表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/247

第二十四章 傷を癒す 6

火傷の痛みから解放されたロブだったが、モルヒネの悪夢からは開放されていなかった。

壁を見つめるも、目の焦点があっていなかった。そんな日がつづいて、ようやく、レインが側にいていることに気がつき、目線がレイン方へ向くようになっていた。

ただ、いまだに、口が聞けずにいた。

「僕たち、ガラファンド・ドックに行くことになったんだ。一緒にいられなくて、ごめんなさい。」

レインの目をまっすぐ見ているロブは瞬きを一回する。その様子をみて、レインはすこし胸をなでおろした。

「本当は、スタンドフィールドに帰るべきだと思うのだけど、危険が去ったわけじゃないし。皆を巻き添えにはできないから。」

ロブの瞬きを確認して、話をつづけた。

「ガラファンドなら、防衛ができているし、テオ少佐、あ、テオさんがいてくれているし。除隊したんだって。」

つぶさにロブに報告をした。クレアの話をしないようにと、考えなら話をしていた。

ロブはまぶたを閉じるほか、瞳を左右に動かして否定していた。意味は理解できていないれいんだったが、話を続けていた。

最後に悲しそうな顔をして、ロブの顔の包帯を撫でた。

「ごめんなさい。僕にできることって、これからも訓練をつづけて、一人前になることだよね。」

ロブがまぶたを閉じると、目から涙がこぼれた。レインはしきりに謝ったが、ロブは何度も瞳を左右に動かした。

誰もクレアの事を語らない以上、そのことが何を意味しているか、理解できないロブではなかった。

自分が不甲斐ないばかりに、クレアが命を落としてしまったのなら、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

しかし、責任を感じて落ち込んでいる場合ではないことぐらいはわかっているし、周囲にも理解してもらえるはずだと思えるようになっていた。

クレアが言っていた言葉が耳から離れない。

「レテシアに謝れ。」

こんなみっともない姿で謝って、許してもらえるのだろうか。いや、それは解せない。

意地を張っている場合でもないから、今は治療に専念することだけを考えようと心に決めた。

レインがそっと、ロブの涙を拭き取った。

「兄さん、いや、父さんのこの涙を一生忘れないよ。僕、強くなるから、父さんのように強くなるから。」

目頭が熱くなるばかりか胸も熱くなる。何もいえないことは辛いというより、都合が良いとさえ思った。


軍を除隊したジェフは、妻と子供を軍の施設から実家へと向かわせた。

テオからロブに同行して欲しいという依頼が来ていた。

ロブはグリーンオイル財団の医療施設に搬送されることになっていたが、そこは敢えて内部にも公表されていない施設だった。財団だけでなくメインの製造会社や軍部や国の機関でさえ、その情報を知りえていない。

ジェフにとっては好都合だった。キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地に所属していた時から、裏でサンジョベーゼ将軍の配下だった。

レテシアからのホーネットの誘いを断ったのは、もとから裏の組織に所属していたためだった。

除隊したのは、軍部にいてる理由がなくなったためで、一般人としての動きの方が身軽であると判断したためだった。

セリーヌ・マルキナと連絡を取り、治療施設に向かう途中のロブに付き添う看護士たちと合流した。

ロブがジェフの姿をみると、不思議そうな目で見ていた。

「どうして、オレがここにいるのかと思っているんだろう。まぁ、オレもこんなことになろうとは夢にも思っていなかったけどな。」

搬送される空挺のなか、看護士が付き添っているものの、ジェフは言わなければいけない話をし始めた。

「ロブもわかっていると思うが、クレアさんは死んだ。」

ロブは天井を見つめるだけで、何も反応せず、ジェフの話しに耳を傾けていた。

テオから聞かされたスカイエンジェルフィッシュ号飛行中爆破事件の内容と、カスターが供述したクレアの状況を事細かに話した。

総じてわかっていないのは、クレアを襲ったのはおそらくジョナサンだろうということだが、腕を引きちぎるようなことをやってのけるようなことまでできないといことだ。

ジョナサン、アルバート、クレア、スカイエンジェルフィッシュ号に搭乗していたのは3人だろうという話だが、カスターが言うにはもうひとりいたという。その人物が誰であるかはわかっていない。

そこで、ジェフが手に入れた情報をロブに聞かせた。

「エメラルダグリーン号に探りを入れた人物がいることがわかったんだ。内容は、レテシアの相棒のことだ。事件当日は搭乗しておらず、どこへ行ったか不明だということだった。よくあることらしいが、誰もそのことに感知しておらず、艦長でさえ口が挟めない状態だという。」

ロブは目を見開いていた。白髪の少女がレテシアの相棒であることを知っていたからだ。

「お前は知っているのだろう。その相棒がどういう人物であるか。」

まぶたをゆっくりと閉じて見せた。

「レテシアはおそらく深いところまでは知らないと思う。ジョナサンとも連絡をとっていたぐらいだから、何らかのかたちで関わっているとオレは推測する。しかし、下手にクレアさんのことでその少女を疑ってレテシアを責めるのは得策ではない。」

ゆっくりとまぶたを閉じた後、目を見開いてジェフをみた。

「口が聞けるようになって、レテシアと話す機会があっても、うかつにその事を話すべきではない。返ってレテシアの身に危険がせまることになるかもしれない。」

睨むようにみると、ジェフは笑った。

「クレアさんは知っていたと思うよ。だから、余計にお前に話をしなかったんだと思う。歯がゆい思いをしたと思うが、これで合点がいっただろう。」

そう、ロブの耳について離れない言葉がまた、出てくる。「レテシアに謝れ。」と。


ガラファンドドックに到着すると、すぐに、レインの元に荷物が届いた。

差出人は、フェリシアだった。不思議に思って、中身を開けると、手紙と包みがあった。

手紙はフェリシアからのもので、中身がびっしりと書かれていた。包みが気になり、恐る恐るあけると、中から緑のスカーフが出てきた。

そして、一枚の紙切れがあった。そこには、「エミリア・サンジョベーゼ上等兵より」と書かれていた。レインの胸は熱くなった。

プライベートな荷物はほとんどスカイエンジェルフィッシュ号にあり、エミリアとレテシアのスカーフもなくなっていた。

手元には若いときのレテシアの写真しか残っておらず、フェリシアの時計ぐらいだった。

紙切れには名前以外に何も書かれていない。緑のスカーフには白いラインが二つ入っていた。それが何を意味するのかはわからなかった。

ただ、何も語らない姿勢にレインを思う気持ちが伝わってくる。レインは思った。

「強くならなきゃ。エミリアさんの期待に応えていけるようにならなくちゃ。」

壊れそうになったこころが次第に厚みをおびて修復していくように感じられた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ