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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第十九章 雷雨の思い出
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第十九章 雷雨の思い出 3

雷雨が止んで、ドックの空には虹がかかった。

製造タンクに掛かりきりになって、ラゴネはロブとレテシアに起きた事を聞いたのは、翌日のことだった。

セシリアが知らないはずはないことなどは口にしなかったが、レテシアがレインを連れ出した理由などを話した。

しかし、ロブは自分が誤解したことは認めなかった。

ロブは、レテシアが去ったときから、誤解かもしれないということを思ってはいたのだが、それはセシリアが口を抑えて笑っている姿を目撃していたからだった。

取り返しの付かないことをしてしまったという不安が襲い、その晩は眠れなかった。

幼いレインが泣き叫ぶ声がマーサの部屋から聞こえてきても、耳を塞ぐことしかできなかった。

徹夜明けで結論に達した考えは、誤解でもこれ以上レテシアをドック(ここ)にとどめておくことはできないということだった。

それは、ロブ自身でレテシアを束縛しておけないという思いがあったからこそだった。

だから、ラゴネから誤解だという話を聞かされても、受け入れようとはしなかった。

その後、火災で起きた患者の対応に追われていたクレアが精神状態を最悪にしながら、ロブに詰め寄った。

「誤解だというのに、お前はレテシアに謝る気持ちがないのか。」

ロブは何も言おうとしなかった。

それが一層クレアの気持ちを逆撫でさせて、クレアはロブを殴り倒した。

どんなに殴られようと、ロブは抵抗しなかった。

クレアはロブの胸倉を掴んで足のつま先が浮くくらい、持ち上げた。

「レテシアを失ったのは、お前だけじゃない。レインも、このドックにいてるみんなも、そしてあたしも。

お前が取り戻す気持ちがなくて、レテシアは戻ってこない。謝る気持ちがないのなら、あたしもそれなりの態度に出る。」

クレアは胸倉を掴んだまま、ロブを投げた。

ロブは投げられて左肩を床に打ち付けて受身をとった。

それからしばらくは、クレアとロブの冷戦状態になった。

雷雨になると、レインが泣き叫び、レテシアを呼ぶので、ロブは強引にレテシアを忘れさせた。

レテシアを忘れたと同時に、ロブのことも忘れてしまったらしく、パパと呼んでいたのを、ジリアンと同じように兄さんと呼ぶようになった。


その後、ドックに来る空挺の乗組員などから、レテシアの噂を耳にすると、軍をやめてロックフォード・ファミリーのメンバーになったと言っていた。

軍を辞めたのは、グリーンエメラルダ号のハートランド艦長に顔向けが出来ないから。

戻る場所を失ったレテシアにとって、行くところはエアジェットが操縦できる場所しかない。

アクロバットはまだ得意ではなかったが、ホーネットのメンバーになったところから、ロックフォード・ファミリーのメンバーになれた。

ファミリーのリーダーと恋仲だと噂があったが、その後、レテシアはファミリーから姿を消した。

レテシアは紆余曲折うよきょくせつしながらも、軍に服役し、ハートランド艦長の下に着任し、今に至った。


クレアは大きな欠伸あくびをした。

気乗りのしない話をし終えたからだった。

雷雨に見舞われたSAFは進路を見失っていた。

レインがレテシアの言った言葉の「誤解」の意味を知りたくて、クレアに泣いて話を聞かせてくれと懇願した。

嫌だったクレアは根負けして、話ししたのだった。

ジリアンに聞かせたくはなかったが、レテシアがジリアンと一緒に暮らしたい気持ちがあるというので、仕方なく聞かせた。

「兄さん、その、誤解をしていることはわかってるんだよね。」

「そう、でも、レテシアを引き止めておく自信がなかったんだよ、きっと。そんなこと確かめたくもないから、誰も聞かないのよ。」

「セシリアが悪いということも責めないんですね。」

ジリアンがその言葉を口にして欲しくなかったクレアだったが、返事をせずに、うなづいてみせた。

「でも、ママは、今でも。」

「ああ。オトコとオンナの関係は、複雑なものがある。第三者がどうのこうのと、言ったり忠告しても、だめな時はだめなこともある。」

「僕は、心配なのです、クレアさん。」

「ジル、何が?」

「兄さんは生き急いでる気がするのです。死にたがっているというか。」

「ああ、それはフレッドが死んだのは自分のせいだと思っているからだろう。」

クレアは眠たそうな目でジリアンを見つめて頭を撫でた。

「死なせはしないさ。あたしはこころに決めてるんだ。レテシアに謝るまでは絶対死なせやしないって。」

ジリアンは笑みを浮かべた。

そして、クレアはレインの方へ向いて、真面目な顔つきになった。

レインはその様子に少し身構えた。

「これは二人だけに話しておくよ。」

レインとジリアンはクレアの次の言葉を待った。

「ハートランド艦長は、レテシアに引退してもらいたいんだ。」

「引退?!」

「ああ、もう、エアジェットを操縦して欲しくないんだ。」

「それは、ママから取り上げてしまうってこと?」

「まぁ、おかにあがった魚になってしまうだろうけど・・・。このままじゃ、レテシアの命が持たない。

レテシアもレテシアで、生き急いでいるみたいだ。」

クレアはため息をついた。

レインは目を丸くしてクレアを見ていた。

生き急いでいるという言葉が信じられなかったからだ。

「引退させるためには復縁を望んでいるんだ。レテシアの気持ちは変わらないことが明白だしね。」

「艦長の意思なのですね。」

ジリアンはハートランド艦長の思いを感じてクレアに念を押した。

「娘のようにかわいがっていたからな。エアジェットを操縦しているだけで幸せにはなれないことぐらいわかるだろう。」

「あとは、兄さん次第ですか。」

「・・・。頑なに拒んでいる理由って、オトコの意地みたいなものですか。」

クレアはレインの言った言葉に研があるので、しばらく黙っていた。

「さっきも言ったけど、自信を失っているんだ。取り戻すには、ロブ自身が変わらなければいけない。」

その後の言葉をクレアは飲み込んで口にしなかった。

(あたし自身を犠牲にしてでも。)

クレアはレインとジリアンを両手で抱き寄せて、耳元に囁いた。

「お前たちの命を狙っている奴が、ロブを変えさせてくれるだろう。」

二人はその言葉に寒気がした。

二人を引き離して、クレアは言った。

「オトコの意地っていうのは、案外簡単に手放すものだよ。命を他には変えられないからね。」

稲光がSAFを襲ったが、機体が揺れ、レインが怯えるだけだった。

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