第二十二章 楔を打つ 7
エアバスは街中を走っていた。
フランクを加えて、昼食をしに一行がたどり着いたのは、魚介類メインの料理店だった。
個室に案内されて、部屋に入ると、そこには、財団理事長の第六秘書セリーヌ=マルキナが待っていた。
「おひさしぶりです。みなさん。」
ダニエルは、自己紹介すると、セリーヌに言い寄ろうとしたが、冷たくあしらわれて、ふて腐れて席に着いた。
フランクも初めてだったので、挨拶を済ませ、席に着いた。
全員が席に着いたところで、セリーヌは鞄から分厚い封筒を取り出し、クレアに手渡した。
「依頼を受けて調べたものすべての書類です。後ほど、確認してください。」
「ありがとう。助かったよ。」
セリーヌの流し目がクレアにあり、アルバートは目を細くしてその様子を見ていた。
豪華な料理が用意され、テーブルの上を埋め尽くし、全員が遠慮なく食べ始めた。
レインとジリアンは興奮していた。
伐採所を発つ前に、フランクが実際に楔を打って木を切り倒すのを二人に見せたからだった。
伐採所の近くにある大木を駐車場めがけて倒したのだ。
「こんな手のひらサイズのものを打ち込まれるだけで、あんな大きな木が倒れちゃうんだから、びっくりしちゃったよ。」
「力点の作用だよ、レイニー。」
「それぐらいわかってるよ、ジル。」
フランクはしみじみと二人の様子をみていた。そして、目線をクレアに向けた。
「これから、どうするんだ、クレア。」
「うん?ああ、テオ少佐と落ち合って情報交換をし、今後どうするか話しあおうと思う。」
「ロブたちとか。」
「ああ、なにか、問題でも?」
「ディゴはともかく、ロブはどうかと、シモンも言っていた。」
「うーん、そうだね。」
食しながらフランクと会話をつづけるのに、レインたちがいたのでは話ししにくいなと考えていた。
セリーヌはレインとジリアンたちが食事を終えた様子を確認して、声をかけた。
「レインさん、ジリアンさん。この店には魚を生きたまま水槽にいれてある場所があるのですよ。見に行きませんか。」
ジリアンは目を丸くして喜んだ。
「行きます。」
レインは興味が無さそうだったが、ついていくことにした。
「ダニエルも行って来なさい。」
クレアが邪魔だと言わないとして、手で払う素振りをして言い放った。
ダニエルはふて腐れて、3人の後についていった。
個室には、クレア、コーディ、アルバート、フランクが残った。
クレアはセリーヌから受け取った封筒から書類を取り出した。
他のものたちはもくもくと食事をしていた。
「実際、ダンの復讐をつもりなのか。」
フランクは単刀直入に話を切り出した。
「そのつもりはないよ、フランク。」
「犯人を突き止めたんじゃないのか。」
「まぁ、だいたいは。でも、それは手下がしたに過ぎない。」
「じゃ、その命令を出した親玉ってやつを始末しようとか・・・。」
「そんなことをダンが望んでいないことくらいはわかってるよ。」
「では、どういうことなんだ。あんなに武器をそろえてしかも・・・。」
「知ってるはずだ。シヴェジリアンドで何が起こったのか。」
「ああ、赤い閃光だろう。命を狙われたのなら、出発式でもあっただろう。」
「あれは黒衣の民族だ。閃光は軍内部の犯行だ、あきらかに。」
「なにがいいたいんだ、クレア。」
「親玉を始末しようなんて、おそらくできない。手に掛けようものなら、そこにたどり着く前にやられてしまう。
もし、万が一にあたしが親玉を始末することができたとしたら、それはそれでパワーバランスが崩れてしまう。」
「おい、まさか、この国の命運がかかっているって言いたいんじゃないだろうな。」
「そんな良いものじゃないよ。悪い奴を倒す、始末してしまうだけが、すべてじゃないってことさ。」
フランクは前のめりになって、話しこんでいたが、ここで、体を起し、椅子の背にもたれてため息をついた。
そして、無言でもくもくと食べるコーディとアルバートの顔を交互にみていた。
クレアは書類に目を通し、内容を把握しようと集中していたが、フランクの言葉には耳を傾けていた。
「ダンの敵をとってほしいかい。」
「いや、そんなことは思っていない。」
「じゃ、犯人が誰なのか知りたいのか。」
「知ったところでなにもできないよ、俺には。」
書類を目にして、ページをめくっていた手が止まった。
「パラディーゾデラモンテグナ都市起きた災害は、黒衣の民族が岩を爆破したとの報告がある。これは、グリーンオイル製造工業が買収に乗り出したことで目的が明らかになったよ。」
「なにが?」
「レッドオイルの製造だよ。アニーから聞いてるはず。」
「ミネラルか。」
「そう、それと高温。」
「リゾート地を買収するより、瓦礫の状態になったものを安く買い取ったほうがいいからか。」
「いや、リゾート地を手放すためだろうな。でも、このもくろみは御破算。」
「なぜだ。」
「財団が介護医療都市計画にするため、買収するからさ。」
「おい、親会社が買収するのに、慈善団体の財団が買収できるわけが。」
「おやおや、フランク知らなかったのかい。財団はグリーンオイル製造工業から独立しているんだよ。
研究や開発したものを元手に資金を増やしているんだ。」
フランクは天井を見上げて目を泳がせた。
アルバートの手が止まり、口を挟んだ。
「私利私欲のために人災を起し、都合の悪い事象は闇で葬りさり、パワーバランスを利用して自分たちを有利になるよう仕向ける。」
その言葉に、フランクは目をクレアに戻してにらみつけた。
「親玉って、グリーンオイル製造工業の社長っていうことか。」
「知ってたか、フランク。グリーンオイルを不幸な事象に影響させない、私利私欲のためにグリーンオイルを製造してはいけないっていうのが、グリーンオイル開発者の主旨であることを。」
「もちろん、有名な話じゃないか。デミスト博士のことだろう。」
「そうだよ。」
クレアは書類を置き、フランクに顔を近づけた。
「社長には子供がいないんだ。つまり、監視と責任を可能な限り永遠に請け負うための跡継ぎがいない。」
「その場合は同族から出すのじゃないのか。」
「その同族であるデュークが財団の理事長だろ。それが反目しているんだから、操ることなんてできないんだよ。」
「それで?」
「デュークも脅されているんだ。セイラを跡継ぎにさせるわけにはいかないから、他に男子を跡継ぎにさせるようにと。でなければ、セイラを始末すると。」
アルバートが席を立って言った。
「同族間のでの争いなんて、興味ない。」
「じゃ、理事長もそのうち、社長の言いなりじゃないのか。」
クレアも席から立った。
「そうでもないんだよ。逃げ道はあるんだ。だから、社長も焦ってるんだよ。」
「レッドオイルの開発を急がせているのか。」
「シヴェジリアンドで赤い閃光は完成品じゃないからな。」
クレアが席を立つと、コーディも食事を終え、席を立った。
クレアが部屋のドアノブに手を掛けて言った。
「フランク、アニーの事を頼むよ。」
フランクはなにか言おうとしたが、口をつぐんだ。
部屋にただ一人残った時に、フランクはつぶやいた。
「ダンと同じ事を言いやがった。」