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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
彼らは新人類編
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命懸けの追いかけっこ

〜登場人物〜

飯田(いいだ)狩虎(かこ):あだ名はミフィー君。主人公らしいがろくでもない。

・サミエル:二つの魔力を持つ勇者。敵。

 「話し合いだ君達!争うぐらいなら有意義に話し合いをして建設的に時間を使おうじゃないか!」


 敵が放つ魔力を障害物を使いながらかわし続ける!!この建物は魔王からの襲撃を退けた物件とだけあって、第二類勇者クラス以上の魔力しか通さないようだ。おかげで遮蔽物に使えてるわけなのだけれど……ヤバいな、敵が想定よりも多い。

 水を生み出して通路を塞ぐがすぐさま消し飛ばされてしまう。だが、それでも俺はお構いなしに水で壁を作り逃げる。

 いや、問題があるとすれば敵の多さよりもその統率力の高さだ。この狭く入り組んだ通路で戦っているというのに敵同士での自滅がない。おかしいな………


 「おいおい良いのか!?サミエルさんが俺を殺したら一世一代の成り上がりのチャンスがなくなるんだぞ!」


 リスクもなく魔王を殺せるチャンスなどそうそうないのに、なんでサミエルさんに譲ってるんだ?我先にって殺しにくるもんだろ。欲がないのか?………いや、勇者領という超超、超が100個ついても足りないような超優良就職先を裏切ってまでカースクルセイドに入ったんだ。彼らに欲がないなんてのはありえない。必死に抑えているのかな?………仕方ないなぁ。


 俺は踵を返し敵の群れへと突っ込む!!


 「はっ!?おま」

 「チャンスをくれてやろうじゃないか」


 水と火を合わせて水蒸気爆発を生み出す!それでも敵はそんなものを防御して俺に攻撃してくる!うんうん、とてもいいことだ!俺は攻撃してこない方面に急接近し剣を振るった!勿論俺のアホみたいに遅い攻撃など当たるわけがない。敵はかわすが………これで確信した。彼らは乱戦になった時は1人ずつしか攻撃できないような取り決めにしているのだろう。そして距離を取れば俺の体力を削るような行動しかしない。逃げている俺に接近して攻撃してこなかったのがその証拠。俺を時間をかけて倒すか、あわよくば途中でサミエルが倒す………それが作戦かな?

 しかし敵は一斉に距離を取るとサミエルさんが斬りかかる!

 ……ダメか、なるほど。徹底して作戦を実行するつもりなのか。いいこと知ーれた。俺は敵のうちの1人、さっきから俺に炎を放ってきた奴に突撃する!そして俺を迎撃しようとしてくるも魔剣で防いで再度距離を詰める!また俺から逃げようとするも、俺は全力で距離を詰めてそいつに張り付く!張りつきまくる!どんな攻撃をされようと張りつきまくる!そしてとにかくめったやたらに剣を振りまくる!俺の攻撃など簡単にかわせるし、なんならすぐに倒せるだろうがそういう作戦なんだもなぁ?俺のこの攻撃が運良く当たって致命傷になるまで徹底的に振り回してやる!


 そんな俺を背後から突き殺そうとしてくるサミエルさん!しかし俺に刺さる瞬間に魔剣の能力で俺とサミエルさんの位置を入れ替えると彼の剣の切先が、俺が執拗に攻撃していた奴に当たりかけた!その機を逃さずに俺は大量の水を生み出し通路を満たすとサミエルさん達を襲った!サミエルさんは透過の魔力でかわせるが、彼の身体のせいで水を視認できていなかった敵の反応が一瞬遅れる。勿論、俺の攻撃など簡単に対処できる彼は炎で水を蒸発させ吹き飛ばしたわけだが………おおおお、苛立ってるねぇ。サミエルさんの攻撃が当たりかけたのと、邪魔されたのが少なからず精神に影響している。

 俺は再度、敵に向かって突撃する!そして俺から距離を止めるために敵は剣を振った!………お膳立てをしてあげようじゃないか。


 ザシュッ!


 俺は防御をミスったふりをしてわざと敵の攻撃に当たった。左腕が切り裂かれ、血が壁を濡らす。燃えるような痛みだ……本当はこんな痛い思いなんてしたくなかったのだけれど………俺の攻撃が当たって時の敵の表情を見て、俺はほくそ笑んだ。

 痛みを我慢しながら俺は敵へと距離を詰める!そして俺から距離を取るために振られる攻撃を剣で防御するが、わざとよろけてくらったフリをする。そしてもう一回、敵に近づき剣を振るう!そしてまた敵の反撃を受けてよろけるわけだが、敵の反撃時の踏み込みが一歩分進んでいたことを見逃さない。こりゃあ俺を倒したいという欲望が無意識に出てきているな。そろそろかな?


 「やべ、やられる」


 俺は切り裂かれた左腕を抑えながら水の壁を作り出して敵から距離を取ろうとした瞬間、吹き飛ばそうと敵が炎を放った!だがその威力は今までの比ではなく水ごと俺を吹き飛ばした!この攻撃で周りの気配が変わったのを肌で感じた。今までの無機質な感じではない、俺を殺そうとする複数人の視線と殺気が肌に突き刺さる!


 「………に、逃げなきゃ!」


 俺は全力で走って逃げる!それを追いかけて放たれる魔力の数々!でもさっきとは威力が段違いだ!発生する粉塵が煙幕となって俺の逃走を容易にしてくれる!俺は敵にバレないように水を気化させこの煙幕をより濃くしながら走って逃げる!

 そして時は来た。俺は自分の右脚を犠牲にした超加速を発動させると一瞬で敵の懐に飛び込んだ!それを迎撃する為に敵が炎を生み出すと同時に、今までの100倍の量の水を生み出す!具体的な数値にすると100,000L!それが一瞬で水蒸気に変わり爆発が俺達全員を吹き飛ばした!さぁ、タネは撒き終えた。


 俺は粉塵の中に溶けて消える。


 ………ダッ!


 「そこ!………っ!?」


 吹き飛ばされたもののすぐに体勢を立て直した敵の1人が、物音がした方を切り裂いた!しかひそこにあったのは蠢く水の塊だった。


 「フンッ!」


 ダンッ!!


 死角から飛び出し背中に剣の柄で背中を叩くのと、敵の目の前にあった水の塊が敵の口に入り込むのは同時だった。すると敵は少量の水を飲み込んでしまい、ガクガクと痙攣し喉を掻きむしりながら気絶する。背中からの攻撃で肺に衝撃を与えた。それによって肺は痙攣、呼吸を求めて気道が開き水を飲み込んでしまったのだ。あとは気道を塞いで窒息ってわけ。俺は窒息した敵の胸部を叩き水を吐き出させると次の獲物に向かった。


 敵から逃げながら足止めの効果が少ないのに水の壁を作り続けたのは、周囲に水をばら撒く為だ。魔力を発動させても一方向からの攻撃で終わるようでは今の俺の弱さじゃ戦えない。最低二方向、出来ることなら複数方向からの攻撃が望ましい。


 霧が渦巻く廊下を走り敵を1人捕捉すると、俺は周囲にある水を操り三方向から襲わせる!全ての攻撃を微妙にずらし敵の攻撃順序を誘導。最後に敵の背後がこちらに見えた瞬間………


 ドンッ!!


 背中越しから肺を叩き窒息させそのまま走って次の標的へ!

 先程の爆発で散り散りになった敵達はどう考えているだろうか?………決まってる、俺を先に殺そうと別々に行動しているはずだ。たとえ俺を見つけたところで仲間に報告することはありえない。奴らにとって俺は簡単に殺せるカモ。この状況は彼らにとって都合が良いはずなのだ。ここからが分水嶺、行動を間違えれば双方ともにたちまち死を招くだろう。



 「………おい!ちゃんと連絡を入れろといってるんだ!」


 ………ちっ!あいつら作戦を無視して飯田狩虎を殺すつもりだ!

 サミエルは焦りながらこの迷路のような通路で狩虎を探し回る。信用に値しないような利害関係だけで構築された部隊だ、こうなることは予め予想できたのだけれど………全員が離れ離れなのがまずい。各個撃破されたら飯田狩虎にダメージを与えられる可能性が若干下がる。仲間に大規模魔力を使わせて自滅させながら奴を削るつもりだったのに………くそっ。


 「連絡なんて来るわけがないさ、俺が全員倒したんだからな」


 僕の目の前の通路から飯田狩虎の声が聞こえてくる。姿は隠しているがその先の近くにいるのは間違いない。


 「……この短期間で?お前の力でか?ありえないね」

 「じゃあそう思ってるんだな。………これから俺は時間をかけてゆっくりとあんたに不意打ちをかけ続ける。これがあんたにかける最後の言葉だろう。次に会った時は背後から剣で刺され、無言の俺に見下されたまま死ぬんだ。それじゃあね」


 僕は急いで狩虎の元へと向かう!そして廊下を曲がり人影を認識したと同時に剣を振り下ろした!


 「………っつ!?」

 「っ!?な、なにすんだ!?」


 味方!?そん、なんだ!?何が起こってるんだ!?

 僕が振り下ろした剣を受け止めた仲間は、急いで距離を取ると僕を睨みつけてくる!


 「お前まさか俺を殺そうと!?」

 「違う勘違いだ!」


 やばいぞ……この状況はまずい。みんなが飯田狩虎を殺そうとしているこの状況で切りかかったのは非常にまずい。ライバルの数を減らす為に攻撃したと勘違いされてしまう。まずい………


 「………ま、待て。ひとまず話し合」


 僕が両手を上に向けて一歩近づいた瞬間、仲間が僕に向けて氷の魔力を放った!間一髪でかわしきるが、攻撃を始めてしまった彼に精神的ブレーキはもう存在しない。僕に対してめったやたらに追い討ちをかけてくる!


 「もう誰も信用しねぇ!!全員ぶっ殺してやる!!」


 こうなったらもう………


 僕は敵の氷の攻撃に合わせて魔力ですり抜け、さらに風で加速すると仲間の首を切り裂いた。そして反撃の芽を摘むために両腕を切断し止めをさす。


 「………な、何やってんだお前」


 そしてこの騒ぎに駆けつけてきた仲間が、僕の行動を見て一歩後ずさった。………終わった。


 ここからは乱戦だった。仲間達で殺し合いを続けた。僕達は薄っぺらな利害関係だけで成立している部隊だ、一度生まれた疑心を取り除けるような信頼関係は築いていない。更にここが戦場ということも相まって混乱が加速していく。無我夢中だった、襲いかかってくる仲間の顔も認識できぬまま全てを切り裂いていく。殺らなければ間違いなく殺られる状況が………何分続いたんだ?分からない。時間感覚が狂ってしまった。魔族と勇者、2つの魔力を持った人間を複数人相手にするのは骨が折れる。


 「…………この悪魔め」


 全員を倒し終わったのか、僕が通ってきた道に転がる大量の死体。その先に続く廊下で飯田狩虎は座って待っていた。


 「悪魔じゃあないさ、魔王様だ」


 彼は立ち上がり剣を引き抜くと僕を眺める。


 「俺は弱いからな、サミエルさん達に同士討ちしてもらうしか勝ち筋がなかったんだ。上手くいって良かったよ」


 この長い時間中に治療が終わったのか、切り裂かれた左腕に包帯を巻き付けられていた。


 「………敗因は俺をこの通路で倒そうとしたことだ。警戒したのか知らないが、複数人いるのならばこんな狭くて入り組んだ場所で戦うのは間違いだ。それぐらいサミエルさんなら分かっているだろう?力を手に入れてから頭が弱くなっちまったんじゃないか?」

 「まだ負けてないが?僕とあんたの力の差は歴然じゃないか」

 「同じレベルの人間20人と戦った後だっていうのに偉い自信だ。ただ、確かにサミエルさんの言う通りだ。俺とサミエルさんの力の差は歴然。普通に戦ったんじゃあ勝ち目はない。というわけでね」


 飯田狩虎はまた逃げ出した!


 「また不意打ちかますね!」


 ここで逃したらまずい!この疲弊しきった状態で何回も不意打ちされたらたまったもんじゃない!僕は狩虎を追うために…………


 「…………?」


 目に映るものに違和感がある。狩虎が背中を見せて逃げているはずなのに、彼の姿が歪んでいる。………まさか。

 僕は風を生み出し狩虎に向かって放つと、途中の空間が粉々に砕けた。光り輝く破片が床に落ちて甲高い音を鳴り響かせる。氷だ………光の反射率が低い氷が通路に一枚置かれていた。もし全速力で追いかけていたら無防備な僕の顔面にぶつかっていたのだろう。………最悪死んでいた。


 「……………」


 僕は両手を握り締めた。これから始まるのは命をかけた追いかけっこだ。

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