水主火従
「あっ!?何してんだテメェ!?」
「こっちのセリフなんですけどボケナス!」
自律型の鎧の大群を操り狩虎を左から攻撃しようとしたグレンと、大量の魔物を生み出し狩虎の右側から攻撃しようとした姫崎の行動がピタリとあい、二方向から攻撃する形となった。そのため片方から攻撃を集中させ隙を生み出す予定だった2人の目論みは見事に潰え、タイミングを合わせて挟撃することを余儀なくされた。
ワッ!!!
しかしそれすらも、3つある顔に着いている十数個の口から発せられた咆哮によって阻まれる!魔力によって強化された多重音が凄まじい衝撃を生み出し、鎧はバラバラに砕け散り、魔物達は身体が千切れ血を噴き出しながら吹き飛ばされた!
「魔力による全体攻撃をさせないためにわざわざ一方向から集中攻撃しようとしたのに、お前のせいで台無しだわアホか!」
「私もですぅ!テメェがいなけりゃ飯田さんを手に入れられたのにどう落とし前つけるつもりだ!?」
「いや、どちらにしろ2人の目論みは潰えてたと思うから喧嘩は無意味じゃない?」
姫崎とグレンの喧嘩を腕を組んで眺めていたスカラもさすがに見かねたようで仲裁に入るが、2人の言い合いは止まらない。
「そもそも飯田狩虎なんていうゴミクズ好きな人間が口ごたえしてきてんじゃねぇよ!同類だ同類!テメェもゴミクズだ!」
「はぁ!?第二類勇者だかなんだか知らねーですけど、そんなゴミクズにすら勝てないようなボケナスが口開かないでくれますぅ!?」
「いい加減にしなさいよあんたら……」
グレンに襲い掛かろうとしていた狩虎がまた何もない場所で吹き飛びひっくり返った。全長20メートルの巨体が高速で地面に叩きつけられた衝撃は凄まじく、グレン達を地面ごと揺らした。
「私が迎撃してるからいいものの、敵の前で呑気に喧嘩してないで集中しなさいよ」
「だってこいつ露骨に敵意見せてきてんだぞ?嫌でも気が立つだろそりゃ」
「飯田さんを殺そうとしてるやつに気ぃ許せってんかぁ?今ここでぶちのめしてもええんやぞん?」
「敬語と罵倒がこんがらかって気持ち悪い言葉になってるわね。………はぁ、もっと飲み込みが早いと思ったんだけどね」
右手をついて立ちあがろうとする狩虎が再度倒れ、まるで見えない力に抑えつけられているかのように、背中を地面にピッタリくっつけたままももがいている。
「私達と貴方達は敵同士だけど同時に味方同士でもあるの。今の飯田狩虎は私達が協力しなければ殺すことも救うこともできないような、それだけ危険な状態なのよ」
「私1人でどうにか出来ますけどぉ?なんなら今ここであんたら殺しちゃうかぁ?」
「確かにあなたは強いわ」
ズンッ!!
姫崎とグレンに上から押さえつけるような凄まじいプレッシャーがかかる!
「でも私達2人がかりなら、どんなに少なく見積もっても90%程度の勝算がある。もちろん私たちも無事では済まないでしょうけど、あなたを倒すだけなら特に問題なく遂行できるのよ」
姫崎は何もない空間から直径2mほどの巨大な魔物の腕を生み出しスカラを殴ろうとするも、プレッシャーはさらに加速!魔物の腕は地面にめり込み、姫崎とグレンの姿勢が更に低くなる!
「それでも私達はあなたを先に倒すなんて選択肢は取らない。どんなに使い辛い性格をしていようと、いつ裏切るか分からなくても、飯田狩虎を止める可能性を僅かにでも上げるためならば、それでもあなたに協力を頼むの。彼が完全な状態になる前に倒せなければ、彼の破壊によって勇者・魔族関係なく生物がこの大地からいなくなってしまうでしょうからね。それだけはなんとしてでも阻止したいのよ。それとも姫崎ちゃんは完全体になった彼を止められるだけの力があるのかしら?」
「天才のあんたが分からないんですかぁ?んなわけないでしょ」
「…………はいはい、おれてあげるわよ。姫崎ちゃんが好きなようにやっていいから、私達がそれをサポートしてあげる。これでいいんでしょ?」
「よくわかってんじゃん!おいそこの男!グレン!私の魔物達に鎧を着せてあげてね!よろしくー!」
「………………」
「やってあげなさい」
「わーってるよ……俺も一応は大人だ。優先順位は心得てるつもりだ」
「飯田さーん!今から私が助けてあげますよー!」
何もない場所に青黒い空間が8個生まれた。その色は薄暗い鍾乳洞を思わせ、誰もが息を飲むような神秘的な光を放っていた。しかし、その空間から赤黒い魔物が無数に這い出てきて雪崩のような速度で蠢き走る!焼け爛れケロイドのようになった皮膚から血を滲み出しながら、8箇所から無限に湧き出る様に恐怖しない人間はいないだろう。しかもその魔物達にはどこからともなく現れた鎧が着せられ、前方を走る魔物の血を浴びて赤黒く染めながら一点に向かって走り続ける!
ワッ!!!!
狩虎が放つ破滅的な咆哮が大地をヒビ割るが、鎧を着た魔物達はそれをものともせずに突き進み咆哮を突破する!そして狩虎の左足にぶち当たり、無数の鎧プラス魔物の質量が左足を吹き飛ばし狩虎のバランスが崩れる!
「ついてこれるかグレェエンン!!」
倒れるか倒れないかの瀬戸際にいる狩虎の顔面に魔物達がぶつかる!それらは空を飛び為の翼を携え、鎧を纏うことによって相当な質量を保持したまま衝突していく!地上同様、蜂の巣を突いた時のように無限に生まれ続ける魔物の圧倒的な質量によってとうとう狩虎が倒れた!
そして倒れた狩虎の上空に30m級の魔物が出現し、それは形を変えて円錐台となり、面積が小さい方を地面に向け振り下ろされた!空気という空気を押し潰し、鈍い音と高い音を響かせながら狩虎の胴体にクリーンヒット!地面がクレーターとなり、狩虎の体から血が噴き出る!
「力という力を削ぎ落とし!今私が貴方を自分のものにしますからね!にょほほほほほ!!」
狩虎が咆哮をあげるとゼロ距離でくらった30m級の魔物がバラバラに吹き飛ばされ、周りにいた小型の魔物達も消し飛んだ。しかし姫崎とグレンは気にすることなく狩虎との距離を詰めていく。
今現在、魔族と勇者の共闘という形をとってはいるが、両者の目的は殺害と救済という全く正反対のものである。協力して狩虎を弱らせるまではいいが、最後の最後、相手を出し抜かなければ目的は達成できない。
今の攻防で狩虎を倒す算段は両者共に整った。後は相手を出し抜きながら遂行するだけ。その時だった。
姫崎は8ヶ所から魔物を大量に生み出し狩虎の全範囲攻撃を誘発しようとしていた。全範囲攻撃は距離により威力が減衰し、さらに次までに2〜3秒のインターバルが必要なことは把握済み。一回誘発すれば後はグレンとの戦いだけ………
狩虎の正面にいた魔物達が一斉に消えた。赤と白と黒色の煙を残し、身体が綺麗さっぱり消失したのだ。グレンと姫崎に見えていたのは狩虎が腕を振った姿だけ…………ここから姫崎のギアが2段階あがった。
生み出される魔物達は人型から獣へと姿を変えていく。より速く走るために強化された脚に、より強くぶつかる為に硬質化する頭部。より速く飛ぶために発達する胸部と翼。魔物達の集団攻撃は高速化し狩虎を翻弄していく!
跡形もなく消し飛ばす攻撃が炎帝の得意技だと知っていた姫崎は、今の狩虎の攻撃がそれに近いものだと直感で感じ取っていた。攻撃の直線軌道上にいたら1発アウトだが、予備動作があるだけ幾分かマシ。炎帝の場合は全てノーモーションなためかわしようがないからだ。狩虎が腕を振るたびに攻撃の直線軌道上の全てが消失していくが、いたって冷静に距離を詰めていく。
それをサポートしながらグレンは姫崎と狩虎の観察を続ける。勇者である以上グレンが最も得意とするのは接近戦であり、狩虎に致命傷を与えるにはゼロ距離まで近づかなければならない。腕による消失攻撃は別段問題ないが、それを掻い潜りながらゼロ距離咆哮攻撃をやり過ごすのが1番の難関だ。遠距離攻撃を主体とする姫崎はその逆だと思っていたのだが、どうにも姫崎は狩虎に近づこうとしている。攻撃的な相性とは関係なく、近づくことが何かしらのトリガーだとしたら………
(グレンちゃん。次の姫崎ちゃんの攻撃に合わせて終わらせるわよ)
(あいよ)
スカラから飛んできたテレパシーを合図に、グレンは立ち止まった。そして火がついたタバコを消すように地面を踏み躙り……姿勢を低くする。
そして示し合わせたかのように両者は同時に飛び出した。
右腕しかない狩虎の左側から魔物の大群が押し寄せ、それを迎撃する為に狩虎は右腕を大きく振り回す!その攻撃直線上の魔物全てが消滅するが、姫崎はそれをかわし一気に近づいていく!
対してグレンは狩虎の右側から大きく旋回し狩虎の左側。姫崎の真反対へと移動。狩虎を中心にした姫崎との点対象の位置に移動することで、姫崎からの妨害のリスクを減らす目的だ。急ブレーキしつつ狩虎の方へと方向転換するために右手を地面につけたとき、黒色の竜巻を生み出し狩虎を覆い尽くす!さらに竜巻の中で氷と雷が発生!氷が肉を切り裂き、更に互いにぶつかり合うことで静電気が生まれ雷の威力が底上げされ、肉が焼け焦げる臭いが強風にのって周りを満たしていく!
そして左手すらも地面につけ極限まで姿勢を低くし……下半身に溜め込まれた力を爆発させるように飛び出した。たとえこの竜巻によって大したダメージを与えられなかったとしても、メインの目的はブラインドだ。狩虎の十数個の目玉を遮断することで咆哮攻撃のタイミングをずらし、ゼロ距離でさえ食らわなければそれでいいのだろう。姿勢を上げ、風を束ねて生み出した槍の先を狩虎に向けて加速っ!
「!!」
魔物が突如としてグレンの目の前に飛び込んできた!だがグレンは止まることなく魔物を串刺しにして更に加速する!姫崎の妨害なのだろうが、第二類勇者の最高速度で敵を貫けば、指し口から身体がバラバラになるのを腐るほど見てきた。この程度の妨害では止まる必要も……いやっ!
貫かれた魔物の腕が動くのと、グレンが急ブレーキをかけて槍によって魔物を八つ裂きにしたのはほぼ同時だった。
長年の勘か、圧倒的なセンスによるものかは分からないが、あのまま魔物を放置すれば危険であるとグレンは判断したのだろう。実際、魔物をすぐに倒していなければ、動き出した魔物によって何かしらのダメージを受けていた可能性は高い。
一方、姫崎は魔物を生み出し自身を担がせると今まで以上の速さで駆け抜けていく!だがその担ぎ方はおんぶではなく、ラグビーボールを持つラガーマンのように腕と脇に挟めてだった。その理由は………
ズンッ!!
突如として襲い掛かる上からのプレッシャー!魔物の動きが鈍くなる!だが魔物は重力や姫崎のことなどお構いなしに駆け抜ける!
本来ならば重力とは引っ張る力である。地球が物体を引っ張ろうとするため、地面に近い方が影響力は大きい。セオリー通りに考えるのならば魔物におんぶしてもらった方がダメージは少ないだろう。だが事前に食らっていた姫崎は、重力ではなく[加圧]に近いと感じ取っていたようだ。定石通りでは戦闘不能に陥りかねないと考え、魔物に抱え込ませることで上からのプレッシャーを防ぐことにした。さらに魔物化した狩虎の動きすら抑えるプレッシャーをものともしない外殻と脚力によって、他の妨害行動全てをシャットダウンするのも狙いだろう。
だが姫崎はグレンを過小評価などしない。勇者の圧倒的長所である身体能力、その中でも特に危険視しなくてはいけない俊敏性。重力による妨害をほぼパーフェクトで乗り越え、更に魔物によるグレンへの妨害を成功させたとしても、グレンに先んずるのは無理だと想定していた。実際、加速し始めた2歩目に最高速度に到達したグレンは、大幅にリードしていたはずの姫崎を一瞬で抜き去りあと0.2秒もせずに狩虎と接触するだろう。接触した時に放つ狩虎の全体方向攻撃に合わせ、姫崎は切り札を使う準備を…………
それを何と形容するべきか。スライム?緑色で触れたら凄まじい粘性がありそうな、液体のようなものが2人の目の前に広がっていた。全ての妨害を突破し狩虎を貫き殺すため最高速度状態のグレンは当然、この水すらも貫こうとして一切減速することなく突撃した!だが水の中に入った途端に襲ってくる脱力感。水がまとわりついてくる感覚はないが、激務を終えてシャワーを浴びた後に布団に飛び込んだ時のような、脚が根を下ろすような感覚が全身を包み込んだ。それと共に大きく失速!止まるとまではいかないが、その脅威度は圧倒的に落ちていた。そしてグレンを包んでいた緑色の水が赤色に変わり、狩虎がその巨大な手を叩きつけた!凄まじく甲高い音が響き渡り、空気中に存在する物質の全てをプラズマ化させたのか、七色の光を発しながら赤色の水は一瞬で消失していた。
3つの顔にある数十個の目鼻口から水が流れ出した。夥しい量の水が地面にぶつかり、起伏に沿って流れを生み出していく。そして唐突に水が空中へと浮かび上がり、さまざまな色に変わりながら流線と直線を組み合わせた軌跡を描いた。
「……うっそぉー……………」
幻想的でかつ神秘的な光景を見て姫崎は思わず声を漏らした。大きく伸び上がる水花のように赤、青、緑、黄……7色の流水。現実世界で飯田さんとこれを見れたらどれだけ素敵だろう。100%おとせるやん完璧じゃん。……そんな感嘆の声に水流が反応し姫崎に向かって高速で飛来する!姫崎は魔物を数十匹生み出し肉壁を作りながら、最高速度で走れる魔物に自身を担がせて攻撃を避ける!だが水は大口径の機関銃のように魔物達をバラバラに吹き飛ばし、全く減速することなく姫崎に襲い掛かる!
魔物を生み出しながら複雑な経路で逃げる姫崎を追尾し、水は曲がり、くねり、バラける。毛細管現象のよに細密に追い詰めていく。拡散しすぎた水流が地面に激突するが、地面すらも易々と貫通し地中を掘り進み、再度地上に出てきて姫崎を追尾する!
ドォォオオンンン!!!
30m級の魔物が3体、水流に落下した!肉体の硬質化と大質量による水流の勢いを殺す目的だが、減速することなく肉を掘り進んでいく感覚を姫崎は感じていた。だから予定通り、姫崎は握り潰すことにした。
姫崎が今回生み出した魔物は筋組織のみで構成されていた。血管、骨、脂肪、血液、水分etcetc………生体を構成する他全てを排除したそれは、姫崎が右手を握り締めるのに合わせて一気に収縮する!どんなに水が貫通しようともその柔軟性が水にまとわりつき密閉!30m級3体分の膨大な質量と体積がみるみるうちに縮まり、より内部の肉を潰しながら水を閉じ込めた!
「ふふっ、まっ、私ほどになればこれぐらい……」
大津波が姫崎を覆った。高さは40m、その飛沫全てが空中でほどけ幾千万の七色の水の弾丸となり姫崎に降り注ぐ!
「流石です飯田さーーん!!」
無差別的な超範囲攻撃に防戦一方になる姫崎。それを見ていたスカラは顔を歪ませた。
(あなたが危惧するのも頷ける力ですよねー)
そんなスカラにテレパシーが飛んできて、背後から染島が肩を並べた。
(しかもこれは不完全体。もっと先があるっていうんだから危険極まりないですよね)
(あなた、飯田狩虎の味方なんじゃないの?なんでネガキャンしてるのよ)
(飯田君の味方ということは、頑張って彼の評価を下げなきゃいけないんですよねー。だってほら、最終的には彼、イリナさんに気持ちよく殺されたいわけですし)
(……このままだったらイリナちゃん以外に殺されるわよ)
(そうなんですよねー。このまま暴れたら他の魔王に殺されてしまう。かなり危険な橋を渡ってるんですよ)
(嘗め腐ってるわね、あなた)
(今のあなた達じゃあ飯田君は倒せない)
染島は右掌をスカラに見せた。
(あなた達に残された時間です。あなたが見定めたつもりの、理性にがんじがらめにされた彼の資質と、本能のままに突き進む彼の資質を同列に扱わない方がいいですよ)
5本の指……5分。それを見てスカラは否定する気が起きなかった。当然だ、それを裏付けるだけの事実が今目の前で起きているのだから。
(私がみなさんの連絡役をしてあげます。私達を欺くために使っているテレパシーの魔法をやめて下さい)
(やっぱり盗聴してたのね。やけにグレンちゃんの攻撃にピッタリ合わせてるなと思ったのよ)
(私も魔族ですからねー。最高幹部クラスのテレパシーとなればそれぐらいできますよ。……テレパシーに割いていた分を他の火力系の魔法に回せば、もしかしたらワンチャン、彼を倒せるかもしれない。今からでも遅くないので全力で殺すことをオススメしますよ)
(だからあなた、彼の味方なんじゃないの?)
(魔物になったのは彼の落ち度です。自分のミスは自分で雪ぐべきですし、ここで死ぬのならその程度の人間だったってだけです。姫崎さんがどうかは分かりませんが、私は飯田君が死んでも仕方のない状況だと思っています。全力で守ってあげるのは過保護もいいとこです)
(こっち側の人間なのね、あなた。見直したわ……全員にテレパシーを繋げてちょうだい)
流水に追いかけ回されていた姫崎は、ダメもとで魔物による肉の壁を作り出す!だがそれを簡単にうち砕こうと押し寄せる大津波!
バチィインンン!!!
魔物の身体が弾け飛び血を撒き散らすのと、衝突した水が弾け飛んだのは同時だった!
(私の魔法で姫崎ちゃんの魔物を強化するわ。効果は見ての通り水と相打ちにまでは持っていけるようになる。ここからは全面的に姫崎ちゃんをバックアップしていくわよ。そうなると当然、飯田狩虎も殺さないであげるわ)
(…………私の好きなようにやっていいってことでしょ?のった!)
(契約成立ね。で、グレンちゃんはいつまで寝てるつもりかしら?さっさと起きなさい)
(うっせーな……脳震盪が酷くて回復してたんだよ。話は全部聞いてたからちゃんと合わせてやるよ)
(それなら結構、じゃあ2分で倒すわよ)
姫崎の魔力によって再度、魔物が展開する。小型の魔物がグレンの能力によって鎧を着込み、スカラの魔力を帯び、数百数千の大群となって狩虎へと襲いかかる!これならば水がどれだけあろうと魔物を倒し切ることはできない。今度こそ狩虎を追い詰めることができるだろう。
「…………」
だがスカラは楽観的に考えていなかった。いやスカラだけではなく、狩虎と対峙している全ての人間は警戒を解いていなかった。時間が経つにつれて狩虎は力を増していく。それこそまるで、山から湧き出る水のように成長が止めどない。「これで終わるはずがない」と…………理性によって抑圧されていた狩虎本来の知性と想像力を、彼らは否が応にも理解していた。
狩虎の周りをゆったりと流れていた七色の水が急速に動き始め、一枚の白色の壁になった。それを狩虎は右手でゆっくりと2回、コンコンと叩くと目一杯に腕を引き絞り……勢い良く叩きつけた!
壁と拳の衝突によって生まれた衝撃は世界を駆け巡り、そのあまりのエネルギーに世界が揺れたような錯覚を3人は覚えた。それと同時に狩虎の近くにいた魔物が破裂していく!身体がバラバラに張り裂け、内側からは内臓と血液が飛び散る!そしてその破壊の波は包囲している魔物達にあっという間に伝わり、魔物の全てがバラバラに弾け散る!そして最後、遥か後方ににいたグレンがぶっ飛ばされ、姫崎を守っていた魔物の装甲が爆裂し崩れ落ちた!
染島が提示したタイムリミットは残り4分。スカラがそこから弾き出した時間は残り2分。だが本当にそれだけの時間が残っているのだろうか?…………狩虎の進化は止まらない。




