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第二十章 暗闇に閃光 6

肥溜めをかぶったジリアンに、取っ組み合いをすればその肥溜めの飛び散ったものがへばりつくことは想定内の姿のジョイス。

ジリアンが少し背丈が大きいように思えるが、力加減は同等だった。

最初なぐられっぱなしのジョイスも殴らない代わりに頭突きをジリアンの腹部めがけてしていた。

ジョイスは幾度となく、突進してジリアンをねじ伏せようとする。

ドックを出るまでは、運動が嫌いで体力も筋肉もあまりついていなかったジリアンだったが、パジェロブルーを乗りこなすために行ってきた日々のトレーニングが成果に出ていた。

喧嘩馴れしているジョイスに体当たりされてもビクともしなかった。

ふたりが動き回ることで飛び散り、異臭の範囲が広がると、野次馬が次第に二人から遠ざかっていった。

そこへ一台のトラックがクラクションを鳴らし勢いよく割って入ってきた。

荷台からホースを持ったクレアがあらわれると、ホースから大量の水が出てきた。

「肥溜めの入ったドラム缶の置き忘れがあるって聞いて、もしやと思ったらこれだよ。」

大量の水はジリアンとジョイスにめがけて放水された。

「うわぁ~っ、冷たい!」

「ぎゃぁ~」

放水が終わると、ずぶぬれのふたりにコーディがバスタオルを持ってあらわれ手渡した。

そこへウィンディがあらわれ、ふたりをバスタオルで覆うとギュッと抱きしめた。

「さぁ、これで仲直り。もう、喧嘩しないの。」

ひとつのおおきなバスタオルのなかにジリアンとジョイスが包まれて押しつぶされていた。

ジリアンが笑顔のジョイスを感じていてなにかあると思った。

(喧嘩は、わざとなのかな。)

ジョイスの笑顔はおかしくて笑っているというより、嬉しくてしょうがない感じだった。

バスタオルから開放されたジョイスはジリアンの髪を匂った。

「まだ、臭いよ。」

ニヤ着いているジョイスの顔を怪訝そうな様子で見るジリアン。

「じゃ、施設に帰ってシャワー浴びよう。」

レインがジリアンの手を引いて連れて行こうとした。

「いいよ、レイニー。まだ昼からの作業が残っているんだからさ。もちろん、ジョイスもその臭いままで作業するよね。」

一瞬で嫌な顔をしたけど、しょうがないという態度を取って、深くうなづいた。

「ジリアン、無理しなくて良いのよ。」

ウィンディの言葉に、「良いんです。」と言って、作業場に戻った。

ウィンディはジリアンの後ろを姿をみながら、ジョイスの頭を平手で殴った。

バシッ

「痛い!」

ジョイスはウィンディを見たが、ウィンデイはジョイスを見ないまま、そのまま、トラックに乗り込んだ。

コーディがすでに運転席でトラックを動かす準備をしていた。

クレアはそのまま荷台の上に乗ったままで待機していた。

レインはただうろたえているだけだったので、アルバートはレインの手を引き作業場に戻るよう促した。

「すごい歓迎の仕方だったな。」

アルバートがつぶやくと、レインは膨れつらをした。


レインたちが作業を終えて、施設に戻ると、施設の入り口でロブが立ち尽くしていた。

「どうしたの?」

レインが声をかけたが、ロブは無言で答えようとしない。

しかし、ロブは異臭がするのに気が付いて、レインの問いに答えた。

「クレアさんと話がしたくて待っているんだ。それよりこのにおいは何だ?」

ジリアンが無言で通り過ぎると、その異臭の元がジリアンだと理解した。

ジリアンの姿が見えなくなってから、レインはロブに成り行きを話した。

アルバートは、ジリアンの後を追った。

ジリアンがシャワー室に入ると、先にジョイスがシャワーを浴びていた。

アルバートも中に入ってシャワーを浴び始めた。

しばらく無言が続いたが、ジリアンが口火を切った。

「肥溜めをぶっかけたのは、ウィンディさんのためなんだろう、ジョイス。」

ジョイスは、虚を衝かれて、ビクついていたが、しばらくして、ため息をついた。

「ジリアンたちは、よそ者だし、すぐにここからいなくなるから、しゃべってもいいかなって思うんだけど。」

「何を?」

「俺、ウィンディの子供なんだ。」

「ええ!?」

「ほう。」

ジョイスは二人に対し他には内緒にして欲しいからと、シャワー室を出た後、3階のテントへ向かい、そこで一部始終を話した。


ジョイスはウィンディの両親の養子として育った。

ウィンディが軍部の医療に従事するため入隊したときに、ジョイスを身ごもった。父親は不明になっている。

ウィンディの父親は田舎の開業医で、ウィンディに後を継いでもらいたいと思っていたが、反抗し軍に入隊した。

父親のわからない子を産み、両親に差し出すと、軍に復帰した。

両親はジョイスを跡継ぎに育てようとしたが、ジョイスが6歳の時に、放火による事件で死亡した。

ウィンディの口から事実を知らされ、また養子としてもらわれていくことに承知できず、ウィンディについていくと言い出した。

親子であると、周囲に知られないようにすることを条件に、任務に就いた場所に難民の子や浮浪児として住み着くこととした。

ウィンディに甘えたい一心だけで悪戯をするだけでなく、親子だと悟られないためだった。

その話を聞いたジリアンは、レインや自分の素性を明かした。

「施設の前で棒立ちしていた男前は、レインのお父さんなのか。似たような話はどこにでもあるんだな。俺だけじゃないんだ。」

「事情はそれぞれ違うと思うけど、決して親子でいたくないわけじゃないと思うんだ。」

「それがわかっているから、親子として一緒にいられなくてもつらくないよ。」

ジョイスは同じような境遇の子たちに会い、人にはなかなか言えなかったことを話せて、気持ちが良くなっていた。

「クレアさんのことはどう思っているんだ?」

アルバートがジョイスに問いかけると、子供とは思えない悟った表情で答えた。

「ウィンディが幸せそうに嬉しそうに笑う姿を見たのは初めてだった。クレアの前だけに見せるんだ。」

ジョイスはどこか遠いところを見つめるように話す。

「俺がウィンディを笑わせることがあっても、幸せそうに笑わせることはできないんだ。俺はこれから先、ウィンディが幸せでいてくれるなら、それでいいって思う。」

アルバートがおもむろに言った。

「ジョイス、君は何歳なんだ?」

「13歳だよ。」

「ええ!!僕より年上?」

「へぇ、ジリアン12歳なんだ。それにしてはしっかりしているよな。レインの方が軟弱に見えるんだけど、年上?」

ジョイスが言ったそばで、レインがテントの中に入ろうとしていて、膨れっつらをした。

ジリアンがあわてて、フォローをした。

「そんな風に言わないで欲しいね。レイニーは危険な目にあっても僕を守ろうとしてくれてるんだから。」

レインはジョイスとジリアンを二人の顔を見合った。

(いつの間に仲良くなったんだろう。)

「弱いものを守るのが年長者の務めだからね。」

アルバートが口にすると、レインは笑顔になった。

「ドックじゃ、当たり前のことだよね、ジル。」

「うん。」

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