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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
鏡にキスを編
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無生物赤ちゃん

登場人物

・飯田狩虎:あだ名はミフィー君。ザコ。

 浮遊する岩盤を見上げながら落ちていくなか、俺は真下に1000Lの水を生み出し柱の形に固定すると、その上に落ちてすぐさま解除!水の流れと共に着地し急いでこの場から走って逃げる!

 今回の鬼ごっことやらで1番まずいのは亜花君と対峙することだ。今の俺の状態で彼に勝てる算段は一切ない。鬼ごっこというよりかくれんぼに徹した方がクリアできる確率が高い。


 「あっ、言い忘れてたが最低3人の試験者を亜花の手から守れ。それがお前の試験内容だ」

 「はぁ!?だったら喜んで隠れて不合格になるわ!」

 「そうしたら亜花にお前を殺させる。やつは魔族だからな、あいつが魔王になったらイリナの安全は保証できないぞ」


 ………最悪だ。亜花君の[法則を変える]魔力が魔王クラスにまで跳ね上がったら、きっと魔法世界の法則すら書き換えられるようになるだろう。そうなったら間違いなく誰も止められなくなる。それは俺の望むべき未来ではない。


 「わかっふぁ!?」


 いつの間にか近づいてきていた亜花君の蹴りを魔剣で受け止めるが吹き飛ばされる!!ダメだ!!同じ魔族なのに身体能力で勝てる気がしねぇ!!勇者と同じレベルだろこんなの!!


 「亜花君ストップ!ストップだ!」


 俺は起き上がり亜花君に右手を突き出した!


 「君は今この遊びに満足しているのかい?」

 「………?うん!当然!」


 当然ですか!そうなのですか!


 「しかしだ、俺がこれからもっと面白いことを教えてあげるといったらどうする?」

 「えーーでも先生からは鬼ごっこで遊べって言われてるからなぁ」


 ちっ、そこはちゃんとしてるのか。俺がこういう手段で来ることを想定してやがったなあいつ。あくまでも俺と亜花君をぶつけさせようってわけか。


 「もちろん鬼ごっこで遊ぶつもりさ。ただルールを一つ追加するだけでとっても面白くなるんだよ。たった一つ。それだけでとても面白くなるのならやる価値はあるだろう?」

 「うーーん、条件次第かな?」


 …………こいつ。

 俺は一歩退がり、警戒心をより一層強めた。


 「………俺と鬼ごっこをするのは最大1分間。それを過ぎたら20秒休憩し、もう一度鬼ごっこをするっていうのはどうだ?」


 今更だが、亜花君が言っている「鬼ごっこ」というのは要は殺し合いだ。初めて会った時から分かってはいたが、彼の中での遊びとは「殺し合い」なのだ。鬼ごっこもかくれんぼも、ルールが変わっただけで根本は殺し合い。魔力といい考え方といいイカれている。


 「鬼ごっことかくれんぼが同時にできるんだ、お得だろ?」

 「うんうん!それならいいよ!」

 「じゃあ今から再か………あれなんだ?」


 俺は亜花君の後方を指さした。


 「あれって?」


 そして彼が振り向くと同時に彼の左右から水の波を生み出しぶつける!が、彼はそんなものを簡単に吹き飛ばしすぐに俺の方へと振り返った。


 「…………逃げ足はっや」


 当然、俺は魔剣の空間転移能力を使って逃げ出しているので、もはやそんなところにはいないんですけどね。



 やばいやばいやばい………

 俺は人の形をした建築物の影に隠れた。ダメだ、魔剣の転移能力で20mしか移動できなかった。もしかして弱体化したせいで魔剣の力を充分に引き出せなくなったのか?


 「魔剣さぁあんん!!俺を助けて下さいよ魔剣さぁあんん!!」


 喋れるはずでしょ魔剣さぁあんん!!恥ずかしがってないで俺を助けてよぉおおんん!!


 「泣きついてくるな小僧」


 ま、魔剣さん?驚いた拍子に魔剣を地面に投げ捨てちゃったよ!


 「魔剣様だぞ丁重に扱え」

 「す、すみませんでした………あのその、なんで唐突に喋り出したんですか?」

 「……………」


 うわ無言になりやがったし。目を閉じてしらばっくれる気だ。ほんのちょっと興味が湧いたから質問しただけで黙るとかどんだけシャイなんだよ。


 「魔剣様すごーい。やっぱこのディテールいいよなぁ惚れ惚れしちゃうなぁ」

 「ワの魔眼をより映えさせる完璧な意匠だ。見る目があるな小僧」


 そしてちょっと褒めてやったら目をがん開きで喜びやがって。つーか一人称ワなのかよ。青森の人かな?


 「魔剣なんだからワじゃなくてマにしません?[マの魔眼を恐れよ]みたいな感じで」

 「それだとややこしいだろ。マに響きが似ていて言いやすいからワにしてるのだ」


 でもマの魔眼ってカッコ良くない?それにマはご飯を食べるのだとかいって欲しいんだけど。………なんならマンマ食べるとか言って欲しい。赤ちゃんみたいに。


 「いやそんなどうでもいいことに時間を割いている余裕はなかったんだ。魔剣様!どうか俺に力を貸してください!」

 「どうでもいいとはなんだ失礼な………しかし小僧の言い分もよく分かった」

 「そうと決まればさっそくなんとかして下さいよ!」

 「その前に約束だ。これが終わったらワを磨け、丹念にな」

 「じゃあいいや。自分の力でどうにかします」

 「……………」


 今度は全力で涙を流して俺に訴えかけてくるんだけど。なにこの魔剣………シャイだったり無言で拗ねたり、もっと魔剣らしく堂々と振る舞えよ。


 「ワは何万年という悠久の時の中を目だけで生きてきたから口下手なのだ………感情表現が[目をかっぴろげる]のと[閉じる]のと[涙を流す]の3つに頼りがちになってしまう」


 なるほど、シャイとかじゃなくて言葉で表現するのに慣れてないだけだったのか。


 「大変でしたねそれは……」

 「そんな可哀想なワを慰める為にも磨いてやってはくれないか」

 「まぁそれとこれとは話は別なんですけどね。刃物を研磨するのって大変なんでやりたくないんですよ。怪我もしたくないですし」


 そして無言で泣くぅ!面倒くさいなぁ!これがイリナとか宏美なら口応えしてきてくれるのに、これじゃあな子供を虐めてるみたいじゃあないか。

 さて魔剣との交流はおいといて、この抜き差しならない状況に戻ろうか。


 「なぁ磨いてはくれぬだろうか」


 こんなに騒いでいるのに亜花君が俺のところに来ない。俺を襲わずに他の受験者を襲いに行ったのだろう。グレンが俺に課した試験内容の遂行を徹底していると考えれば合点がいく。


 「剣先を高級な砥石で。ワが刃こぼれすることなど一切ないのだが、やはり研磨は気持ちがいいのだ。人間が風呂に入る感覚に似ているな」


 今の彼は頭がいい。前回会った時から急激に成長したのか、それとも狂人のフリをしているのか、はたまた別の理由があるのかもしれないが、どちらにしろ警戒する必要がある。今この場で油断しているところを騙し打ちするつもりだったのに………考え直しだ。


 「なんなら肌触りのいい布でもいいから!フェザータッチ!」

 「さっきからうるせーなぁ!集中できないだろうが!」


 俺は魔剣を握って走り出した!

 とにかく俺がしなければいけないのは、亜花君が誰かを襲っている時にそいつを助けること。それを3回!1回ですら不可能に近いのにどうすればいいんだ!ひとまず彼を見つけ出すぞ!


 「今の小僧の自力じゃあ無理だろうなぁ。潔くワを磨くのだ」

 「あーもーわかりました!いくらでも磨いてあげますから力を貸して下さい!」

 「ふむよろしい。これが終わったら高級砥石を買ってくるのだ」


 こいつぶん殴ってやろうかなぁ!


 「「試験終了まで残り30分となりました」」


 頭の中に声が流れ込んできた。やばいやばい!急がないとすぐに試験が終わっちまうぞ!早く亜花君を見つけないと!


 「魔剣様!なんか空間把握能力とかないんですか!?亜花君の位置を今すぐ知りたいんだけど!」

 「あるぞ!小僧を中心に半径20mまで探知可能だ!」

 「目視と変わんねーんだよそれじゃあ!」


 なんなら俺の目の方がよっぽど遠く見えるわ!


 「もっと他の!他の手段は!?」

 「ない」

 「ぺっ……ゴミかよ」


 俺は魔剣を投げ捨て唾を吐き捨てた。20mしかワープできねーし、空間把握能力も目視以下だし。人間の運動能力を超えられねーのかよこのガラクタ。


 「こ、小僧が弱いのが悪いんだぞ………」


 魔剣は泣きながら反論してくる。でも説得力ないよね。


 「ワの力の1割しか引き出せない小僧が悪いんだ!ワは悪くない!」

 「あーあー伝説の聖剣なのに言い訳するんだぁ。なっさけねーー。自分の格位を自分で貶めて恥ずかしくないんですかぁ?」

 「うううっゔゔぅぅふぅっ!!」


 号泣かよ。これだから赤ちゃん無生物は嫌いなんだ。泣けばなんでも許されると思うなよ。………はっ!?

 ここで飯田狩虎に電流が走った。このノリのまま魔剣を虐めてしまったら、大切な時に力を貸してくれない可能性があるのを失念していた。あまりにも使えなさすぎるのと、虐め甲斐があるせいでやり過ぎてしまった。


 「………ごめん魔剣。こんなに使えないのにそれでも俺の声に応えてくれて……力になろうとしていたのに、切羽詰まり過ぎていて俺分からなかったよ。ごめん……」


 俺は右手から水を出し刀身を洗い流して握り締めた。


 「ううっうぐっ………うぐぅぶぅっ………」


 めっちゃ泣いてるじゃん………


 「ほ、本来の小僧じゃあワの力はいらないから………喋らなくていいと思ってたんだ………でもこれからはワが助けてやらなきゃって!」

 「そうか………ありがとう、魔剣。これからはちゃんと一緒に戦おう。そしてこれが終わったらちゃんと研磨するよ」

 「高いやつでな」

 「厚かましいぞ」


 こうして仲直りした俺たちは亜花君を一緒に地道に探すことになった。伝説の聖剣のくせにちょろいなこいつ。



 〜2分後〜


 試験会場を駆け回る亜花が次々と受験者を壊していくのをグレンは見ていた。

 亜花の一撃は容易く人体を破壊する。しかしそれよりも厄介なのは、遠距離攻撃の全てを無力化できるところだ。狩虎の水はベクトル変更か、気体にされるか………どちらにしろ亜花には効かない。肉弾戦で止めるしかないのだが、あの馬鹿げた破壊力を今の狩虎の力で止めるのは無理だろう。第二類勇者の力を引き出し対抗するしか手段はない………さぁどうなる?


 そして亜花が受験者を18人破壊し、次の標的に視線を向けた瞬間、高波が亜花の右側面から発生した。


 「ふーーそれはもう見たよ」


 亜花は高波のベクトルを変更して軌道を逸らすと、波が発生した場所へと向かう!十中八九そこに狩虎がいるはず!


 「こっちだ!」


 しかし亜花の背後から声が聞こえ、亜花が急いで振り返るとそこには魔剣だけがあった。これは囮!亜花は再度振り返り狩虎に殴りかかる!


 「あまーい!空間転いっ!?」


 魔剣と自身の位置を入れ替えかわす予定だったフリーな狩虎の顔面を亜花は殴り飛ばした!


 「…………え?」

 「すまん、言い忘れていたが空間転移のクールタイムは10分間だ」


 魔剣はその魔眼をいやらしく歪ませ、キヒヒヒヒと笑った。

 根に持ってやがるこの赤ちゃん無生物。大の字で伸びながら、狩虎はキレ散らかしていた。

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