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第二十二章 楔を打つ 5

ロザリア=スタンドフィールドはアレックスのひ孫にあたる。

二人姉妹だったため、ドックの跡継ぎにふさわしい者との結婚をしなければいけなかった。

ロザリアは誰か言われて、ゴメスと決めたわけではなかった。

職人気質があっても分をわきまえ、引き下がる時は引き下がる、そこまで意地は通さなかった。

年齢がかなり年上であったが、年頃のロザリアには年の差を気にするのではなく、ドックにとって必要な人物であるかを見極めていた。

二人の結婚に反対する者がいたのは、ゴメスの容姿がロザリアのような天使を思わせる愛らしい美女と不釣合いという理由だった。

ゴメスの資質には周囲も理解していて、納得はしていた。

ふたりの幸せを願わない者はドックにいなかった。

しかし、ロザリアは流行病にかかり、ロブが幼い時に早世してしまった。

アニーは、ロザリアの品の良さはドックで育った者とは思えないほどだと感嘆して話をした。

「だから、余計にロブのような子が生まれた事を悔やんだね。素直に育つことできなかったのは、ロザリアが早くに亡くなってしまったからだと・・・。」

アニーは目を細めて大粒の涙をこぼし、ポケットからまたボロの布切れ出して涙を拭った。

「アニー、レインはマーサのおかげで、素直な良い子に育ったよ。」

先ほどの部屋から、ようやく戻ってきたクレアは、席につきながら、言った。

アニーは横目でクレアを睨んだが、すぐさま、目線を戻した。

「そうかい。きっと、あのあばずれが育てなかったからだろうね。」

クレアはやぶへびだと自分の言った言葉に痛い想いがした。

レインは、ジリアンに肘ですこし衝いて、小声で言った。

「アバズレって何?」

ジリアンは、返答に困った。

「え?!オトコ狂い?」

「なにそれ?」

「オトコ好き?ってことかな。」

「なんだよ、それ。」

大きな声でレインは言った後、アニーに怒って机を両手で叩いた。

バーン

「僕のお母さん、レテシアは、ロブ兄さんに一筋なのです!」

「兄さんって、まだ言っているのかい。」

レインはアニーの言葉で顔を赤くして、うつむいた。

「まだ、ちょっと受け入れできないのですよ。」

コーディが助け舟を出した。

「アニーさんはレテシアさんをご存知なのですか。」

「ああ、もちろん。じゃじゃ馬じゃった。」

「レテシアさんをご存知でしたら、お分かりになるでしょう。一途な方だと。」

コーディはニッコリとアニーに笑顔を向けて言い、アニーは罰を悪くした。

「すまなかったな、レイン。自分の母親をアバズレと言われて怒らない息子なんて、いないわな。

わたしが悪かったよ。」

レインは顔を上げて、すこし無理に笑顔を作ってアニーに返した。

「まぁ、ロブが14歳で父親になったので、驚きが隠せぬものだったのでな。」

口をつぐんで、言葉が出ないままで、レインはアニーを見ていた。

「ゴメスは大層驚いたと聞く。ロブにはロザリアの面影を抱いておったからな。」

レインは目を丸くして、「面影?」とつぶやいた。

「そう。ロブはロザリアに似ていると周囲には言われていた。」

レインとジリアンは写真をもう一度みた。

クレアが二人に向かって言った。

「ロブの金髪やグリーンの目の色はロザリアに似たんだ。レインの茶色の目はレテシアに似たからね。でもね、その高い鼻はレテシアの鼻じゃないよ。あきらかにロブ。」

ジリアンはレインの顔をまじまじと見ていた。レテシアにそっくりだといわれるくらいだから当然だと思っていた。

「ジリアンは確かにフレッドに似て、フレッドはゴメスに似ている。けど、ジリアンの青い目はセシリアの青い目と一緒よ。

緑が混じっているのはフレッドに影響したかもしれないわね。ロザリアは鮮やかな緑の目をしていたみたい。」

セピア色になっている写真からは、細やかな色の判別はできなかった。

ロザリアが本当に天使に見えるくらい、柔らかな微笑を、写真を見ているものに向けているような気がして仕方なかった。

一通り、談話が済むと、クレアが時間だからと、席を立った。

コーディは後片付けをすると言って立ち上がったが、ジリアンが手伝うとコーディとともに食器を持って、台所へ行った。

残ったクッキーを手に、レインとクレアは先に外にでて、アルバートとダニエルに渡した。

アニーは玄関先のドアを開けて、立っていた。

食器を洗っていたジリアンは、洗った食器を丁寧に拭くコーディに尋ねた。

「クレアさんの言葉遣いが普段とちがうんだけど、アニーさんに気を使っているのかな。」

「クスッ。そうですね。普段と違いますね。クレアさんがアニーさんに怒鳴られたからでしょうね。」

「怒鳴られた?」

「ええ。アニーさんにとって息子さんであるダンさんの死を報せなかったために、涙ながらに怒鳴られたそうです。」

「はぁ、そういうことがあったんですね。」

「年配者に泣かれては、クレアさんも形無しですよ。クレアさんはダンさんから、アニーさんのことは聞かされていたらしいのですが、亡くなってから訪ねるまでお会いしたことがなかったそうですよ。」

ジリアンは深くうなづいた後、洗いものが済んだので、自分の手を洗い、タオルでふき取った。

コーディは食器を元あった場所に仕舞った。

ジリアンとコーディが後片付けを済ませて、玄関に行くと、アニーは体を震わせていた。

「どうかしたのですか、アニーさん。」

ジリアンが声を掛けたが、アニーは無言だった。

コーディは察して、ジリアンを先に外に出るようにと促し、アニーの両肩を後ろから握りしめた。

ジリアンがクレアたちのところへたどり着いたのを確認して、コーディはアニーに囁いた。

「ダンさんが遣り残したことを、クレアさんはやろうとしているのです。見守っていてください。」

アニーはこの時には涙をこらえた。そして、左手でコーディの右手の上に手を重ねた。

「クレアはおまえさんの身を案じておる。クレアのような無茶なことはしないでおくれ。」

「わかりました。」

「おまえさんにクレアを止めてくれとは言わない。無駄なことだと、ダンのときに思い知っている。しかし、これだけは覚えておいて欲しい。」

「はい。」

「わたしの命なんざ、気にしないで、伝えるべきものは伝えてくれ。あんたの知る限りのもので良い。時がきたら、必ず。」

「はい、了解しました。かならず。」

コーディは口をあまり開けずに小声で「さようなら。」とアニーに言った。

アニーは、言わないという態度で口をつぐんでみせた。

コーディがクレアのところへ行くと、クレアはアニーを振り返って言った。

「また、来ますよ、アニー。」

その言葉が気休めだということをアニーは理解していた。なぜなら、ダンも同じ事を言ったからだ。

レインはアニーに手を振り、ジリアンとコーディはお辞儀をした。ダニエルは軽く会釈をした。

一行は、アニーの家をあとにして、エアバスに乗り込んだ。

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