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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
彼らは新人類編
55/92

時間切れ

登場人物

・飯田狩虎:あだ名はミフィー君。主人公らしいけど絶対悪役。

・サミエル:裏切り者。主人公かな?

 僕は風を生み出しこの複雑に入り組んだ廊下に放った!僕の魔力が通った風でここの通路の全てを満たせばレーダー代わりに使うことができる。こうしておけば敵がどこにいるのかを知るのは容易い。問題は………風が探知した狩虎がいるであろう位置に向かうとそこには水の塊があった。物体を探知するだけだから判別がつかないのだ。それが走っていたりしたら分かるのだけれど……まずいな、完全に潜伏しているぞあいつ。破壊力のある風を生み出すか?…………いや、壁に何度もぶつかるせいで威力が落ちる。決定打にはなり得ない。地道に探した方が時間はかかるが良さそうだ。


 僕は魔力を放出し続けながらこの迷路を進んでいく。

 ここで飯田狩虎を倒して魔王の力を手に入れる。そしてその力で第二類勇者を倒して完璧な力を得るんだ。そうすればもう誰も僕を馬鹿にできる奴はいなくなる。この世界では力が全て、最強である僕は神になるんだ。


 「[僕は勇者になって力のない人達を助けてあげたいです]」


 声がした方に僕は魔力を放った。黒色の風が通路を埋め尽くし、何回も枝分かれしながら吹き抜けた。


 「[たとえ力がなくても僕は戦えるようになりたい。みんなが戦っているのを指を咥えて見ているわけにはいかないんだ。ユピテルさん………どうか僕に戦い方を教えてください]」


 また声がした方に風を放つ。しかし風は吹き抜けていき手応えが一切ない。


 「ユピテルさんから聞きましたよサミエルさんの昔話。必死こいて頑張ってたみたいじゃないですか」

 「………頑張ったって意味はない。あの人の元で鍛錬を続けて理解できたのはその現実だけだ」

 「だから青ローブに魔力を貰ったと………素晴らしいですかその力は」

 「ああ、最高だ」

 「なのに俺は倒せない、と」


 狩虎は大きな声で笑った。壁に声が反響し大人数に笑われている気分だ。


 「確かに力はいい。どんな状況でも自分の無理を押し通して好き勝手出来るんですからね。ちょうど今の俺みたいに」


 カランカラン


 石が跳ねるような音がしたから風を放つも、そこには剣があった。仲間の剣を拾って投げたのだろう。狩虎はこの近くにいる。


 「力のない者にとってこの世界は確かに残酷だが、しかしとても素晴らしいことを教えてくれる。それは[身の丈]っていうのさ。自分の才能の多寡を知ることができるこの世界では、現実世界のように才能もないのに努力をして無駄な時間を過ごす必要性もなくなる。夢を見ずに生きられるなんてとても楽しいでしょう?」

 「楽しいわけがないだろう。階級が低いだけで蔑まれるこの世界を楽しむことなどできるわけがない。奇跡を起こしてでも僕は夢を見たい」

 「奇跡なんて起きやしない。夢など人生に必要ない」


 通路を塞ぐように津波が発生した。水が全てを通過し切るのに大体2秒、透過の魔力でどうにかはできない。僕は風を生み出して水を吹き飛ばすと、津波が発生した場所に向かう!身体能力なら僕の方が圧倒的に上だ!時間をかけて確実に追い詰めてやる!


 「そんなものに現を抜かすから絶望するんだ」


 そして角を曲がった瞬間、狩虎が飛び出し殴りかかってきた!


 「なっ………!?」


 パリーン!


 急いで剣を振り抜くと何もない空間が割れ、暗闇の中に映る複数の僕の姿。それと同時に彼は僕の顔を殴るとまたどこかに逃げていった。

 ………氷で作った鏡だ。一瞬のことだったから自分の姿が映ったことを認識できなかった。

 なんとなく分かってきたぞ、狩虎は一度に最低2回はフェイントを入れて攻撃する隙を作っているようだ。①意識を逃走に向けさせた所で急襲 ②鏡を使って逆方向からの攻撃 ………イリナさんがこの戦い方をしてきたら脅威だが、相手は狩虎だ。今殴られたが全然痛くなかった。やはり時間をかけて追い詰めた方がいいだろう。


 「偉そうなことを言ったところで力を封じられた今のお前など脅威ではない。絶望しているのはお前の方だろう」

 「当たり前じゃあないですか。俺は毎日毎時毎分毎秒絶望しています。今だってどうやってサミエルさんを足止め………倒すか頭を悩ませてますからね」


 ………今のはミスリードだな。僕を足止めした所で戦局に大きな影響はない。そっちに頭のリソースを使わせたいのだろう。


 「格上にはどう頑張っても勝てないんだ、悩まずに僕に殺されるんだな」

 「だったら逃げるんだよなぁ。俺にはイリナに殺されるという使命がある」


 風が変わったのを感じた。暗くジメジメとした細い通路から一転、大きな広間へと出てきた。そしてそこで立って待つ男が1人………


 「………逃げないのか?」

 「ある程度の細工は終わったので決着をつけにきました」


 狩虎が魔剣を引き抜いてこちらへと歩いてくる。……僕と真剣勝負をするつもりなのか?いやそんなはずは無い。やつの力じゃあどう頑張っても僕には勝てないはずだ。一瞬で殺してやる。


 「………まだ気づいていないんですか?あの通路、息苦しくありませんでした?」

 「……………」

 「俺はバレないように炎で酸素を燃焼させ続けていました。今の貴方の体は酸素が欠乏した状態です、チアノーゼが起きてますよ」


 狩虎が僕の顔を指さした。そしてその指は下へと下がっていき僕の胸のあたりで止まる。


 「そして酸素不足で弱った肺か心臓を叩くだけで貴方は一時的に呼吸困難に陥る。その状態で水を気管に流し込めばただちに窒息………俺は貴方と違って明確な勝ち筋がある」

 「………だからどうした。それでもぼくの圧倒的な優位は覆らない」

 「でしょうねぇ。でもそれは[俺が弱ければ]の話ですけどね」


 彼の雰囲気が変わった。さっきまでは弱々しかったのに………なんだ?エネルギーがみなぎってるぞ。


 「魔力を身体に纏わせた。今の俺の基礎身体能力は上位聖騎士クラスでしょうね。そして………」


 バァアン!!


 狩虎の踏み込みと同時に地面が爆発した!それによって得られる爆発的な加速!剣の側面で狩虎の剣撃をガードするが……重いっ!格下の攻撃力じゃないぞこれ!


 「水蒸気爆発の推進力を活用すれば聖騎士長クラスにも手が届く。つーわけでやりましょうや」

 「………調子にのるなよ」


 右腕に力を込めて狩虎を吹き飛ばし距離を詰める!そして上段からの返す刀の二連撃!一歩ひいてかわした狩虎に更に詰めて攻撃を続け様に放つ!戦いは流れと勢いが全てだ。一度生まれた流れは容易に変わることはない。このまま狩虎に退かせ続けて圧倒してやる!

 お前がどれだけ力を手に入れようと、僕は子供の頃からずっと鍛錬してきたんだ!報われないと分かっていても必死に剣を振って技術を磨いた!………そしてようやく力を手に入れ、僕の努力が報われようとしているんだ!お前ごときに負けるわけがない!


 剣と風を使ってひたすらにたたみかける。そして!


 キィン!!


 握りが弱くなった瞬間、僕は力強く剣を振り抜き狩虎の魔剣を吹き飛ばした!

 しかしどうやら狩虎はわざと魔剣を手放したらしい。僕が剣を振り抜くと同時に剣を手放して間合いを詰めた。ゼロ距離。右腕は剣を振るために折りたたまれている。僕は咄嗟に左腕で胸をガードする!


 「え、そんなこと信じてんの?」


 ミチィッッ!!!


 「がっっっ………はぁっっ!?!?」


 狩虎の右拳が僕の腹に突き刺さった!!やばい完璧に無防備だった!!呼吸が………っっ!!


 「チアノーゼの話は嘘ですよ。あんな大きな通路の酸素を全て、バレないように奪うなんて出来るわけがないじゃあないですか」


 そして狩虎は僕の腹筋、肝臓の上に手を置いた。


 「全てはこの攻撃のために」


 瞬間、眩暈が起きた。さらに喉の奥から込み上げてくる吐き気。脚に上手く力が入らない。汗だって止まらないし………


 ガフッ


 そして僕は血を吐き出した。なん……


 「肝臓近辺の熱を奪いました。これは苦手だから1秒間対象を触ってないと出来ないんですよね」


 肝臓の熱が奪われただって?炎の魔力の応用か?と、とにかくまずい、まずいぞ。身体に力が入らない。立っているのすらキツイ。このままじゃ負ける………


 ブンッ!


 僕は剣を振り密着していた狩虎は僕から離れる。僕はそれをヘロヘロになりながら追いかけて更に剣を振った。

 ダメだ、負けられない。負けたら全てが終わる。裏切った僕は即刻殺される。諦めたらダメだ、どうにかして狩虎を倒さなきゃ…………


 「こっちの道に進むって決めたんだ……負けられないんだ。絶対に勝ってやる………」


 何も思いつかない。どうすれば勝てるんだ?何をすればいい?こんな場所で魔物化しても十分に戦うことは出来ない。どうにか、どうにかして倒すんだ………


 「………気に入った」


 そう言うと狩虎は歩きながら僕から離れていく。


 「生かしといてやるからさっさとこの場から離れてください。見逃してあげます」


 そして魔剣を拾い上げ狩虎は北へと向かっていく。


 「ま、待て!まだ戦える!」

 「いや無理でしょ。言っとくけどその状態、すぐに処置しなかったら死にますからね」


 それでも僕はフラつきながら狩虎の元へと向かう。このまま負けるなんてあっちゃいけないんだ。どうにか、どうにか………あれだ。


 僕は右腕を切り裂いて狩虎に向けて力の限り投げた。体の一部を犠牲にして魔力の威力を上げるという、狩虎がこの前やっていた技だ。これなら狩虎を一撃で倒せるはず!


 「あーー惜しい、時間切れだ」


 僕の右腕を食い破って発生した黒色の嵐がこの部屋を満たそうとした時、この世界が赤色に染まった。

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