第二十一章 川面に映るもの 2
ジョイスが昼前に目が覚め、ウィンディの手紙を河川敷で読んだ。
止め処なく涙がこぼれ、拭いきれない。だれそれと言われることなく、難民に混じって孤児を装い、周囲に悟られないよう努力してきたことが今無駄になったような気がした。
それにウィンディに捨てられたという想いが強かった。
そんなジョイスの後ろ姿を見守っていたクレアは、じっとしていられず、後方から声をかけた。
「ジョイス。」
クレアが名を呼んだのはわかっていたが、涙で濡れている顔で振り返ることができなかった。
立ち上がって、川に近づき、顔を洗った。
川面を眺めていると、クレアが後ろに立っているのが映っていた。
話をそらせるために、ジョイスはコリンの名を持ち出した。
「クレアはコリンを知ってる?」
「ああ、知ってるけど、どうして?」
「ジルとレインに言われたんだけど、俺、コリンって奴に似てるの?」
その言葉に、クレアは愕然とした。
それまで気がつかなかった。確かに似ている。
そして、クレアは青ざめた顔になっていることに気がついて顔を両手で伏せた。
その様子に、ジョイスは心配になり、「大丈夫?どうかしたの?」と振り返って声をかけた。
「大丈夫よ。」
クレアは、ゆっくりと上を見上げて天を仰いだ。
陽は真上から照らし、まぶしかった。
(ウィンディはジョイスの父親が誰であるか、わかったんだ。)
クレアはこころのなかでつぶやいた。
胸騒ぎがしてしかったなかったが、手紙の内容をジョイスから聞き出すつもりはなかった。
「コリンに確かに似てる。」
クレアは座り込んでいるジョイスに合わせて、かがんだ。
「コリンに会えば、他人のようには思えないぐらい似てるって感じると思うよ。」
ジョイスはクレアの言葉の意味を理解できないままだったが、手紙の内容に少し触れた。
「ウィンディからクレアの指示に従うように言われた。それって、スタンドフィールドドックに行くようにってこと?」
「まぁ、いづれ。ただし、このまま、ウィンディのようにここから姿を消すわけに行かない。」
クレアは立ち上がって、ジョイスを見下ろして言った。
「ジョイス、君は高所恐怖症だったわね。SAFで連れて行くわけにいかない。わたしの知人に言付けておくから、私の名を語った人物の指示に従ってちょうだい。」
「うん。信じていいんだよね。」
「ええ。ただし、わたしの名前はクレア・ポーターじゃないわ。」
「え?!」
「クレア・テレンスにしておいて。」
そう言って、クレアはジョイスにウィンクをした。
非難してから子供たちはすでにその場所から移動していた。
向かった先はフォレスタ・プロフォンタで、そこはトランスパランスという宗教団体がコミュニティをつくり住処としている場所で家を失った子供たちを受けれいてくれるという情報があった。
夜警をしていたジョイスたちは、河川敷を去る準備をしていた。
ロブはクレアに言われて、パジェロブルーでコミュニティに向かっていた。
クレアとカスターが運転席に、アルバート、レイン、ジリアンはトラックの荷台乗り、ジョイスたちをあわせて乗せると、出発をした。
徒歩の子供たちより、先に行って、情報が間違っていないかどうか確かめる必要があった。
白い壁で覆われたコミュニティの門を見つけると、クレアが情報の確認をした。
情報は間違っていなかったが、大勢の子供たちを受け入れることはできないと言ってきた。
責任者が出てきて、クレアと話し会い、コミュニティ建設のために住んでいた建屋があって、そこに一時的に子供たちを受け入れる話となった。
トランスパランスという宗教団体は、国への干渉を拒み、社会から拒絶して、コミュニティを建設して、信者たちは共同生活をしていた。
人道的主観から不幸な子供たちに援助をするという姿勢があり、とくに子供たちに信仰を強制指導することはなく、自立してコミュニティをさる者はそれなりにいた。
非難してきた子供たちは夕方には、このコミュニティに到着し、支持されたどおりに、建屋に向かい、そこで寝泊りする準備を始めた。
建屋は大勢のひとたちが建設のために寝泊りしていたもので、共同トイレや風呂が完備されていた。
しばらくの間、使用されていなかったために手入れが必要だったが、当面の寝泊りするためには2段ベッドがたくさん整備されていたので困らなかった。
安心して眠ることを確保されたことに、多くの子供たちが緊張感から開放された。
コミュニティからは、援助として食料が運ばれて、子供たちには疲れを癒す、暖かい食事が提供された。
クレアとカスターはSAFと連絡を取るためにコミュニティの中に入った。
コミュニティの中は、みな同じ制服をした老若男女が行き交い、白い建物で埋め尽くされていた。
コミュニティの本部に案内されて、責任者から通信に関して注意を促された。
クレア自信は慣れているので、通信の際は、暗号を使った。SAFとの落ち合う時間と場所を連絡しあって、通信を終了させた。
カスターはコミュニティの門を出たあと、クレアに尋ねた。
「子供たちだけが非難できたというのは、レインたちが作業していた下水道につながる穴を掘っていたからというのは聞いたんですけど。なぜですか。」
「大人が通れる穴を掘っている時間がなかったことと、大人が入れる穴を掘っていては、スパイに気づかれてしまうからね。
新参者や怪しい人物には、内容を報せてなかったんだ。」
「そこまでする必要性はなにも施設が一部攻撃されるまでにはなかったでしょう。」
「ああ、難民が政治戦略のために犠牲になるうることを危惧した人物がいてね。その人物はスワン村でアレックスのことが書かれた本を読んだからなんだ。」
「アレックス・スタンドフィールド?」
クレアはアレックスのことを語った。アレックスがドックを建設してそこから、グリーンオイルの配給やら始めた。オホス川周辺の町は昔、更地で、そこに多くの人が配給を求めて集まってきて住みついた。
黒衣の民族や、グリーンオイルを買い占めて荒稼ぎしている悪徳業者らは、その住民たちを見せしめに攻撃しようと企んだ。
その時、アレックスは住居に穴を掘るよう指示した。オホス川には、地下を流れる水脈があって、それを頼りに穴を掘らせた。
穴を使用するような惨事は免れたが、オホス川周辺の町に大火事が起きた時、住民はその穴で火事から逃れることができたということがあった。
「その人物は死の病を患っていたので、トランスパランスの情報を確保してから、亡くなったという話をウィンディから聞いたんだ。」
クレアはこのとき、一度失敗したスワン村入りを、再度挑戦しようと決意したのだとカスターに語った。