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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
鏡にキスを編
77/92

下劣 愉悦 破裂

 敵は10人に対し俺達は4人。この数的不利を覆すのは普通なら難しいが、ここは表面世界。現実とは違いその不利すらも魔力によって覆しうるのだ。絶望するにはまだ早く、さらにいえば俺は魔王。何百人が相手だろうと一瞬で戦いを終わらせることができる破壊の化神だ。

 大事なのは傲慢であること。厚顔であるほど不遜であり、うちから湧き出る自信をたぎらせ、近づこうとする全てを倒すと思わせるだけの余裕を持って笑顔を作り出す。


 俺は右手の平をゆっくりと敵に向けた。


 「じゃあな」


 俺がその言葉と同時に殺気をこめた瞬間、敵が全員身構えて減速!その隙をついて俺は、全力で逃げ出した!あっはっはっ!俺が逃げるんだよーん!


 「姫崎さんこいつら倒しちゃってください!俺は逃げちゃうんで!お願いします!」

 「なっ………飯田狩虎ぉお!!」


 ドォォオオンンン!!!!


 先頭の勇者が姫崎さんを追い抜こうとした時、赤黒い巨大な腕が遮った!!さらにもう1本、腕がなにもない空間から現れ掴もうとするが勇者はかわす!


 「魔物とガキンチョ、私の邪魔したら殺すから」

 「ふん!腕を作り出すぐらいで調子に………」


 ズドォォオオンンン!!!


 何もない空間から巨大な魔物が落ちてきた。赤黒い皮膚を持ち、仰々しくていかつい。物語に出てくるオークやゴブリンと呼ばれる奇形に似たそれは、暴熱を体から吐き出し、水蒸気が立ち昇る。そして勇者に目掛けてその規格外の拳を………振り下ろした。魔物の一撃で半径30mの地面が崩落した!一撃でももらえば致命傷になりうる圧倒的な暴力!


 「いいか!あの魔物の攻撃を絶対に喰らっ」


 なんとかかわした勇者が背筋を凍らす間も無く、またも何もない空間から巨大な腕が生まれ1人の勇者の脚を掴んだ。そして地面に高速で叩きつけた。地面を崩落させるほどの力で叩きつけられた勇者は、咄嗟に両手を頭の後ろに回して防御体制をとったことで目立った外傷はない。だが、その衝撃により脳が揺れ、背中へのダメージがよくなかった。魔物が両手を合わせて高く持ち上げている間も、勇者は動くことが出来ずに冷や汗を垂らす。今彼が出来ることは、今から振り下ろされる鉄槌に耐えることだけ。両腕を身体の前でクロスさせて防御体制をとるが…………


 ッッッドォォオオオンンン!!!


 ベジータがよくやるあれ、ダブルスレッジハンマーがモロに炸裂した。衝撃が近くの家屋を倒壊させ風が吹き荒ぶ!魔物が腕を上げると、そこには血まみれで潰れた勇者が横たわっていた。なんとか呼吸はしているが…………これを無事とは言えないな。


 「お前ら勇者もだ。邪魔するやつはみ・な・ご・ろ・し。わかったかぁん?」


 1体、10体………100体を超えてもなお増殖する魔物が勇者達を取り巻いていく。小さいものは1mから、大きいものは30mと大小様々な個体。そして姫崎が立てた親指で首を切る真似をすると、待機していた魔物達が一斉に襲いかかる!その一撃ごとに地面が吹き飛び瓦礫が宙を舞い、地面に生まれた亀裂が延長し建物を飲み込み破壊していく!だが勇者達はそれをかわすと、魔物達の間をすり抜け姫崎に剣を振り下ろす!

 が、新たな魔物がさらに出現し、もといた魔物をぶん殴り吹き飛ばした!魔物同士がぶつかり合うことで隙間がなくなり、スペースがなくなった勇者達は攻撃を中断し回避を余儀なくされた。


 グジュグジュ………

 

 同族に吹き飛ばされて再起不能になった魔物の身体が破裂し、内から小さな魔物が大量に這い出てきた!それらは立ち上がり散らばった肉骸を踏み躙りながら闊歩する!街は今、魔物が齎す破壊と暴力によって支配され………いや、魔物ではない。それを率いる姫崎鈴音に支配されていた。


 「魔物を生み出し操る魔力………こんな魔族がいるのか!」

 「あっはっはっはっ!死に惑え雑魚どもが!」


 無限に増え続ける魔物の勢いが衰えることなどありえず、勇者達に休む間も与えずに魔物が襲いかかる!そんな苛烈な攻撃を眺める2人。


 「………邪魔するなって言われちゃいましたし、僕達は飯田さんの方に行きますか」


 ディーディアが苦笑いでウンモに話しかけた。


 「いや、我はここに残る」


 しかしウンモだけは決意に表情を固め、暴れ回る魔物と姫崎を見つめていた。


 「参考になるかはわからんが、魔物を扱うあやつといれば我のためになるかもしれん」

 「へーー真面目ですね」

 「当然よ。我はこの地上を征服し魔物の楽園にするつもりだからな」

 「えっ………そんな頭の悪いこと考えてたんですか?知らなかったなー」


 そんなこと言いながらも、本当はどうでもいいのだろう。ウンモやこの戦いを気にすることなくディーディアは狩虎の元へと向かった。


 「………さて、とは言ったものの」


 ウンモは戦いに視線を戻す。しかし目に入るのは破壊、破壊、破壊。一方的な蹂躙だ。そこに技術などなくあるのはただの暴力。学ぶものなどこれっぽっちもない。


 ドジュッッ!!!


 それは突然起きた。拳を振り下ろそうとした魔物の腕が吹き飛んだのだ!


 「おいおい………笑えない状況だな」


 30m級の魔物を袈裟に斬り、男が笑った。もみあげの毛量が多くてワックスでもつけているのだろうか、メチャクチャとんがっている。そのくせ髪の毛は薄いから…………アンバランスだ。否応なしにもみあげを見つめてしまう。


 「アサツグ隊長!」


 姫崎とずっと戦っていた勇者達がアサツグに駆け寄っていく。あれほど苦戦し士気が下がっていたというのに、彼が来ただけで落ちきった士気は回復していた。彼のその人望と実力がなせる技だろう。


 「あの女の子が魔物を操る敵だってことで間違いないんだろ?」

 「はい!推定階級は最高幹部です!」

 「最高幹部って………第二類勇者がいないと戦っちゃいけないような相手じゃねーか。聞いてねーよまったく………それにあれ、嫌いなんだよなぁ」


 話し込んでいる勇者達に魔物が3体襲いかかる!


 ボンッ!!


 しかし魔物の攻撃はあたることなく、逆に魔物が吹き飛ばされて宙を舞った!


 「女の子を傷つけるの。ポリシーに反するんだよなぁ」

 「はぁ?知らないけど。私は私以外、余裕で全員傷つけるけど」


 空中に吹き飛んだ魔物を他の魔物がキャッチし勇者達にぶん投げる!だが放り投げた魔物は勇者達に当たることなく、途中で失速して粉々に砕け散った!


 「………相当手こずるな、こりゃ」


 そう言うとアサツグはポケットから半円状の物体を出した。それは青白く光り輝きながら魔物達を照らして長い影を作り出す。


 「さぁお嬢ちゃん、テクノロジーって知ってる?」

 「なにいきなり当たり前のことを………」


 バラッ…………


 勇者達を囲んでいた魔物が一切に砕け散った!肉片は細切れになり、拳サイズとなって地面に落ちる。


 「そう!見ての通りお嬢ちゃんを倒すためのものだ」

 「だから?そんなんで私に勝てるわけないじゃん」


 勇者が展開するのと姫崎が魔物を展開するのは同時だった。




 〜20分前〜


 「飯田狩虎にああ言われたが、こんな街に貧困層がいるのか?」


 ユピテルは街の中を歩いていた。自力で歩けなかったり、身分によって表通りに行けない人に宣伝してこいと言われたから探しているわけだが…………いるとはとても思えない。ここは重役の右腕が仕切っており、そのポジションにつくには手腕を勇者領全てに認められるほど優秀じゃなければいけない。事実、毎年おこなわれる年間報告において異常は報告されていない。飯田狩虎の思い違いと一蹴するのが普通だが…………


 「………………」


 どうもひっかかる。たしかにすれ違う人々の服が見窄らしいのだ。それだけで決めるには焦燥すぎるのはわかってはいるのだが………気持ちが悪い。


 「…………老後施設にでも行ってみるか」


 情報収集の為にも、長く生きた人間から話を聞くのが手っ取り早いと思った私は老後施設へと向かった。


 私が老後施設に辿り着くと居住者達が集まってきた。みんながみんな「貴族様」と言いながら握手を求めてくる。昔からこれだ………高齢者の相手をすると必ず崇められる。彼らは長い人生の経験から貴族におべっかを使う方が役得だと学んでいるのだろう。私はその考え方は嫌いだが、そうしなきゃいけない現実だということも理解している。貴族は平民よりも上の立場にあり、やろうと思えば法律を思うように変えられるほどの権力を持っているからだ。逆らうだけ無駄。いいことなど何もない。


 「もしこれからお散歩にでも行くのなら、表通りに行ってみてほしい。無料でおにぎりと水を提供しているから、食べながらゆっくりと雑談するのも乙だろう」

 「流石は貴族様!下の者にも施しを齎すとは慈悲深い!」


 私は苦笑いした。これを主催しているやつは魔族で、しかも魔王なわけだが………知ったら驚くだろうな。


 「少し聞きたいことがあるんだがいいか?」

 「ははぁ!なんなりと!」

 「この街で今何が起きているんだ?なぜこうも住民の服がほつれているんだ?」


 私の言葉に場が静まり返った。全員が口をつぐみ、私に目線を合わせなくなる。


 「…………今の言葉は忘れてくれ」


 私は老後施設を出た。そしてその3秒後、走り出した。


 あの(さか)しい老人どもは、貴族に情報提供して恩を売るより黙秘することを選択した。彼らが歩んできた長い人生を鑑みるに…………かなりマズイな。最悪の場合この街の中枢に「私が探りをいれたこと」を報告されているかもしれない。追手が来る前に何か策を…………


 「お姉さん、意地悪されたの?」


 後ろから声が聞こえたから振り向くと、マンホールから7才ぐらいの女の子が顔を出していた。


 「い、意地悪?」

 「スーカ、よくあそこのおじちゃん達に意地悪されるから」


 スーカ………ああ、この女の子の名前か。しかし今言ったことは本当なのか?意地悪?いやそれよりも………


 「どうしてそんなところにいるんだ?危ないぞ」

 「スーカの家だもん」

 「いっ………」


 私は右手で口を覆った。嘘だろ………ストリートチルドレン?この街で?本当に何が起こっているんだ………


 「スーカは1人だけなのか?」

 「ううん。スーカの家にはたくさん。大人も子供もたくさん」

 「……………」


 目眩がして目の前が一瞬だけ真っ白になった。信じられないことだが、この街は[地下制]を取り入れていた。地下制とは400年前に廃止となった市民階級制度で、労働力や魔力の小ささ、資産力が低い人間を地下に追いやって閉じ込めるというものだ。あまりにも非人道的だということで廃止になったはずなのに…………だから服がほつれていたのか。


 「スーカ、今すぐにみんなを地上に連れてきてくれないか?」

 「え、なんで?」

 「みんなにご飯をご馳走してあげよう。お腹減ってるだろ?」

 「わーー!うん!」


 そう言うとスーカはマンホールの中に消えて行った。


 あまりにも非人道的な地下制だが、実はこれには一つ、大きなメリットがある。それは[地下にいる人間から魔力を集められる]ことだ。この勇者領の大地は特別な魔力が結合することで形作られており、微弱ながら周りの魔力を吸い取っているそうだ。地上にいるだけなら大した影響はないが、岩盤に囲まれた地下となると看過できないレベルで吸い取られるらしく、人間は衰弱してしまう。こうして地下で吸収された魔力は地上へと発散され、地上に住む人間は活力に溢れるというわけだ。しかしこれだけだと服がほつれている理由がわからない。

 

 そこでさらに考えなきゃいけないのは、[勇者領にバレる危険を冒してまで魔力を集めようとしていたこと]だ。彼らはとにかく魔力を集めることに拘っていた。それ故に今度は地上にまで手を出したのだろう。この世界の衣服、食糧には微量ながら魔力が宿っており、魔力を吸われると衣服はほつれ、食糧は鮮度が落ちる。これが服がほつれていた理由だろう。もしかしたらここの飲食店に入ってご飯を食べていたらもっと簡単にわかっていたかもしれないな…………


 とにかく今私がやらなきゃいけないのは、地下の人間の保護だ。こんな馬鹿げたことを見過ごしてはいけない。………この街の実態を完璧に明らかにして法的処置を完了するのはその後でいいだろう。


 ドォォオオオンン!!!


 何の脈絡もなく遠くの場所から破壊音が聞こえてきた。急いで見ると、天高く砂埃が巻き上がり瓦礫が吹き飛んでいる。そして巨大な魔物が数体…………いや、1秒ごとに数を増やしている。数十、数百は余裕で行くぞ!あの方角は………私達がフリーおにぎりをしていた場所じゃないか!あのバカまたなんかやったのか!


 「スーカ!外に出るのにあとどれだけかかる!」

 「うーーんと、1時間以上?それよりさっきのなに?」

 「いいから私を通せ!移動はキャンセルだ!」


 私はマンホールに入り、地上に出ようとしていた人達に事情を説明する!


 「地上で巨大な魔物が暴れ回っている!このままじゃ地下が崩落するぞ!」

 「そ、そ、そそ、それじゃあすぐに地上に出ないと!」

 「そんな余裕はない!私の魔力で崩落しないようにするから、この地下で一番安全な場所に避難しろ!」


 この破壊の規模なら地上に出れるのは10人が関の山で、逃げ遅れた人間達が潰されてしまう。それに地上に出たところで魔物と勇者の戦いの巻き添えを喰らいかねない!今は地下で耐えるしかないのだ!


 私は魔力で地中に空間の断層を作り出した!空間の非連続性によってどんな衝撃も地下には到達しない!これでひとまず危険は脱したな。あとは地上が落ち着くのを待つだけだ。


 「いたぞ!地下民どもを抹殺せよ!」


 一息つこうとしたとき、マンホールから勇者達がなだれ込んできた。この人達を殺して証拠を抹消しようってことか。……この…………下劣極まりないな。


 「下衆どもが、私が殺してやる」


 私は剣を引き抜いた。

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