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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
鏡にキスを編
87/92

バカガミ

 「やっべ片目潰れた。両脚も粉々に砕けてるし……もう絶対にあの技使わないわ」

 「バカなのかお前は、もっと賢いやり方があっただろうが」


 血塗れになりながら、俺は固形化した水の上に乗り学校内を移動していた。スカラさんとグレンの包囲網から抜け出すために、身体強化魔法と勇者の力を併用し身体はズタボロ。戦うどころか放っておけば命に関わるような重傷を負っていた。


 「俺じゃあ賢さじゃあ敵わないんだよなぁ」

 「……お前の唯一の長所だろう?そこで負けを認めるのか?」

 「俺とあの人じゃあ倫理観が違いすぎる。そしてこの世界に適している倫理観を持っているのはスカラさんだ。その歪みが、俺とスカラさんに決定的な差を作っている。知恵比べじゃあ俺は勝てない。あの人とのやり取りで俺はハッキリとそう理解したよ」


 生死の判断を常にさせられるような世界だ、合理的な判断に徹したとしても、平和ボケした俺じゃあ所々で私情が顔を出す。その隙がスカラさんやグレンレベルが相手だと致命的なのだ。


 「だが今回、相手の裏をかいたわけで……」

 「かいても意味のない裏をかいただけさ。スカラさん達はほとんどノーダメージで、俺は致命傷を負ってる。自滅しただけなんだよ……このままじゃね」


 スカラさんの学校の内部は至る所に本が置いてある。だが先ほどのスカラさんの反応からして、魔法は秘密にされているようだ。一般的な場所には保管されてないと考えるべきで……スカラさんクラスが安全だと思える保管場所となると、それはやはり1番身近な場所だろう。スカラさんの部屋の奥に扉があったから、そこにある可能性が高い。もしそこになかったとしても、時間のない俺にはその可能性にかけるしかない。


 「あの一瞬の対峙で俺が魔法をちゃんと使えないことはバレたはずだ。だから俺が魔法を覚えて使い熟せば実力を認めさせられるはず……」


 なんとか水を出来る限り高速で動かし俺は這い進んでいく。ああそれにしてもキッツイなぁ……目が霞んできたし。チンタラしてたら死ぬぞマジで。


 「だからってなぁ……」

 「一応は魔王だからな俺も。使ったこともないのに風の魔法を発動できたことからも、魔法の適性は多分あるはずなんだ。起こるかもわからない奇跡に縋りながら戦うことと比べたら、こっちに賭ける方が幾分かマシだと俺は思うよ」


 そもそも風の魔法を発動できなかったら別の作戦をするつもりだった。出来てしまったから、全てを賭けるに値すると判断してしまったんだ。


 なんとか死ぬ前にスカラさんの部屋に辿り着いた俺は、一目散に更に部屋の奥へと向かう。そして水を広げて部屋中を物色する。ここまでは記憶力で何とかなったが、首や体を動かすことができない。視力もなくなりかかってる俺がモノを探すのは骨が折れる。時間もないのにどうやって見つけ出すか…………

 「おいおい、こりゃあ火の魔法の書じゃないか。こんなもん俺に近づけんな、危険すぎるだろうが」


 「…………なんなんだよ今日は」


 炎帝の記憶がまたフラッシュバックした。いままで炎帝の記憶なんて見えなかったのに、一体何が起きてるんだ?……とにかく、火の魔法の書というのがあるのは分かった。その形も把握できた。それなら……俺は魔剣の空間把握能力を使い、部屋を這いずっていく。今の俺の把握できる距離じゃあこの部屋全てを網羅することはできないから移動しなきゃいけない。とにかく今はこれだけが頼りだ。なんとかして見つけ出して……


 「…………見つけた」


 真っ赤な表紙に金色の装飾を施した本が棚の中に無防備に置かれていた。炎帝の記憶の物とは少し違うが、間違いない。俺は実物を見たことないのになぜか不思議な確信があった。水を手のように伸ばし本を掴み、自分の近くに引き寄せ、動かない手の代わりに水でページを捲る。


 「おい小僧、今のお前の目じゃまともに見れないんじゃないか?」

 「そうなったら死ぬだけだ。なんとか理解できることを祈っとけ」


 さーて、こんな分厚い本を理解するのにどれだけ時間がかかるか。スカラさん達が来るうちにとなると、2分もないな。うーん全部見るのは無理じゃねこれ。要点だけ絞るか。俺はめくったページを一瞥すると次のページに進んだ。

 魔法を利用するにあたって覚えなきゃいけないのは、[詠唱]か[掌印]、もしくは[魔法陣]だ。この3つ手段のうちのどれか1つを行い、この自然界にあるなんかよく分からない力を[なんとか]すれば魔法は使える。[なんとか]する方法もまとめて知りたかったがこの際仕方ない。手段を一つ覚えて出たとこ勝負するしかないだろう。風の魔法は見よう見まねで何とかなったんだ、火の魔法ならなんとでも…………

 俺はなんとか詠唱呪文を見つけ出しそれを頭の中で反芻させた。さぁあとは…………なるようになってくれ。


 「[かけそき火よ闇と恐れを払いよ]………」


 詠唱した瞬間、目の前が炎で覆われ、それをかき消すような濁流が発生した。致命傷を負っている俺がもがけるはずもなく、あっという間に呑み込まれる。目や口、鼻から水が流れ込み息苦しい。なんだ、何が起きてるんだ。

 「おい息吹、お前またあっち行ってたのか。暇かよ」「あっちは平和で楽しいんだよ」「イリナさん、また武器庫から剣をくすねてましたね」「な、なんのことだがよくわからないね」

 炎帝とカイの記憶が頭に流れ込んでくる。ヤバいっ…………カイ1人分ですら脳がショートしかかるのに、2人分が一気に流れてきたらっ!圧倒的な情報量に俺の脳が押し潰されたのか、目の裏に火花のような光が弾けたかと思うと視界が真っ暗になった。


 身体があるのかもわからない。意識があるのかもわからない。薄ぼんやりとした暗闇の中に映像が流れてくる。夢と同じ感覚…………流れる映像がなんなのかも理解できないまま、何かはどこかへと消えていく。ただ漠然と分かるのは、それは()()()()()()()()ということ。はぁ……悲しいなぁ、深層心理に俺はいないのかよ。どんだけ自分が嫌いなんだよ。これじゃあ死ぬ時に見る走馬灯では、俺以外の奴らのことばかり見そうだ。…………もしかしてこれが走馬灯だったりして。


 「ちげーよバカ。魔力に飲まれたんだよ」


 いつの間にか地面に寝っ転がっていた俺の目の前に、ウンチ座りしている俺そっくりの男がいた。


 「…………あれ、炎帝さんですか?」

 「よく分かったな。喋ったことねーのに」

 「雰囲気が俺と違って自信満々だったんで」

 「お前は俺と違ってネガティヴだよな。()()()わ本当」


 水が滴り落ちてきた。見上げると、俺と炎帝をとりまく空間が水で覆われていた。


 「お前はかなりの間、魔力に飲まれていた。でも今から俺が助けてやるから、さっさとスカラ達と話つけてこい。もう二度と魔物化すんじゃねーぞ」

 「あ、魔物化したんですか。あーー…………なんか理解してきた。そういうことね。てかこんなふうに会話できるのなら今後も俺を助けてくださいよ。魔力とか魔法の扱いがベタ踏みで危なっかしいんですよ俺」

 「そりゃ無理だ。今回は色々とあって出てこれたが、俺はあいつを抑えるのに忙しいんだよ」

 「あいつ?」

 「そりゃ[飯田狩虎][炎帝]と来たらもう1人いるだろ?お前の中に」

 「…………うわオカルトじみてきた」

 「本当キショいよな。まっ、俺が何とかしてやるから、お前は現実をどうにかして来い。…………」


 俺そっくりな顔の炎帝はニヤリと笑った。…………ああ、なんでかよく分かる。これは嫌なことを思いついた時の笑顔だ。


 「お前にとびきりのプレゼントをくれてやる。それを上手く利用できるかどうかはお前次第だ」


 炎帝の体から爆炎が放たれ、空間の中に満たされていた水を消し飛ばした。それと同時に俺の視界は暗く閉ざされた。



 「ぼぉぉぉおおおおおおお!!!!」

 「来るぞお前ら逃げろ!!」


 炎を帯びた狩虎が炎で出来た3本の大剣を振り払った!すると剣線上に斬撃と共に炎が発生し、染島の真横を通り過ぎて遥か彼方の地平線上まで続く炎の壁となった。


 ドロッ


 俺は炎の中をかき分け抜け出した。周りを見るとどうやら俺は炎を纏った魔物の中から出て来たようだ。あっ、魔物化が解けたのか。そして目の前にいるのはグレンとスカラさん。魔物化している時の記憶はないが、この感じは結構ギリギリだったみたいだな。さてどうしたもんか。…………ん?

 なんかやけに明るいなと思って左側を見たら、炎の壁が地平線まで続いていた。終わりが見えないんですけど…………炎帝の置き土産ってのはこれか。これをどうやって活用…………ああなるほど。


 「あーースカラさん。今から貴女を脅迫するつもりなんですけど、ちょっと話を聞いてくれませんか?」

 「貴方、よくバカって言われない?」

 「何で知ってるんですかそんなこと。誰にも言わずに秘密にしてきたのに。まぁその話は置いといて、どうします?脅迫されてくれませんか?」

 「…………はぁ、良いわよ、聞いてあげる」


 俺は魔物化の残骸を消火するとそれに腰を下ろした。


 「今回俺が魔物化したじゃないですか。そして魔物化のコツを掴みました。これからは好きなタイミングで魔物化できます。そして魔物化した時に放った最後の斬撃、あれはきっと勇者領の中心地まで届いています。魔物化すればどこにいようと全員ぶっ殺せるだけの力を使えるようになっちゃうので、魔物化させたくなければ俺の要望に答えてください」

 「お断りするわ。したければ勝手に魔物化すれば良いじゃない。そして勝手に他の魔王に殺されることね。今のあなたに好きにされるぐらいならその結末を迎える方が幾分かマシよ」


 あちゃーーもしかして染島さんあたりが色々と教えちゃったのかな?何を言ったのか全ては分からないが、一応の推測は立てられるな。魔王が魔物化したら他の魔王に殺されるのか…………初めて知った。


 「貴方に協力したとしても暴走して勇者領が壊滅しかねないことは分かった。土台、不可能に近いことをやり遂げようとしている点も加味すると、協力する気になれないわね。さっさと殺してカースクルセイドに降伏した方が平和的に終戦できると思わない?」


 …………それはまぁ、俺もそう思う。やはりスカラさんの考えは変わらないかぁ。俺を殺して降伏した方が…………いや?ん?あれ?ちょっと待て?


 「…………染島さん。もし俺が死ぬことになったら、[炎帝を倒したのはグレン]という噂を勇者領全域に広めてください」

 「………………っつ」


 そうだ、スカラさんの言う[俺を殺して降伏する]という方針は今後もう使えない可能性が高いのだ。イリナが俺を倒したといっても、俺を生かしたということは[勇者領に戦力がない]と言っているのも同じ。この段階で俺を処刑すれば戦力不足は更に悪化し、勇者領の重役や平民達も降伏を容易に受け容れていただろう。

 だが今回、俺が魔物化し暴れたことで周辺のみならず遠方の平民にも被害が出たはず。そして最後の一撃が極め付け。あの方角には勇者領の中心地があり、あの炎帝の発言と実力だ。ほぼ間違いなく攻撃が中心地に到達しているのはほぼ間違いない。俺の脅威とその規格外さはより一層伝わったと考えられる。それをグレンが討伐したとなればどうなる?…………決まってる、平民達は勢いづいてしまう。最高戦力の3人のうち2人が魔王を倒し、更に王様もいるとなればもうイケイケムードになり、降伏なんて選択肢を取る気などなくなるはずだ。


 「俺が魔物化できてしまったばっかりに状況が変わり、俺を殺すことは最善手ではなくなりました。貴女が選ばなくてはいけないのは戦争を避けるかどうかではなく、[誰についてカースクルセイドと戦うか]なんですよ」


 スカラさんは無表情だが、目は燃えるような色味を帯びていた。ああ、凄まじい速度で色々な情報を処理し、さまざまな状況の想定をしているのが分かる。俺なら間違いなく紙に書きながらやらなきゃこんがらがるのに、それを脳内だけでやってるってんだからマジで規格外の天才だな。俺じゃあこの人に知能では勝てないな。今回、俺が先回りできたのだって炎帝からヒントを貰ってたからだ。こういう暴力を利用した交渉は炎帝の得意分野なのだろう。はぁ、変われるのなら彼と変わりたいわ。俺こういうのそんな得意じゃないのよ。


 「そうね貴方の言う通りだわ。カースクルセイドを倒す為に私達は協力しなくてはいけない。…………ただ、勇者領の構造を変えるという貴方の目論見には賛同できないわ。成功する気がしない」


 こうなると俺の魔物化による脅迫はもう通用しないな。魔物化して暴れたら勇者領の戦力は大幅に削られ、カースクルセイドと戦うどころではなくなる。こうなれば降伏は簡単に受け容れられてしまう。きっとスカラさんもこの結論に達してるはずだ。スカラさんが求めているのはもっと別の回答…………


 「今回の件でまた貴方に対する世間の評価は下がり、貴方が何かを成そうとしても必ず猛反発を受けるわ。勇者に利益を生み出さずに被害だけを与えている貴方が、勇者領の為に何かできるなんて本当に思えるものかしらね?」「それを」


 俺は自身が腰下ろしている魔物の残骸を指差した。


 「今、見せた」


 俺はそれはもう大層な、人生でしたことないってぐらいのキメ顔をした。今の俺じゃあ、スカラさんを論理的に認めさせることはできない。スカラさんクラスになると、どんなに良い提案をしても、そのネガティブな面を指摘することができてしまう。今のスカラさんは俺の言葉に耳を貸してくれない。だから俺は言葉以外で認めさせるしかないのだ。

 スカラさんは俺のキメ顔をマジマジと眺めた後、ふっと鼻で笑った。


 「…………あっはっはっ!失敗しただけなのによくもまぁそんなドヤ顔できるわね!」

 「俺には優秀な仲間がいますからね、俺のどんなミスも成功に導いてくれる。いままでも、これからも、俺はそれを信じるだけですよ」


 そうだ、今回だって染島さんや姫崎さんが頑張ってくれたおかげで大事には至らなかった。彼女達だけじゃない、グレンやスカラさんもまた協力してくれたのだろう。勇者と魔族が、俺を止める為に不格好ながらも手を取り合ってくれたなんて……いい意味で俺の期待を裏切ってくれた。

 そして前回もイリナが俺の予想を超えてくれたおかげで、俺がカースクルセイドと勇者を殺し切る前に止めてくれた。だから今こうやって俺は理想を追えるチャンスを貰っているんだ。


 「いずれ勇者は魔王(オレ)を倒すんですから」

 「貴方やっぱりバカでしょ」

 「何度も言ってるでしょ。俺はバカですよ」

 「…………まったく、理想と心中するバカを助けるつもりなんてないんだけどねぇ」


 スカラさんの表情がやわらいだ。おっ?まさかいける?ワンチャンある?


 「狩虎ちゃん、ちょっと魔剣を出しなさい」


 おいおい、とうとう狩虎ちゃん呼びだぜ。これはもう成功したも同然じゃないか。

 俺は魔剣を右手で持ってスカラさんに見せた。そしてスカラさんは俺の右手ごと剣の柄を持つと、手首をひねり俺の左胸に突き刺した。


 「…………はい?」

 「言っとくけど私はまだ貴方を信用してないわ。第二類勇者クラスの力も完璧に引き出せてないし、魔王の力も使えない。何かあったら魔物化までしかねない。そんな力のない危険な貴方を100%信じ、勇者領の未来を賭けるなんて不可能だと思わない?」


 俺の胸に魔剣が刺さってるはずなのに痛みがない。血も出てないし、なんだ?身体にダメージを与える類のものではないのか?


 「貴方に協力してカースクルセイドは追い払ってあげるけど、勇者領の構造改革に関してはまだ私は納得がいかない。ただ貴方の頑張りは評価してあげるつもりよ。だからこうしましょう、これから()()()()()()()()()


 そう言うと俺の胸に刺さった魔剣が変形し、栓を抜いた風呂の水みたいに、俺の胸の中に吸い込まれていった。


 「イリナちゃんの光剣を参考に貴方の[勇者の魔力]を封印した。勇者と魔族、2つの力を失った貴方は今無力な存在となり、勇者領を変えるだけの力を失ったわ」

 「まさか俺のこと奴隷にでもするつもりですか?」

 「奴隷はグレンちゃんだけで十分だわ、貴方はいらない」


 俺はグレンさんを見ようとした時、黒色の槍が魔物の残骸に突き刺さった。投げてきやがったあの人…………変なことしたら殺されるな俺。


 「私は何かを変えるのは力のある人間じゃなきゃいけないと思うの。しかもそれは正しい力でなければならない。ちゃんと自身でコントロールし、イタズラに人を傷つけないような……私の言いたいことはわかるでしょ?」


 今回の魔物化騒動を見たらなおのことそう思ってしまう。カースクルセイドにはグレンクラスの人間が5人おり、今の不完全な状態で戦っても力が足りずに暴走する危険性がある。その危険性を持ったまま戦い続ければ、いずれ取り返しのつかない事態になることは……想像に難くない。


 「だから私が貴方に魔法を教えてあげるわ。魔法をコントロールしたら魔力だって完璧に扱えるようになる。ただし、魔法は貴方に更なる力を与えてしまい、私達が貴方を止めるのはもっと難しくなってしまう。だから保険として力を封印させてもらう…………わかったわね?」

 「もし俺が不審な行動をしたらすぐに殺せるようにですか。わかりました」

 「そうね。で、魔法を習得し切る前に私を信用させてみなさい。それができれば貴方の計画に協力してあげるわ。ただチンタラやってたら間に合わないわよ。才能がなければアースクルセイドとの戦争中に習得することなど不可能なのだからね」


 改めて俺の素質を見定めつつ首輪をつけてきたのか……キッツイことするなぁこの人。それとアースクルセイドって、地球防衛軍かなにか?カースクルセイドね、カース。厨二病の方。


 「さぁこれで契約成立ね。さっそく試験を科すわよ狩虎ちゃん」


 ふぅ…………死にかけたけどなんとかスカラさんに協力を取り継ぐことができた。こっから大変だけれど、まぁ、今回ほどキツイことなどそうそうないだろう。なんとかなるなる、うん。


 「さて問題です。勇者領では魔法の利用を禁止されていました。そして狩虎ちゃんの言い方からして、魔族領でも魔法は禁止だったみたいね。それでは一体なぜ、魔法は禁止されていたのでしょうか?」

 「それは…………まぁ、今回のことで身に染みましたよ。魔物化する危険性があるからでしょう?」

 「3割正解。ただ魔物化だけならそこまで問題じゃなかったのよねー。だって使えない戦力を魔物化して敵にぶつければ、大きな戦力に早変わりするでしょう?倫理的側面ではなく、今度は戦力的な側面で問題点を考えてみましょう」


 なるほど?確かにその通りだ。倫理観を無視すれば魔物化は重大な戦力源だ。戦い続けている両種族がそれだけで魔法を禁止するわけがないか。


 「…………階級制が揺らぐ可能性があるとか?」

 「4割正解。階級が高い奴らは、下の者が魔物化を使いこなして下剋上してくることを恐れたの。階級制を保持することに固執する為、魔法は禁止された」


 まぁよくある話だよな。出る杭は打たれるっていうかなんていうか……身分を確固たるものにするには階級制の維持は必須だもんな。


 「そして残りの3割。これはちょっと世界の根幹的な話になるんだけれど……」


 スカラさんが腕を振ると空間が叩き割れた。そのひび割れた空間に手を突っ込み、鏡を取り出す。鏡にはそんなに詳しくないからよく分からないが、庶民が使うようなものではないというのはなんとなく分かった。神社に飾ってある銅鏡みたいな、不思議な神秘さが溢れ出てる。


 「狩虎ちゃん達が生まれた現実世界と、私達が生きる表面世界。この2つの世界は魔力や元素、他にもたくさんの要素が拮抗するように存在しているの。そのおかげでバランスよく保たれてるんだけど、魔物化しちゃうとそのバランスが崩れるらしいのよ。片方の世界がもう片方の世界と重なってしまう……らしい」

 「…………それ、理由の3割なはずなくないですか?1番重要ですよ。9割近くそれが原因でしょ」

 「いや、基本的には問題ないの。世界が重なるのも一瞬らしいし、影響もそこまでない。ただ魔物化する人間の階級が上がれば上がるほど、その影響は強まるみたいで…………多分、魔王の魔物化なんて前例がないことなのよね」


 スカラさんはその荘厳な鏡を見た後に顔を歪め、やっぱりと呟いた。あーうん、俺も良くないことだってのはよく分かった。


 「魔王の魔物化…………やはり世界に凄まじい打撃を与えたみたいね。この鏡を見たらよく分かるわ」


 俺は鏡を見せてもらった。鏡面には俺の顔ではなく街並みが映っていた。俺がよく知っている地元の風景。山間に点々とある高級住宅は相変わらず存在感を放っている。いやまぁそこはどうでもいい。そんなもの幾らでも、飽きるほど見てきた。問題はもっと別。俺が子供の頃によく遊んだ丘の上の公園。そこに20体を超える魔物と、なぜかイリナと宏美がいた。

 頭に凄い勢いで血が雪崩れ込んでくる感覚があった。脈拍が跳ね上がり体温が上がっていく。イリナや宏美は確かに人間離れした身体能力を持っているが、だからって魔物相手に無傷で勝てる保証はない。


 「低級の魔物が現実世界に入り込むほどに境界線が揺らいでしまったみたいね。さぁそれではここからが最初の試験よ。どうにかして彼女達を助け出しなさい」


 ここから現実世界に戻る為の場所は遠く、今は1分1秒でも惜しい状況だ。どうする?どうする?

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