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第二十四章 傷を癒す 2

クレアのことは、どんなことをしても止めることができなかっただろう。

ディゴとテオが話をしていて、出た言葉だった。

なにをしても、自分を犠牲にして、守る意思の強さは誰よりもあって、他のやり方を知らない。

養父のダンがそうであったように、クレアもまた、同じ轍を踏む。まるでそうするべきだと諭されたみたいに、クレアは命を絶った。

ディゴやテオではわからない心情がクレアにはあったかもしれないが、そうする必要性がない事を説き伏せる自信はふたりにはなかった。

果たして、ロブにはできただろうか。いや、おなじことだろう。二人よりも更にクレアのことが理解できていない。

「クレアはロブを守るような態度を示すものの、崖から突き落とすようなことも平気でやっていた。」

ディゴはつぶやいたが、そんなクレアに接してきたロブだから、身を盾にして守ることはしたかもしれないがそういうことはクレアはさせてはくれないだろう。

それをロブは知っているはず。いざとなれば、躊躇するかもしれない。

「さて、レテシアにはどう報せようかと。」

「それはオレにまかせてもらおうか。今までだって、オレのほうから伝えてきたのだ。」

「それで本当にいいのだろうか。レインの口から伝え方が・・・。」

「そうだなぁ。もう知らない間柄でもないからな。」

天井を眺めて、しばらく、考え込んでいた。

憤りは感じない。なるべくしてそうなったという考えが筋を通す感じだった。

「レインの精神状態はよくないと聴いた。」

「そうですね。」

「早く報せたほうがいいから、俺から伝えておく。艦長に怒鳴られるのも嫌だからな。」

「では、おまかせします。」

「ああ。それから、カスターの精神状態がよくなったら、シモンが連絡を欲しがっていると伝えてくれ。」

「シモンが?」

「ああ、クレアの様子が知りたいらしい。」

「そうですね。アニーさんはさぞ、辛い思いをしているでしょう。」

「そうでもないらしい。」

「え?」

「シモンにしてもそうだが。死ぬ前のダンと同じ感じがしたのだという。」

「で、期が訪れたと。」

「そういうことだろうな。」


レインは悪夢にうなされていた。自分が世間知らずなばかりに、なにも手を打つことが出来ない状態が痛いほどよくわかる。

逃げているのは自分自身から。助けを求めるのはいつも、ロブやクレアだった。今やその二人に助けを求めても助けてくれない。

追い詰められて、レインは夢の中で泣くことしかできなかった。悪夢から目が覚めて、泣いていた自分を悔しく思った。

ジリアンも悪夢にうなされていた。いつも閉じこもってばかりの暗がりから、光が射してきて、それが怖いと思っていた。

逃げているのはいつも暗闇からあらわれるのではないかと思う光だった。そして、逃げ切れずに光に包まれて、その暖かさに涙していた。

そして、その暖かさは何だろうと、顔をあげると、そこにはセリーヌを抱きかかえたセシリアの姿が見えた。

笑顔だったのに、ジリアンは怖いと思った。そして、夢から醒めた。

「どうして、あの人が夢に出てくる。」

セイラは納得できても、セシリアを求めていた自分が嫌だった。

カスターは何度も悪夢から目が覚め、そしてまた、目が閉じてしまい、悪夢を見ることを繰り返していた。

内容は目が覚めると思い出さない。悪夢をみたという意識しかなかった。

それを繰り返すばかりで、現実にもどることさえできないでいた。

ロブは、生死をさまよう夢の世界にいた。フレッドに会ったが、突き飛ばされた。また、命を永らえたのかと残念に思っていた。

そして、いつも、母親のロザリアが手を振って、送ってくれる。今回、違っていたのは、川から引き上げてくれたのがレテシアだった。

以外な感じがして、手を握ったまま、レテシアを見つめていた。悲しい顔をしたレテシアは涙をこぼしていた。

目が覚めると、全身に強烈な痛みと熱湯のようなものを感じた。

うがぁっ。

背中をそらすと、余計に痛みを感じる。いったいどういう状態なのだろうと考えざるを得ない。

思い出すことができたのは、パジェロブルーを操縦していてSAFの格納庫に突っ込んだところまでだった。

叫び声をあけた口が閉じない。よだれが口からこぼれる。全身に走る痛みと共に、全身がなにかに縛られている感触に気づく。包帯だ。

目が両手にいき、包帯が巻かれているのがわかった。おそらく全身に包帯が巻かれたのだろうと。そしてそれが火傷によるものだとようやく理解できた。

と、なると、カスターはどうなったのだろう。そして、SAFはどうなったのだろうという考えが浮かぶ。

しかし、視界には、自分の両手と寝ているベッド、その先にある床しかなかった。

息をしようとすると、胸が痛む。それは前にもあった。だから、わかる。肋骨が折れていることに。

横になった姿であると知ると、自分の右ひじから下の部分で包帯が巻かれていないことに気づく。左肩には痛みを感じていて包帯の感触もある。

右を下に、炎に焼かれたということが想像できた。肋骨が折れているから、なにかにぶつかったのだろう。

しかし、そこまで考えが及んでも、自分が身動きできないことに痛烈に悔しさが湧き出てくる。

命を永らえて、そこに何がまっているのかと考えると怖くなる思いだった。

そう、クレアの死を今のロブには報せされていないために、意味不明な恐怖としばらくは戦うこととなった。


テオはディゴから聞いたことをかいつまんで、指示を受けた皇帝に報告した。

クレアから、詳細は報告しないように頼まれていた。そのことの意味を理解できたのは、ホーネットの存在を知らされていたからだった。

憧れを抱いていた皇帝に対して、信頼を裏切られた思いがしたが、真実を見極めるまでは、皇帝に情報を与えることはしないでおこうと決めた。

命令だから、すべてではないにしろ、報告する義務がある。何を知りたがっているかは、わからないが、確信に触れることは話さないことが懸命だとわかっていた。

レテシアには、クレアの事、ロブの事を詳細に報せた。無言の様子に、声を殺して泣いているのがわかった。

「クレアのことは気に病むことはない。ロブのことはレインに任せるしかない。ディゴ曰く、もうすこし、大人になってくれるだろうということだ。」

明るい声で、レテシアは「そうですね。」と答えた。

その様子が可哀相でしかたなかったが、他にかけてあげれる言葉がなかった。


一方、コーディというと、傷ついた体で逃げきったのは、森の中だった。運がよくて、近くの村人に助けてもらった。そのうえ、セリーヌに報せてくれた。

セリーヌは危険性を考え、別の人間で迎えに行かせ、かくまってもらえる閑静な村の診療所に預けた。

起き上がることができるまで、快復した際にセリーヌと連絡を取り、コーディはクレアの死を知った。

「ウィンディさんに報せて欲しいのですが、できますでしょうか。」

セリーヌは快諾した。コーディは安堵のためいきをもらし、ようやく涙を流すことが出来た。

「ごめんなさい、クレアさん。わたしはあなたに何もして上げられなかった。それでも、あなたは気にしないようにというでしょうね。」

病室のテーブルに、コーディの身の回り品が置かれていて、ビニールに入ったクレアの髪の毛があった。

それを手にとって、握り締めた。

「わたしに、セシリアさんのお子さんの事を告げずに去りましたね。そうしてもらえてありがたく思います。理事長には申し訳ないですが。」

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