第二十二章 楔を打つ 6
エアバスは、川面にしぶきをたてながら、滑っているかのように飛行していた。
川は湖のようなところへ流れ着く。エアバスは湖に浮かぶ丸太を避けるために、エッジをかけて方向転換し、岸に向かっていっていた。
岸の側に崖があり、そこに建物があり、機械音が鳴り響き、建物のしたから、丸太が落ちて湖に浮かんだ。
エアバスはジェット噴射し、その建物の入り口あたりに並ぶ数台の荷台つきのテントウムシやらトラックと同様に着陸して並んだ。
建物の中から、屈強な男が出てきて、一行に手を振った。
「おおーい、クレア、こっちこっち。」
ジリアンは出てきた男が誰なのかと尋ねた。
「ダンの弟でフランクだよ。ここの伐採所を任されていているんだ。」
ダンを良く覚えているわけではなかったが、先ほど会ったアニーには似ている感じがしたので、なるほどと納得した。
ダニエルは、エアバスで待つことになった。
一行は階段を上りきって、建物の入り口に入ると、中は大きな空間の中に木の香りが充満し、機械が休む暇もなく働き、くたびれているような音を響かせていた。
機械が何をしているのか、横目でみながら、レインたちは、フランクのあとについていった。下に降りて、ようやく機械が木々の枝を落としたり、かたちを整えて裁断していることを確認した。
鉄の扉の前にきて、観音開きに両手で開き、中に入ると、中からひんやりした冷たい風が吹きだした。
中は洞窟のようになっていた。周りは岩で固められた空洞になっていて、奥まで続いていた。
岩の間から水が滴り落ち、下には溝が彫られてあって、水がどこかへ排水されるようになっていた。
どこかで見たような気がして、レインが周囲をキョロキョロしているとジリアンが声をかけた。
「じいさまのワイン蔵に似ているよね。」
「ああ、そうか。」と、頷きながら、レインは呟いた。
ラゴネの手伝いをして、瓶詰めしたワインを台車に積んで、カタカタと音を響かせて、洞窟をふたりで運んだことを思い出した。
フランクが立ち止まり、等身大の鉄扉の施錠を解き、両手で押し開けると、鉄扉はギッギィーッといかにも重たい音を響かせた。
皆が中に入ったのを確認して、フランクは鉄扉を閉めた。
中にはいるとレンガ造りの通路が続いた。木でできた扉がいくつかあって、施錠されている扉の前でまたフランクは立ち止まり、施錠を解いた。
「さぁ、ここが、所望していたものをそろえておいた場所だ。」
部屋の中に通されて、そこが武器庫であることがわかった。
レインは中に一度入って、あとずさりした。
アルバートはレインの肩を抱き避けて部屋の奥へと進んだ。
レインとジリアンだけが部屋の入り口で立っていて、他のものは中にある物を手にとって確認していた。
フランクがひとつひとつ手に取り、クレアに説明していた。
「これがサイレンサーだ。常時はずしておく、取り付けタイプだ。」
「フランク、頼んでおいた、帷子は?」
「チタン仕様のサポーターだろう。帷子って・・・。」
フランクは木箱から、いくつか、ジャラジャラと音を立てて、黒光りした塊を取り出した。
広げて見せると、かたちそのものは腰巻のような感じで、フランクはそれをアルバートに目配せして側に来させて、着用してみせた。
後方で幾つかついている紐をそれぞれ縛って、胴囲を調整していた。
装着した状態で、フランクは握りこぶしでその帷子を殴って見せた。
「うっ」
アルバートには衝撃が走ったが、痛みはなかった。
フランクはウエストにぶら下げていた工具類からナイフを取り出し、帷子に当てた。
「ほら、傷がつく程度だろ。中までは切られない。」
他のものを広げて、クレアとコーディに手渡した。
紐の色が違っていて、「それぞれに合わせたものを特注したのだ。」とフランクは言った。
「今から、戦争でも行くみたい。」
レインがつぶやくと、コーディがレインに近づいて言った。
「攻撃するためのものではないのですよ。防御するのです。」
クレアは無言で深く頷いた。そして、フランクにレインたちに用意したものを出してくれと合図を送った。
フランクは壁一面に並べられた棚の引き出しから、腕輪を取り出した。
レインたちの前にあるテーブルにふたつ、腕輪を置いた。
「結構、重たいが、慣れればどうってことないだろう。」
腕輪といっても、分厚くて手を施錠するようなものに見えた。
「これは、武器なの?」
ジリアンが言うと、レインが「武器なら、スタンガンがあるから、必要ない。」と言った。
「ちがうよ、通信機が挿入されているんだ。説明して、フランク。」
クレアに言われて、フランクは引き出しからまた、腕輪を一つ取っった。
「ああ、この青いボタンが両側にあって、同時に押すことで、中のランプが光って、通信状態になる。」
ふたりはその様子を食い入るようにしてみていた。
「それが通信機であると悟られないようにしたいのだが、よい方法はないかな。」
「僕はポケットの中に入れておくよ。レインは反対側にあの時計をつけておけばいいんじゃないかな。」
「え、ああ、そうだね。」
気のない返事をレインがすると、アルバートがニッコリと笑って、「大丈夫。僕がついているから。」と言って、同じ腕輪を取り付けて見せた。
「その通信機は、アルと私、レインとジリアンの、4人が持っていることにするよ。コーディはわたしから離れないようにしてもらう。」
そこにいたフランク以外ものが無言で頷いた。
レインは、腕輪をはめてみて、戦争に行くわけじゃないんだと自分に言い聞かせながら、シヴェジリアンドでの出来事をすこし思い出して身震いをした。
「大丈夫?レイン。」
ジリアンに心配掛けまいと、気丈にふるまおうと頭を左右に振ってレインは考え直した。
「大丈夫だよ、ジル。」
ジェラルミンケースを二つ、フランクから手渡されて、クレアはひとつをアルバートに渡し、一つは手に持った。
「備えあれば憂いなしだ。母さんは心配していたが、俺はクレアを信じているからな。」
フランクなりの気休めかもしれないと、クレアはこころのなかで呟いた。
フランクが明るく振舞うので、レインも考えすぎないようにしようと腹をくくった。
それぞれ、必要なものを身につけ手に持ち、部屋を出た。
洞窟から出ると、機械の音が止んでいた。工場内は休憩時間に入ったようだった。
うずたかく積まれた三角の形をした木をみつけて、ジリアンはフランクに尋ねた。
「あれは何ですか。」
「楔だよ。」
「楔?」
「ああ、木の屑で鋭角な形のものを作っておいているんだ。木を切るとき、気の根元に切り込みをいれ、そこに楔を切り込みに挟み打ち付けると、どんな大木でも、倒れてしまうんだよ。」
「へぇ~」
クレアは二人の会話を考え深く聞いていて呟いた。
「根が深いモノは楔を打っておかないとだめなんだな。」