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第二十二章 楔を打つ 9

「放せ!」

「オイ、よせ!」

ディゴがロブを羽交い絞めにして抑えていた。

「俺は、これからレテシアに会いに行くんだ!行かせろ!」

「今から、行ってどうするんだ。」

「今行く!行かないと、取り返しのつかないことになる。」

力強くロブの片腕を取り、向きを替えさせたかと思うと、思いっきり殴っていた。

ボコッ

「グハッ」

ロブが倒れていく間に、口から血が散っていった。

バタッ。

床に倒れこんであまりの勢いにバウンドした。

「もう一度言ってみろ。ロブ!」

息を切らしながら、温厚なはずのディゴが顔を赤くして、怒声をロブに浴びせていた。

「取り返しのつかないことは、9年前にしているんだ。今、このときに、お前に何ができるって言うんだ!」

気を失いかけてロブはディゴに殴られたのは何年ぶりだろうと思っていた。

「先日、グリーンエメラルダ号と合流してた時、お前は何をしていたんだ。レテシアに会わす顔もなくて、隠れていただろうが。」

視界がやけに白く見えて、ディゴの声も遠のくように思えた。

「おやおや、内輪もめですか。こそこそと調べたり、人のことを疑ったり、空気が澱んでいますね。」

ディゴに見張られていたはずのジョナサンが二人の様子をみて、つぶやいた。

(誰のおかげでこうなっただろう。)

ロブの頭の中でその言葉が繰り返されていた。

痛みを感じて、床にぶつけた頬が腫れ上がって行くのがわかった。

「黙っていろよ。ジョナサン。」

「黙ってなんか、いられないね。わたしが知っている限りのレテシアはつらいことや苦しい事を隠し持って笑顔で振舞っている人です。

彼女を苦しめているのは、明らかでしょう、ロブ=スタンドフィールド。」

頭を殴られたような言葉を吐かれて、そして、「スタンドフィールド」を強調されて、気分が悪かった。

「わたしは知ってますよ、彼女の相棒の事を。」

「相棒?」とディゴが聞き返すと、ジョナサンは大きくうなづいた。

「人見知りの激しい少女で、レテシアしか心を許していないのです。それはもう、わが娘のように思ってレテシアはかわいがってるのです。

当然でしょうね。実子はロブに取り上げられたのですから。」

「おい、ジョナサン。他に言い方があるだろうが。」

「ないですよ。少女も実の母親に見捨てられたくちですから、レテシアを母親のように慕っているわけで・・・。」

「ジョナサン!」

ロブが叫ぶと、そのまま立ち上がったが、立ちくらみをしながら、ジョナサンをにらみつけた。

「知っていたんだろ。」

「何をです。」

「白髪の少女のことを。」

「ええ。知っていましたよ。レテシアから聞いていました。」

「白髪の少女が黒衣の民族の者だと知っていたんだろう。」

「いいえ、知りません。」

「嘘を言うな。知っていたはずだ。」

「何が言いたいのですか。」

「レインが遭遇したホテルマンや、皇女殿下を襲ったスカイロードの学生を操ったのが黒衣の民族の魔術師であることはわかっているんだ。」

「それでなにか。」

「白髪の少女が・・・。」

「はい、そこまで。」

ロブの言葉をクレアがさえぎった。

そこにいるはずもない者がそこにいるとばかりに、3人は驚きの表情でクレアをみていた。

クレアの背後からテオが出てきた。

「ロブに直接渡して欲しいといわれたのだ。」

テオは一通の手紙をロブに差し出した。

ロブは受け取って、宛名が自分であることを確かめて、裏を返すと、「レテシア=ハートランド」と記されているの確認した。

驚きの表情で手紙を見つめるロブをみて、ジョナサンは眉をひそめた。

「ジョナサン、嫌疑は晴れた。なにも疑う物証は出てこなかった。疑って済まなかったね。」

クレアの言葉に、ロブはすこし疑ったが手紙のことで頭が回らなかった。

ディゴはクレアに目線を送ると、クレアは口元を上にあげて深くうなづいた。

まるで、最初からそういう口裏あわせをしていたかのようだった。

「わたしへの疑いが晴れたというのは当然のことですが、これで心置きなくSAFに搭乗できるのですね。」

「これからもよろしく頼むよ。」

クレアに言われて、ジョナサンはその場を足早に去った。

ディゴはロブに声をかけた。

「手紙をここで読まないのなら、自分の部屋で読んできたらどうだ。」

チラリとディゴを見て、ロブは手紙を何度も裏表を返して、中身があまりに薄いことを見せ付けた。

そして、指で封を切った。

読んですぐ、ロブは笑った。

「相変わらずだな。」

周囲にいてるものは、中身が気になるところだが、言葉には出さなかった。

恥ずかしいとばかりに顔を片手で隠すと、手紙の内容を口にした。

「レインの誕生日を親子三人で祝いたいって、まだ、先の話じゃないか。」

クレアはあきれた顔をした。

(それだけ、気が急いててお前に会いたいってことだよ。)

口にしなかった言葉は、胸にしまいこんだ。言葉に出してしまえば、ロブのこころを揺らしてしまうだろうと思ったからだ。


ジョナサンは、急いで自分の部屋に入った。

ロブに届けられた手紙はレテシアからだというのは、直感的にわかっていた。

シヴェジリアンドで起きたことはレテシアの耳にも届いていたので、レインたちの身を案じていた。無事だと知ると、安堵したものの、会いたい気持ちを寄り一層つよくなっていることも感じ取れた。

そこへ、部屋のどこからともなく機械音が鳴り響く。

ジョナサンは、古い革の鞄を取り出して中から、スピーカーと受信機みたいなものを取り出した。音はそれから出ていた。

スイッチを押してスピーカーに耳を当てた。

「オイ、定刻以外で通信してくるなと言ってあるだろう。」

ガーガーッ

「わ、わかってるわよ。でも、どうなったのか、し、知りたくて。」

「何がだ。」

「レ、レテシアの手紙よ。」

「ああ、いま、届いたみたいだ。」

「どのような内容だった・・・の・・・。」

「さぁな。それより、こちらも打って出たほうが良さそうだ。」

「打って出る?」

「ああ、実行しないと、レテシアかロブが動きだしそうだ。」

「そ・そういうことね。でも、動かせる人形がいないんじゃないの?」

「そうだな。テオのところのキャサリンで、今晩どうかな。」

「今晩は無理だわ。抜け出せそうにないの。」

「そうか。じゃ、適当に見繕う。次の停泊が決まったら、連絡する。」

「ラジャー。」

ジョナサンは考えていた。嫌疑が晴れたというのは、嘘だろう。物証が出なかったから、そう言ったまでのことだと。

物証を出すようなへまをするようでは、スパイとして、刺客として、役に立たないことになる。

「いよいよだな。殺すなと言われてはいるが、そうも言ってられないだろう。」


アルバートはフランクのところで調達した通信機の腕輪を試していた。

周波数をいじっていて偶然聞こえてきた、ジョナサンの声。相手の言葉は聞こえなかったが検討は付いていた。

「これで、大物がしゃしゃり出てくるとは思えないけど。イリアとジョナサンだけでは、こころもとないだろう。いったいどんな人物が表舞台に立つだろうか、楽しみだな。」

アルバートは腕輪を長めのチェーンに通し、首に掛けた。そして、胸元にしまいこんだ。

手には、もうひとつ、チェーンを持っていた。アルバートは、レインたちを見つけ、通信機のテストを繰り返すよう言った。

そして、もうひとつのチェーンをジリアンに手渡し、自分のチェーンを引っ張り出して腕輪を見せた。

「こうやって首にかけて、実物は隠しておくといい。」

「うん、わかったよ、アル。」

「レインは、腕にはめておいたらいいよ。」

「うん、これのテストは、自分たちの部屋でするよ。」

「なんだか、騒がしかったみたいだけど。なにか、あったのかな、アル。」

「さぁ、出発する段取りは付いたみたい。」

「整備は終わったの?」

「ああ、大丈夫みたいだよ。」

レインとジリアンは、ジョナサンの事を知らされていない。それは、レテシアとつながっているジョナサンが何かしら命を狙うものとかかわっていると思わせたくないからだった。

自分たちがなぜ命を狙われているか、本当のところはしらないだろうと、アルバートは考えながら、ふたりを不憫に思った。

ジリアンはジリアンで、アルバートが最近はまともな状態であることで変わってきたと感じていた。

アルバートが嫌らしく思えたときがあったのは、振りをしていただけかもしれないと考えていた。

そこへクレアがあられて、3人に伝えた。

「明日、ジュエリーレイク目指して、出発する。」

「ジュエリーレイク?」

「ああ、今度はクルーの整備をすることになったんだ。」

「え、健康診断ってやつ?」

「ああ。ジュエリーレイクに大きな病院があるらしい。そこに停泊予定。」

アルバートは嫌な顔をした。

「また、血を抜かれちゃうんだ。嫌だな。」

クレアはアルバートの肩をポンと叩いて、言った。

「ご褒美をあげるから、我慢しなさい。」

その言葉の意味を、アルバートは理解して、真顔になった。

(とうとう、その時が来たのか。)

ジリアンは、アルバートの表情が一変したのが気になったが、そのあとすぐに小さい子供のように無邪気な笑顔になったので、気にしないようにした。

「注射は嫌なんだ。ご褒美もらえるなら、我慢する。」

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