第二十章 暗闇に閃光 7
「え、髪の色を染めているの?」
「うん。」
ジリアンはジョイスの言葉に驚いていた。
金髪のウィンディに対して、ジョイスが赤毛なのは金髪を染めているからだと。
その話を聞いてレインは、コリンを思い出していた。
コリンの場合は、黒髪を赤い髪に染めている。
ジョイスの顔を改めてみていると、コリンに似ているような気がした。
黒髪を赤い髪に染めていることは内緒だったので、レインは口をつぐんだが、コリンに似ていることはその場で口にした。
「うん、僕もそう思ったんだ。なんだか余計に腹が立ってしまって。」
「コリン?」
「うん、レイニーの同級生。」
「どういうわけか、コリンはジルを目の敵のようにいじめるんだ。」
ふふんと鼻を鳴らして、ジョイスは納得した。
「僕が生意気なことを言うのと、レイニーが僕をよくかばってくれるからだと思うんだ。」
さっきからニヤ着いているアルバートが気になって仕方がないレインだったが、気にしないようにしていた。
4人でいっぱいいっぱいのテントが天井から吹き込む風で大きく揺れた。
ゴォーッ
3人はテントの梁を押さえた。
ジョイスはテントから出て、3階の窓枠があった場所に立った。
「夕日が沈む頃に上空で風が吹き込むんだ。もうすぐ、夜だよっていう合図に思えるんだ。」
3人がテントの梁を押さえ込むことに成功すると、ジョイスの言葉にうなづいた。
ジョイスはその場所から外を眺めていると、真下より先にあるトラックの向こう側にクレアとロブが二人立っているのが見えた。
「意外と、しつこいオトコだな!」
「何言ってるんですか、クレアさん。俺にも教えてくださいって言ってるんですよ。」
二人は言い争いをしていた。
周囲に聞こえないようにと、入り口とは反対側の裏手でトラックを背にして話をしていた。
「俺がレテシアに謝らないと、できない話っていったいどんな話なんですか。」
「だから、話をしないって言ってるんだ。」
しばらく口をつぐんで、ロブはまた、口を開いた。
「後日、レテシアに会ったら、謝りますから、話を聞かせてください。」
「後じゃ、遅いんだよ。レテシアと心を交してからじゃないと、できない話なんだよ。この分からず屋!」
歯軋りをして、悔しさを押さえ込もうとしたロブに、クレアはにらみ返した。
「レテシアの気持ちを理解できない男に話しなんて、できないんだよ。」
「レテシアに関わっていることなのですか。それは、それは・・・。」
口にできない言葉は、言い出せない名前。
イラつきながらロブは、指で頭をかき乱した。
「ジェフが知っている話なんでしょうね!」
「そうだ!ジェフなら知ってるというか、考えることができる。レテシアの事をよく理解しているからね。」
その後出てくる言葉は聞きたくなかったので、ロブはクレアに背を向けた。
「わかりました。もう聞きません。」
クレアは腕組みをして、ブーツのかかとで音を立てた。
コッコッ
「SAFの仕上がりはどうなってるんだ。」
「10日間掛かります。」
「10日だと!?計器類の取替えにそんな時間がかかるのか。」
「エンジンの圧力計がイカレてしまって、なかなか手に入らない代物なんですよ。」
「ジョナサンか!」
「ジョナサンは気が付いて、話を持ってきたときには、ここに来る事を決めた後だったそうですよ。」
今度は、クレアが頭を指で掻いてみせた。
「エンジンの圧力計がイカレるなんて・・・。」
「薬剤を使ってグリーンオイルの生産する場合鉄分を多く含んでいたそうです。磁場の影響で澱が出来てしまい、圧力計を狂わせたそうですよ。」
「ディゴでも想像付かない話なんだな。」
「そうです。」
クレアに背を向けていたロブは、頭上からの気配を感じて上を見上げた。
施設の3階らしきところから、覗かれているのが見えた。覗いている二人のうち一人がレインだとわかった。
「クレアさん、これで失礼します。」
ロブが上を見上げたまま、言うと、クレアは何も言わなかった。
それを確認して、見上げるのをやめて、立ち去った。
トラックの運転席には、ふたりの会話が聞こえるようにと忍び込んだウィンディがいた。
ウィンディはレテシアの事を知らなかったが、ロブやレインの会話を聞けば、どんな女性か想像はついてくる。
クレアが思い入れをしているのは、レテシアなのかと考えていた。
上から、クレアとロブの様子を見ていたレインは、ジリアンから聞いたジョイスのことを思い返した。
「ジョイス、クレアさんは君の事を知っているのかな。」
「知っていると思うよ。ウィンディがクレアの前で俺を抱きしめることにためらったりしないから。」
「そうなんだ。」
クレアが言った「お前たちの命を狙っている奴が、ロブを変えさせてくれるだろう。」ということを思い出した。
レインは窓枠に肘をついて、考え込んだ。
クレアがロブと言い争いをしているのは、ロブの気持ちに揺さぶりをかけているのだとわかっていた。
クレアの言ったことを聞いていなかったら、二人のことを心配してうろたえていたかもしれない。
それはジリアンと話をしていて、理解できたことでもあった。
ジョイスの言葉に、自分自身の考えの浅さを痛感した。
ロブのことも、クレアのことも、ジリアンのことも、自分の周りにいる人たちのことも、表面上のことしか理解できていない自分をすこし恥じた。
「また、なんか考えているの?レイニー。考えちゃだめだよ。」
ジリアンに見透かされて、ふて腐れた。その様子に気持ちをジリアンが気づかれてしまっていることにようやく気が付いた。
「ごめん、考えないようにしようって思ってるんだけど・・・。」
「レイニーってさ、考えないで行動してしまうところがあるのに、無駄に考えてしまうところあるよ。ま、どうせ忘れてしまうんだけどね。」
その二人の会話を聞いて、ジョイスが笑いながら自分の両手で二人の肩を寄せた。
「おもしろいなぁ、お前たち。なかなか良いコンビじゃないか。」
怪訝な顔で二人はジョイスを見ていた。
3人の後ろでアルバートが立っていた。
「夕食を食べなさいって、下からお呼びが掛かったよ。」
3人は元気良く返事をした。
「ハァイ」