第二十五章 レテシア=ハートランド 4
のどかな田舎風景が窓から見渡せる。
顔の半分が包帯から開放されて、窓からの涼しい風が心地良さを感じることができた。
火傷していない腕や指を動かし、リハビリを始めたロブだった。
「ロブ、レテシアが会いたいと言ってきているらしい。」
度肝を抜かれたように体をわずかに動かしたあと、深いためいきをついた。
「無視するわけにいかないってことかな。」
「おい、いつまで、オレを無口にさせておくんだ。話は出来るようになったって言うんだ。」
「あ、そうだったね。」
ジェフがため息をつくと、相変わらずだなという素振りをしてみせた。
「ずっと、無口にさせたかったね。」
「おまえにとって、そのほうが好都合か。」
「だね。で、どうする?」
「レテシアのことか。」
「ああ。」
「会わないわけには行かないだろう。」
「しかし、ここに来られても困るんだよ。」
「しかも、ジェフと一緒ってなったらだろ。」
「わかってるじゃないか。」
手にした書類を手で叩きながら、ジェフは話を続けた。
財団の第六秘書セリーヌ=マルキナは単独で動いていて、レテシアの要望には応えなければいけないと思っていた。
クレアからロブとレテシアを復縁させる話を聞かされていたからだ。
セリーヌがジェフに対して、ロブのいている部屋まで目隠しで案内させることで会わせることで話を進めようとした。
「ジェフ。もう一度確認しておきたいのだが。」
「ホーネットのことか。」
「ああ。」
ロブがまだ口の聞けなかったときに、聞かされたホーネットのこと。
皇帝が秘密裏に動かす部隊として結成されたのがホーネット。皇族直轄のホーネットは解散させたうえで、秘密組織として動かしていた。
ジェフが掴んだ情報は、そのメンバーにジョナサン、レテシア、レテシアの相棒イリア、皇帝の影武者、黒衣の民族などがいてるとのことだった。
「レインやジリアンが命を狙われている理由なんだが。」
「ジリアンは、セシリアの子だから。皇帝排除派が国民の目を欺くのにマルティン皇帝を退かせた後のお飾りにさせられる可能性を考えてのことだ。}
「ジリアンは引っ張り出すなんて、考えられないのだがな。」
「ホーネットに裏切り者が出たらしい。或いは・・・。」
「或いは?」
「皇女殿下の婚約者が妖しいという話だそうだ。」
「婚約者か。権力欲か。」
「そうだな。事情通というか情報網を駆使している人物だそうだ。」
「だそうだか。信憑性に欠けるな。」
「レインは、よくわからない。」
「わからないだと?」
「ああ、黒衣の民族がロブに対する恨みかと思われたが、レテシアの知らないところでジョナサンが指示を受けていたという情報がある。」
「それはそれは。で、スカイエンジェルフィッシュ号のメンバーなら何度もチャンスがあっただろう。」
「それでいて、手を出さなかったのは、理由がわからない。形成が変更になった可能性かなという話。」
「ジェフ、お前の情報は不確かだな。」
「命を狙われているという理由は不確かだ。出発式で黒衣の民族が口走ったことは、陽動作戦かもしれないからな。」
「やっぱり、セシリアの最初の子ということか。」
「だろうなぁ。この事を知っているものは、俺たちの組織でもオレしかいない。だから情報を手に入れてもつながってこないことになる。」
「話を通じさせるわけに行かない。ダン先生やクレアさんが守ったものだからな。」
二人は沈黙して、話を進めようとしなかった。
「話は変わるが、コーディのその後はどうなったんだ。」
「ああ、快復して単独で動いているらしい。」
「らしいって、セリーヌからの情報だからか。」
「ああ、いずれ、アニー=ポーターに会う手はずになっているということだ。」
「アニーさんか。」
ロブはおもむろに、窓を閉めてくれと頼んだ。ジェフは締め終わるとロブのほうへ振り返った。
「レテシアのことなんだが。頼みたいことがある。」
「頼みたいこと?」
「ああ、できたら、無口で通そうと思う。」
「そのほうがいいな。ということは、病状を偽らないとだめだな。」
「ああ。」
「だったら、即行、レインに言わないといけない。」
「なぜだ?」
「レテシアが、レインとジリアンをグリーンエメラルダ号にのせると行ってきてるらしい。」
「なんだって?!」
「とりもどすわけじゃないらしい。クレアの遺言だと言い張っていたそうだ。」
「クレアさんの遺言?」
「レインは返事をしないといけないらしいが、乗る気だそうだ。」
「そうか。」
「反対しないのか?」
「反対する理由が無い。」
「そうだな。ただし・・・。」
「ただし・・・だな。」