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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第十九章 雷雨の思い出
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第十九章 雷雨の思い出 1

レインが幼い頃、スタンドフィールドドックは、ゴメスが病死してこの世を去っていたが、フレッドとロブのふたりがドックをまとめあげて活気に満ちていた。

フレッドは年配者に一目置いて接しているため、ゴメスがいてるのと変わらずに、人々が作業をしていた。

食堂では賑やかな声が響いていた。

じっとしていられないレインに食事をさせようとロブが悪戦苦闘していたからだ。

キャッキャッキャッと、叫び声をあげて、ロブを振り回しながら、レインは椅子に座ろうとしない。

ロブはロブで、言うことをきかないレインに腹を立てることなく、逃げ回っているレインを捕まえようとしている事を楽しんでいるかのようだった。

「捕まえたぞ。この悪がき。」

ロブは嬉しそうにレインを抱きしめて、剃っていないあごひげをレインの頬にこすりつけた。

「パパ、痛いよぉ、おひげ、痛い。」

そのひげが当たる痛みも痒い程度で、抱きしめられて頬ずりされているのを嬉しがっていた。

「悪がきはお前も同じだろうが。」

フレッドが大きなあくびをして、ジリアンを抱いてあらわれた。

本来なら、マーサがジリアンの育児に携わっているのだが、マーサは朝食の支度で忙しいので、フレッドが代わりにジリアンの面倒をみていた。

ジリアンは生まれてすぐ、実母のセシリアからマーサの手に委ねられた。ゴメスがセシリアにフレッドの子を生んでもいい条件が、ゴメスとマーサの子として育てることだったからだ。

セシリアの素性を考えての結論だった。

セシリアは自分で産んだ子が人の手で育てられることに違和感はなかった。第一子を生んでも抱くことさえできなかったことより、ジリアンを生んでよかったのだとこの頃は思っていた。

ロブとレテシアの仲の良さを恨めしく思っていて、不満を抱えていた日常だったが、今はフレッドの子とは言え、金髪で青い目の子を生んだことに満足していた。

また、レテシアが軍に入隊しホーネット隊に所属してドックにいないことがセシリアをさらに満足させていた。

ドックで家政婦のように働いているのは、行く場所がないことと、働かないものはドックにはいられないからだったが、オンナとしての幸せを感じていてセシリアは進んで家事をしていた。

厨房では、マーサとセシリアが忙しく調理をしていたが、食堂から聞こえてくる賑やかな声を聴きながら、こころを和ませながら、幸せを噛締めていた。


一方、レテシアは、念願のホーネット隊に所属して、最新のエアジェットを操縦できて満足はしていた。

しかし、休みの日にしかレインに会えない状態で悲嘆にくれていた。

離れていても、お互いの気持ちは変わらないと、ロブと話し合って、入隊を決めた。

レインを出産してしばらくエアジェットに乗れなくて、陸に上がった魚のように元気をなくしていたレテシアをみてロブがこっそりエアジェットにのせて、ドック周辺を飛行したりした。

そのことをきっかけに、ホーネット隊に入隊したいと思うようになり、ゴメスが亡くなったころにレテシアは入隊した。

しかし、入隊してから次第に入隊したことの意味を見失い、レインと離れて生活する状態に嫌気が差していた。

一方、ホーネットへの入隊は皇帝が奨めてのことだったが、メンバーたちも、依存はなかった。

なぜなら、スカイロードでの実績があり、事故が起きた後休学したものの、卒業をして、レインを出産し、入隊試験に合格していたからだ。

紅一点ながらも、臆することなく、整備も訓練も確実に正確にこなし、欠点といえば、空気が読めない天然的な行動力だけだった。

レテシアは自分の気持ちがホーネットに向かっていないことを周囲にわからないように振舞っていた。

皇帝にエアジェットのメンバーとして寵愛されていることもあって、精錬気鋭にがんばっていくしかないと考えてはいた。

いつかは結論を出す時が来るだろうと、安易に考えていたレテシアだったが、無防備だったために、妊娠していることに気が付いていなかった。

気が付いた時には、すでに3ヶ月でつわりが酷くなりかけていた。

隊長であるテオ大尉には、相談せずに退役することを告げた。

ロブとレインのところへもどり、3人で仲良く暮すことを決意したレテシアだったが、誰にも相談せず、ロブにも言わず、退役をきめたことは後に災いを招いた。

ホーネット隊のメンバーはレテシアを去るのを惜しんだし、皇帝は強く反対したが、レテシアの気持ちは変わらなかった。

レテシアがロブに言わなかったのは、驚かせようと思ったことと、喜ばせようと思ったことところからだった。

しかし、それは安易な考えで、返ってロブの考えを固執させてしまい、不幸を招いた。


それは退役が決まっていた日。

ホーネットの機体でドックに周遊してきていいという許可があった。

嬉しくてレテシアは、ホーネットの機体をレインに見せたくて、予報では雷雨になるというのに、基地からドックまでエアジェットで飛行した。

ドックにたどり着くと、ロブや他のメンバーもおらず、レインが喜び勇んで迎えに出てきたくらいだった。

「ママ、ママ、どうしたのぉ。今日はお休みの日じゃないよね。僕、嬉しいけどさ。」

「パパは?」

「あのね、お出かけしたの。フレッドおじさんとマーサおばさんと、うんとね、うんとね。」

レインは小さい指を折り曲げて、レテシアに話していた。

首をかしげて、困り顔のレテシアに、セシリアが近寄ってきた。

「あら、レテシア、今日はまた、どうしたの?軍のエアジェットだし、軍服のままじゃない。」

「セシル。ええ、隊長の許可でドックに行っていいって。レインにホーネットの機体を見せたくて。

何度も着岸許可を求めたんだけど。」

「町で大規模な火災が起きたらしいの。男手はみなではらって、マーサはジゼルと一緒に炊き出しに出たのよ。

わたしはお留守番なの。小さい子がいるでしょ。」

「ええ、そうね。大変なことになったわね。でも、どうしようかしら。」

レテシアの困った顔をみて、セシリアは考えて、意地悪なことを思いついて口にした。

「見せにきただけじゃないんでしょ。」

「そうねぇ、できたら、レインを乗せてあげたいって思っているのだけど。」

「乗りたい、乗りたい。ママのエアジェットに乗りたいよぉ。」

レインはレテシアに抱きついてせがんだ。

「だまって連れて行ったら、怒られるから、ロブが帰るまで。雨が振りそうだし。」

「あら、待って。わたしがロブに伝えておくわよ。ロブはいつ戻ってくるかわからないし。

エアジェットだって、停泊するわけにいかないでしょう。」

「そうね、セシルがそういってくれるのなら、助かるわ。

じゃ、レイン、ママとお空を散歩しようか。」

「うん。」

セシリアは口元を緩ませ、ニヤリと笑った。

その様子はレテシアには見えてなかった。

丁度、そのころに、ラゴネがあらわれて、レテシアが発進するのを手伝った。

空はまだ、雲がなかった。

太陽が燦燦と照りつけて、まぶしかった。

第十九章の登場人物の年齢


レイン=スタンドフィールド(5歳)

ジリアン=スタンドフィールド(3歳)

ロブ=スタンドフィールド(20歳)

フレッド=スタンドフィールド(25歳)

レテシア=ハートランド(23歳)

セシリア(23歳)

ディゴ (25歳)

マーサ  (46歳)

ラゴネ=コンチネータ(68歳)


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