとって、振り落とされないようにした。回転して元の位置にもどると、遠心力を利用して体をひねり、タカシに蹴りをいれる。
蹴りは肩にあたり、タカシは面食らった。
「やりやがったな。」
レッドボードはグリーンエメラルダ号を離れていく。レテシアはハラハラしながら、レインの様子を視界にいれて交戦していた。
タカシはほかの者にに合図を送り、違うエアジェットが近づいてきて、レインを振り落とそうとした。
レインは柔軟に体を動かし交わし、ほかのエアジェットにわざと乗り移っては、タカシに接近し、スタンガンを打ちつけた。
「ウガッ。」
「ヨシッ。」
倒れるタカシをみて、喜ぶレインだったが、乗ったエアジェットが回転をして、振り落とそうとする。
油断していたが、なんとか、片手で翼をつかむことができた。しかし、翼の端だったので、そのエアジェット自体バランスを崩し、飛行困難に陥った。
急速に降下しはじめて、レインはつかんでいられなくなり、離してしまった。
落ちていくレインを必死に捕らえようとするレテシアはひまわりを垂直に飛行させる。
ゆっくり回転しながら、落ちていくレインは、ひまわりに身を寄せた。
ひまわりの取っ手部分をつかむと、その様子を確認してレテシアは機体を水平に戻した。
「チッ。」
タカシは肩や打ちつけられた背中を押さえ、悔しがった。操縦席に合図を送って、グリーンエメラルダ号の下に潜りこませた。
レインの行動にみんな釘付けになり、タカシの行方を見失っていた。
タカシは体制を整えつつ、思念を送っていた。
(イリア、例の物をよこせ。)