第二十三章 月を射る 6
レインとカスターのジェスチャーで、ロブとジリアンはパジェロブルーの翼に何か取り付けられていることが理解できた。
病院の上を低空飛行し、二人で両翼の物体を取り外そうと飛びついたりして、取り除いた。
パジェロブルーの通信機が壊されていた。ロブはジリアンにカスターと交代するよう指図した。
理解はしたものの、パジェロブルーから降りる勇気がなかった。首を横に振るしかしなかった。
困ったロブは、強硬手段をとった。
操縦桿を握っている様子を確認して、シートベルトをはずすと、後ろに反り返り、ジリアンのドアを開いた。
すぐさま、自分の席にもどり、シートベルトをすると、病院の上を低空飛行をした。機体を回転させ背面飛行する。
カスターは勘を働かせて、ジリアンに飛びついた。シートベルトを外して抱きかかえて降り立つというアクロバットをやってのけた。
もしものことを考えて、ロブはカスターに乗るよう支持をだす。カスターは嫌がった。ジリアンは咄嗟に思いついて、通信機の輪のペンダントを首から外しカスターの首にかけた。
「兄さんのこと心配だから、僕たちの代わりに乗って欲しい。」
「え?!」
「これは通信機になっているんだ。押すと通信できるようになっている。クレアさんやアルとつながる。さっきからうまくつながらなかったりするんだけど。」
カスターはしぶしぶ、「了解」と言った。ロブがしたように、屋上からパジェロブルーに飛び移った。
三日月がパジェロブルーを照らす。レインとジリアンはこれでほんとうにいいのだろうかと不安気にパジェロブルーを見送った。
クレアはSAFの操縦室にたどり着き、エンジンをかけて、発進させた。
前もってアルバートに自動飛行のプログラムを入れさせたので、そのプログラムをスタートさせるだけだった。
SAFが動く様子を眺めながら、通信機をいじったが、誰も応答しない。
「アルさえ、つながらないのか。」
SAFはゆっくりと格納庫から出た。月の光がまぶしく輝いていて、妖しく思えた。
クレアは思い出したように、電話をかけた。相手は第六秘書セリーヌだった。
「それが、イリアさんはグリーンエメラルダ号を降りているそうです。」
「何ですって。」
「降りた場所は教えてもらえませんでした。」
「レテシアは承知しているのか。」
「よくあることらしくて、レテシアさんも心配されていないようです。」
「わかったありがとう。悪いが、コーディと連絡を蜜にしてほしい。」
「わかりました。ご無事を祈っています。」
「ありがとう。」
白い魚として動いているのか、ジョナサンの味方で動いているのかと考えていた。白い魚として動いていれば、黒衣の民族も動いているはずだ。
その線は薄いと考えていた。なぜなら、操ったホテルマンがレインを殺していないかったからだ。
それならば、ジョナサンの助っ人として動いているのだろう。ならば、向こうもその手で打ってくるはず。
SAFの眺望台に着いたアルバートはそこで、通信機をいじった。通じたのはジリアンだった。
「あ、やっとつながった。」
「誰?」
「僕、ジリアンだよ。アルなの?」
「ああ、そうだよ。無事なんだね。」
「病院の屋上で、無事だといい難いけどね。アルはどこにいてるの?」
「SAFにいてるよ。パジェロブルーが見あたらないんだけど。」
「ああ、さっきまでレインと僕とで飛行していたんだ。さっき、兄さんとカスターと交代したんだ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「病院の屋上でね。」
「何か、あったの?」
「うん、両翼のしたに爆弾みたいなものが取り付けられていたんだ。でも、外したよ。」
「それはよかった。クレアさんには伝えておくよ。」
「クレアさんも一緒なの?」
「うん。」
「コーディは?」
「コーディは一緒じゃない。僕たちは、用事があって、SAFでしばらく飛行する。心配はしないで。僕たちが帰ってくるまで病院で待っていてほしい。」
「用事って・・・。」
自分たちが銃で襲われそうになったことと、パジェロブルーの両翼に爆弾が仕掛けられていたことを考慮して、アルバートの言葉に嘘があるような気がした。
「わかったよ。戻ってくるのを待ってるよ。」
ジリアンは通信を切って、カスターにそのことを全部報告した。
パジェロブルーは旋回して、SAFが飛行している方向へ向かっていった。