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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
彼らは新人類編
51/92

それでも明日は来るんだよなぁ

登場人物

飯田(いいだ)狩虎(かこ):私たちはまだこの男を知らない。

・イリナ:最強の勇者。

黒垓(くろがい)白始(はくし):王様を守るガーディアンフォースの1人。強いらしい。

・グレン:最高位の勇者。柄が悪い。でも教員免許は持っている。

・ユピテル:貴族の1人。狩虎を殺せるボタンを持っている。

 「明日の作戦はシンプルです、敵が来るまでとことん待機して来たら倒す、それだけです」

 「………え、いや、そんなにシンプルなの?」


 明日の作戦会議が10秒で終わろうとした時、イリナがたまらずつっこんできた。


 「そりゃあなぁ?」

 「当然っすよねぇ?よくわからないけど」


 絶対わかってるだろ黒垓君………


 「ユピテルさんは基本、勇者領陣営の中心部に引き籠らせる。大量の仲間に包囲されている超安全地帯だ、普通ならこんなところに敵は来ないんだが………今回は特例だからな、多分来る。どんな手段かは想像つかないが必ず攻め込んでくる」


 俺は今回の試験を合格した2人を見つめる。


 「貴方達2人は最終防衛ラインなんです。貴方達のところまで敵が到達するということは、勇者領陣営がほとんど壊滅状態で取り返しのつかない状況だと言えます。だから俺やイリナが来るまで逃げながら戦って時間を稼いでください。………それが貴方達2人の役割です」


 俺の言葉に2人が息を呑んだ。それはそうだ、このポジションは時が来てしまったら超重要。プレッシャーを感じないわけがない。


 「まっ、大丈夫ですよ。勇者領がそこまでのピンチに陥るってことはそうそうない。ユピテルさんと談笑でもしてればいいんです。ね?」

 「そうだよ。第一類勇者や第二類勇者がちゃんと君達を守るんだからさ、安心しなよ」


 時が来ることだとそうそうないだろう。………ただもし時が来てしまったら、そこからはユピテルさんと寿々乃井さんに伝えてある。


 「とにかく死なないように立ち回って下さい。それさえ出来れば援軍は必ず来る。自暴自棄になって変なことだけはしないでくださいよ」

 「わ、わかりました………」


 かしこまっちゃってるな……まぁ、明日の戦いはそれだけ重要度が高い。緊張するのも仕方がないよね。


 「そういえばお二人の名前ってなんていうんですか?自分は飯田狩虎って言うんですけど」

 「君の名前を知らない人間なんて勇者領にはいないよ」

 「いやいや、グレンの理不尽な暴力を受けてまで残った人達だよ?俺のクソさ加減を知らなかった可能性は高い」

 「あ?理不尽じゃねーよ、教育だ教育。最高だったろ?」

 「は、ははは………そうですね」

 「ほら引いてるじゃん。そろそろ自分の行動を省みたほうがいいですよ」

 「お前だって俺に失礼な言葉使ってるからな?省みたらどうだ」

 「俺は失礼でなんぼのポジションなんで。反面教師って言うんですけど」

 「資格持ってんのかお前」

 「反面教師1級持ってます。金積めば貰えました」

 「じゃあ許す」


 ………はっ!2人の名前聞いてねぇ!


 「そうじゃなくて名前!名前なんて言うんですか!反面教師とかクソ馬鹿野郎とかどうでもいいんですよ!」

 「クソ馬鹿野郎って誰だよ」

 「無視していいんでお名前!」

 「は、はぁ………レベッカって言います」

 「えっ、女性!?」

 「いや男です。よく間違えられるんですけど、ちゃんと男してます。生えてますよ」

 「黒垓君ゴー!」

 「………触れ言うてます?」

 「ゴー!」

 「男のを触る趣味はないっすよ。女専門なんでねこの右手は」


 レベッカさんかぁ有名な名前だよな。俺も飯田・レベッカ・狩虎みたいな名前が欲しいわ。外国の名前ってカッコいいよな羨ましいよ。


 「…………」

 「………あ、はい!ディーディアです!」

 「あなたも女性!?」

 「どこから女性要素を感じたのか分からないですけど男です!生えてます!」

 「グレンさんゴー!」

 「引っこ抜いていいならやってやろうか」

 「グレンさんノー!」


 なんでこんな流れになってしまったんだ。俺は下ネタを他人に強要するのがそんなに好きじゃないんだよ。


 「レベッカさんとディーディアさん。気負わなくて大丈夫です。喋ってたら戦いは終わってるはずです。楽して大金稼いでしまいましょう!」

 「いいのそんな無責任なこと言って」

 「俺は無責任の極みだからな!ふぃーー明日が楽しみだぜぇえ!」


 こんな感じで馬鹿騒ぎした後、俺はレベッカさんとディーディアさんを返した。


 「………さて。ユピテルさんを呼んで欲しい」

 「本当の作戦会議開始っすね」

 「うん、彼らには荷が重いからね」


 黒垓君が白色の扉を作り出しユピテルさんを連れてくる間、俺は無言で思考を続ける。

 彼らにはああ言ったが、ユピテルさん達が窮地に陥る可能性はかなり高い。俺達が3日間準備できたということは、カースクルセイドの方も同じ期間準備できたということだ。それもこっちみたいに付け焼き刃の戦法じゃあない………崩される、間違いなく。


 20秒後、ユピテルさんが来た。彼女の顔には決意が滾っている。準備は完了しているってわけか。


 「それじゃあ始めますか……」

 「その前に飯田狩虎、一つ聞きたい」


 ユピテルさんが俺のことを凝視してくる。その眼圧の強さはそのまま彼女の覚悟の強さを表していた。


 「私はいまだにお前を信じていない。これから先も信じることはない。………それでもお前は私に作戦を伝えるつもりか」

 「当然じゃないですか。俺を信じてないことは大前提です。これから言う作戦もそれに準じている。実際に現地に立って行動するのはユピテルさんですからね、俺の作戦を無視してユピテルさんが考えた作戦をすることは大切だと思っています。………それでも俺の考えの一端を伝えることに意味がある」

 「…………わかった」


 それだけ言うとユピテルさんは黒垓君が持ってきた椅子に座った。


 「ユピテルさんに1番してもらいたいことは戦闘ではなく、戦闘を回避することです。更に踏み込んで言えば、敵を勇者達が多くいるところに誘導して下さい」

 「お前を制御しているリモコンを囮にし敵の誘導か。それは容易いが、私と一緒に行動する2人にそれを伝えなくていいのか?」

 「彼らが敵のスパイである可能性を否定できない。あなたにくっついてくれとだけ伝えているから、変な行動をすることはないと思います。………もし怪しい動きをしたら斬り殺してしまっても構いません。そこは貴方の判断に任せます」

 「わかった」


 今度はグレンの方を見る。


 「………そういえばなんでグレンさんはここにいるんですか?俺達の部隊じゃあないですよね」

 「暇潰し」

 「うわっ、スパイだわ。絶対敵のスパイだわ」

 「ひねり殺すぞ。………今回の戦陣は魚鱗だろ?俺はその右上側の部隊を指揮している。それを伝えに来ただけだ」

 「はぇーーかなりの激戦地ですね」

 「お前らには負けるよ。最前線ていうか、お前らだけ戦陣から離れて遥か前方にいるんだもんな。孤立もいいところだろ」

 「俺が裏切ったら周りが消滅しちゃうから、正しい判断だと思いますよ」


 俺とイリナ、黒垓君は独立部隊だ。超斬り込み隊と言ってもいい。敵のアジトに突っ込んで暴れまくる。力の封じられている俺がどこまでできるか分からないけれど、ひとまず勇者最強のイリナがいるから役割はこなせるだろう。


 「………いつも思うが、なぜお前は勇者領の判断に肯定的なんだ。彼らはお前の立場を貶めているだけだぞ。もっと嫌がったらどうなんだ」


 ユピテルさんが聞いてきた。あーーなるほど?確かにそういう考え方はあるかもな。


 「利益を生み出す判断に肯定的だってのはありますよね。リスク管理できる人間の判断を俺は尊重してしまう。ただ、まぁ………」


 一番の理由はそんなところじゃあないのだろう。というかユピテルさんが俺に質問しているところはそこじゃあない。


 「この世で一番嫌いな人間が誰かと聞かれたら、俺は真っ先に自分だと答えるでしょうね。………自分が嫌いすぎるから、他人に貶されたってどうでもいいんです」


 俺は自分が嫌いだ。根本的な問題はそこなのだ。


 「…………さて話を戻しますか。グレンはまぁ、頑張ってということで」

 「雑すぎないか?明日の戦いのお前なりの展望とか言えよ」

 「うーーん、勇者領大ピンチですかね」

 「ネガティブだねぇ」

 「楽観視できないのが俺の嫌いなところの一要素なんですよ」


 …………これ以上話しても意味ないな。ここから先は当日になってから、各々の判断で行動しなきゃいけない領域だ。


 「総括しましょう。明日の戦いはナメてかからないほうがいい。とびっきりの地獄が待っていると思ったほうがいいです」

 「はなからそのつもりだよ」


 イリナが強い眼差しで俺のことを見てくる。俺はそれに無言で頷き返した。


 「それじゃあ明日に備えて早く寝ましょう。解散でーす」

 「最後の最後で気が抜けたな」


 俺達はさっさと帰り始める。

 ………そういえばいつから俺、参謀的な立場になったんだ?




 その夜、ある者は恐怖で震えながら目を閉じ、眠ろうともがいていた。ある者は過去に祈りを捧げ、安らかに目を閉じた。ある者は特に何も考えることなく爆睡した。そしてある者は…………


 「…………そうだ、地獄が待っているんだ」


 乳幼児の落書き帳のようになった数学のノートをシュレッダーにかけながら、壁を見続けた。



 〜アジト殲滅戦 残り0日 〜

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