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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二十五章 レテシア=ハートランド
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第二十五章 レテシア=ハートランド 1

バシッ

レテシアがイリアの顔を平手打ちした。

イリアは睨み返したかと思うと、同じようにレテシアの顔を平手打ちした。

バシッ

驚いた顔でイリアをみたが、イリアはたじろぎもしなかった。

「ぶたれる理由なんて何もないんだからね。」

顔を赤くして、叫んだ。

「私にだまって、スカイエンジェルフィッシュ号に行かないでって言ったでしょう。」

「連れて行くわけにはいかないでしょ。それとも、なに、あそこで、ロブと鉢合わせしたかったわけ?それこそ、いままでの苦労が水の泡でしょう。」

愚の音も出なかった。

レテシアがイリアと出あったのは、スワン村だった。

解散したはずのホーネットが、皇帝の始動で隠密の機動隊としてホーネットが組織され、そのメンバーにレテシアは志願した。

志願した理由は、ロブの知りえぬところでロブの助けになりたいと思ったからだった。

レテシアのそんな気持ちを皇帝は利用していた。そうとも知らずに、レテシアは皇帝の命令やジョナサンの指示で動いていた。

スワン村に行って、イリアを連れ出すことをジョナサンから指示された。理由は聞かされておらず、自分の行動を信用してもらうための命令だったから、従うしかなかった。

イリアをスワン村から連れ出す計画は、黒衣の民族のタカシから出された。このことを条件に皇帝やジョナサンは黒衣の民族タカシを利用しようとしていたのだ。

スワン村に入るのさえ困難だった黒衣の民族がイリアを求めていたのは、魔術師能力もちの白い魚だという点だった。

黒衣の民族から逃れるためにスワン村にきたイリアの母だったが、病を得てイリアを手元におくのに忍びなかったがために、素性の知らぬレテシアに託してしまった。

ジョナサンは、性格の良いレテシアを差し向けて、計画通り、イリアをスワン村から連れ出すことに成功した。

しかし、イリアが魔術師につれていかれたあと、腑に落ちなかったレテシアは、命令を無視して、魔術師からイリアを奪還してしまった。

その時すでにイリアはスワン村にいてた時のイリアではなくなり、洗脳された能力もちのイリアになってしまった。

責任を感じたレテシアは、その後、自分の娘のようにイリアを過保護に接し、グリーンエメラルダ号のほかのメンバーに近づけさせる事をさせなかった。

イリア自身はレテシアを気にいっていたので、汚れ仕事を引き受けることでレテシアを守ろうとしていた。

「どんな命令でSAFに乗り込んだというの?」

「ジョナサンが試作段階の薬を持ち出したので、始末して欲しいと言われたの。」

「ジョナサン以外の人も殺したでしょう。」

「ああ、あの人は混血児だったから。ジョナサンの素性がばれてしまわないように。レテシアも知っているでしょ、ジョナサンの裏の顔を。」

レテシアは唇を噛むことしかできなかった。ジョナサンの裏の顔を知ったのは、イリアを奪還してからの話で、ジョナサンから逃れることは出来なくなっていたからだった。

両手を顔に当て、考え込んでみたが、答えは出てこない。イリアの薄笑いが憎くて仕方なかった。

「クレアさんを見殺しにするなんて・・・。」

「見殺しにしたんじゃないわ。ジョナサンにやられてしまって、手の施しようがなかったのよ。」

イリアはレテシアの両肩を抱きしめた。

「わたしだって、レテシアの気持ちはよくわかっているわよ。クレア、ロブ、レイン、ジリアン。彼らが傷つくことをレテシアは望まないことぐらいはわかっているわよ。

でも、時はすでに遅しだったの。クレアは死を覚悟していたんじゃないかしら。ロブでも止めることができなかったんだから。」

おそらく、イリアの言うとおりだろうと。レテシア自身、そう思い込むしかなさそうだと考えた。

「ごめんなさい、イリア。わたしの覚悟が足りなかったわ。クレアさんの死を嘆く前に、自分のするべきことを考えるべきね。うろたえていたのでは、ロブどころかレインさえ守ることができないわ。」

イリアはレテシアに笑顔を向けた。

「ひとつだけ、聞いていいかしら?」

「なにを聞きたいの?」

「レインを始末するように言われていないわね。」

「どうして、そんなこと言うの?そんなこと誰が命令するというのよ。」

「ジョナサンが皇帝をそそのかして、言いかねないと思ったの。」

「どうして?レイン殺して、何の意味があるの?」

「ロブが憎いと言ったことがあったわ。レインが生まれたことも喜んではもらえなかったもの。」

「思い過ごしよ。それに、命令されても、わたしはそんなことをしないわ。」

「そうね、ごめんなさい。わたしどうかしてるわ。」

ため息をつくレテシアをイリアは抱きしめた。

「ロブに散々傷つけられたのに、あなたはこんなに愛している。わたしがそんなあなたの宝物をだめにしたりしないわ。」

「つらいの。クレアさんを失った悲しみをどうやったら、うずめることが出来るかしら。」

「ロブにうめてほしいの?」

左右に首を振って、涙をこぼした。ロブへの愛は永遠だと心に決めていても、ロブからの愛はもう失ったものと思っているからだ。


お互いを深い溝で引き裂いたあの日、どうしても忘れられない。

後ろを振り返ることができずに、スタンドフィールドを去った。こころが引きちぎれそうに、悲しみが悲しみを生み出し、壊れて崩れていく自分を止めようが無かった。

ロブの愛を失ったのなら死を覚悟したかったのに、できなかったのは、新しい命を宿していたと知ったからだった。

しかし、強情なまでにひとりで生もうとしたために負担がかかり、その命は死産となった。

レテシアが死産を乗り越えて、グリーンエメラルダ号に服役した時に、ジョナサンから裏のホーネットの話を聞かされたのだった。

登場人物

レテシア=ハートランド (主人公の母親。グリーンエメラルダ号のメンバー。裏ホーネットのメンバー。)

イリア(黒衣の民族・魔術師・白い魚。グリーンエメラルダ号のメンバー。裏のホーネットのメンバー。)


レイン=スタンドフィールド (主人公)

ジリア=スタンドフィールド (主人公の従弟:主人公の弟<初期>)

ロブ=スタンドフィールド (主人公の実父:主人公の兄<初期>)

クレア=ポーター(スカイエンジェルフィッシュ号の医者。第二部にて死亡)

ジョナサン(スカイエンジェルフィッシュ号のエンジニア。第二部にて死亡)

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