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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二十五章 レテシア=ハートランド
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第二十五章 レテシア=ハートランド 5

グリーンエメラルダ号の一室に閉じこもっていたイリア。レテシアがロブに会うため、休みを取って、空挺から降りた。

ひとりで行動できるほど、クルーたちには慣れていなかった。スカイエンジェルフィッシュ号の事件以来、ホーネットに動きがなく、イリアは大人しくしているしかなかった。

目を閉じれば、嫌なことしか思い出せない。

母親と人目を忍んでのスワン村の生活、スワン村から出て黒衣の民族から受けた白い魚としての能力覚醒、ホーネットでの汚れた仕事。

黒衣の民族から聞かされた、自分と年齢が変わらない、セシリアの最初の子。自分に似た境遇ではないかと思い、思いを寄せる。

その子に会えば、何か変わるかもしれないという思いが強かった。

まだ真実を知らないばかりに、期待を胸に膨らませることしかできないでいた。

一方、イリアをひとりグリーンエメラルダ号に残し、ロブに会うために旅立ったレテシア。

あの日あの時の自分を取り戻すべく、ありたっけの想いを詰め込んだこころを抱きかかえていた。

落ち合ったセリーヌ=マルキナに目隠しされ、乗り物に乗せられた。

空挺での生活が長かったたえ、地上での行動に慣れていなかった。胸躍る思いはしたものの、揺れる乗り物と同調するかのようにこころは揺れていた。

「もうすぐ、目的地に着きますからね。」

そういわれて、耳を澄ませてみた。

かすかに聞こえる鳥の声、木の枝が揺れる音、ここがどのようなところか想像がついた。嗅げば、グリーンオイルに似た臭いがする。

「さぁ、着きました。」

目隠しされたまま、手を添えられて、乗り物から下ろされた。

舗装されていない道を歩かされて、葉っぱが擦れる音が身近に感じられて、森に囲まれていることを感じていた。

建物に入り、木造の階段を一歩ずつ上がらせれた。

「部屋まで、目隠しなの?」

「ええ、そうです。」

階段を上りきって、廊下を横切ると、ジェフがドアの前に立っていた。セリーヌ向かって、唇に人差し指をたてた。

「レテシアさん、ここです。」

セリーヌがドアをノックして、ドアを開いた。

レテシアを中に入れて、ドアを締め切り、セリーヌは目隠しの布を解いた。

目を閉じたままのレテシアは勇気を振り絞って目を開けると、カーテンしか見えなかった。

振り返ってセリーヌを見た。

「カーテンの向こうにいらっしゃいます。私は下でお待ちしておりますね。」

セリーヌは部屋から出て行った。

部屋から出ると、ジェフの腕を取り、下に連れて行こうとした。

「無粋ですから、聞き耳立てたりしないでください。」

「聞き耳立てるつもりは無いよ。」

「どうして、ご自分の事を知らせなかったのですか。」

「オレがロブと一緒にいてることを知られるとまずいんだよ。」

「ホーネットのことですか。」

「ああ。」

「ロブさんといろいろ話していくうちに、知るようになるのではないですか。」

「まぁ、そうならないように、仕込んでおいた。」

「なにをですか?」

ジェフはセリーヌに耳打ちした。


カーテンの前で、動けずにいた。涙をこぼしてしまいそうで手は震えていた。

こころの中でずっと、どうしようどうしようと呪文のようにつぶやいていた。

時間が経って、ロブから声をかけられないことを不思議に思った。

そして、ようやく勇気をだして、カーテンを開けた。

窓のほうに向いて車椅子に座すロブは、包帯で全身をくるまれていた。

開いているのは目と鼻だけだった。

その姿に驚愕したレテシアは声をあげれず、両手で口を押さえた。涙が流れて震えた。

ロブの視界にレテシアが見えていた。涙を流せるつもりはなかったが、口が聞けないというか、話すことをしないという意思表示をするにはこの方法しかなかったのだと自分に言い聞かせた。

「なんて、酷い姿なの。」

堪えきれない思いがあふれてきて、レテシアはロブの後ろに回りそっと抱きしめた。両手をロブの顔を覆い、自分の右頬をロブの頭に摺り寄せた。

「話すことができないみたいだけど、何をされても怒らないでね。」

愛しいと思う気持ちがレテシアにそうさせた。ロブはただ恥ずかしくて、じっとしているのが苦痛だった。

「クレアさんが、何かあったら、レインとジリアンを頼むと。ロブじゃ面倒見切れないって。」

相変わらず、何を言いたいのかわからない話し方をすると思っていたが、わからないわけでもなかった。グリーンエメラルダ号に乗せる話は聞いていたからだ。

ロブによぎる心配事は、レテシアの相棒イリアのことだった。

ジョナサンと通じていたのなら、レインとジリアンの身に危険が生じるかもしれない。しかし、レテシアの相棒であるというのは二人を傷つける事をしないかもしれない。

SAFのクルーだったジョナサンが行動を起さなかったと同じで、身近にいると行動できない可能性もあると、いろいろ考えてレテシアに抱きしめられている状況から考えをそらせようとしていた。

「グリーンエメラルダ号にレインとジリアンを乗せることは艦長からも許可がでたの。」

その言葉にロブは大きくうなづいた。

「いいのね。」

包帯だらけの右手を動かせて、レテシアの手に重ねた。

「ありがとう。」

涙を拭って、ロブから離れ、両手をロブの肩においた。

「レインがあんまり立派に成長しているから、気後れしちゃいそう。私のほうが子供っぽい。」

噴出しそうで口から出させず、鼻から勢いよく息が出そうになるのを堪えた。血圧が一気にあがりそうな感じになった。

「いろいろと話せなきゃいけないことがあると思うのだけど、お預けね。

レインの成長を見届けて、ロブの快復を待って、今後のことを話ししたいわ。」

レテシアはロブの頭に口付けをした。こころのなかで、「愛しているわ。」と思いながら。

ロブは頭の天辺に集中してむず痒くなった。「変わらない。」とこころのなかでつぶやいた。

「短い時間だったけど、あなたに会えてよかったわ。体の様子はセリーヌに聞いておくわ。」

レテシアはロブから後ずさりした。

「さようならは言わない。また、会いましょう。ロブ。」

カーテンを閉めると、部屋から出て行った。

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