チンピラしかいないのかこの世界には
登場人物
・飯田狩虎:あだ名はミフィー君。主人公のつもりは一切ない。
・イリナ:最強の勇者。自他ともに認める主人公。
・寿々乃井遥:生徒会大好きクラブの一員。漢字の変換がめんどうくさい。これからスズノイにしちまおうかな。
私は花を手向ける。これから起こる戦いの不安を消す為、いままでに失われた人々の魂の平穏を願う為。目を閉じ呼吸を止めた。
脳裏に流れていく戦いの記憶。肉を切り裂いた時の感触、骨を砕いた時の振動、悲鳴を上げ絶命する瞬間。私が倒してきた魔物と魔族の最後が駆け巡る。ここに今度は勇者の最後が刻まれるのか………
「毎日毎日、飽きないんですかユピテルさん」
私は目を開き背後を振り返った。銀色の長髪の女。ガルディオ一族のマリアだ。
「お前こそ、いつもいつもよくもまぁ口やかましく喋ってられるものだ」
「お話が好きなんでね、こう見えて。さっきまで部下とコーヒーの味について議論していたところですし」
三大貴族の一つであるガルディオ一族。彼女はそこの長女ではあるが、階級の低さによって発言権がない。しかしお喋り好きの彼女はそのトーク力で中間管理職的なポジションについている。
「寒暖差によって食物は栄養を大量に作り美味しくなる。人間も同じで、今のこの危機的状況を脱することができれば成熟できるのではないかと思うのです」
「階級制のこの世界でそんなこと言ったって意味はない………お前もわかっているだろう」
「わかっちゃいるがやめられないのが人間の性です。………この戦いが終わったら私に飯田狩虎を紹介してくださいよ。彼の魔族の知識は吸収するに値する」
そしてこいつは知的好奇心が強い。その好奇心を満たす為にトーク力を上げ、人から話を引き出し続けてきたのだろう。
「別に良いがあいつは何か悪巧みをしている。気をつけるんだな」
「飼い慣らされた悪者に危機感を持つ必要などないのです!………」
私から目を離してお墓を一瞬だけ見るとすぐさま私に視線を戻した。
「敵を作り出すのはいつもその人の心です。この世には敵も味方もいない、ただ他人が存在するだけです。昔に囚われていたら何もできませんよ」
「………わかっちゃいるがやめられないのが人間の性だ」
「あちゃーたしかに。一本取られました!」
私は視線を戻し目の前の墓を見続ける。ここには私の婚約者が納められている。4年前、魔族に殺されてしまった彼の死体はグチャグチャだった。見るも無惨。2人で買ったお揃いのネックレスを持っていたことと、歯の一部の形が一致したことによって本人だと分かったが………それがなければ誰なのか分からなかったほどに損傷が激しかった。魔族は人や死体に対しての敬意がない。死を確認するまで徹底的に対象を破壊する。
過去に縋ったところで何も生まれないのは分かっている。でも………全てを捨てられるほど、私は強くないのだ。
私はネックレスを握りしめた。
「しばらく1人にしてくれ………」
「……気をつけてくださいよ、殲滅戦」
それだけ言うとマリアは消えた。
魔族は目的達成のためなら手段を選ばない。たとえ無力なふりをしようと飯田狩虎は魔王なのだ。なにか裏を持って行動しているのは間違いない。私は騙されない。
「サミエルまで………なんで私の元から人は消えていくんだ」
風が吹いた。それは私が供えた花を揺らし、私の髪を揺らし、スーー………ッと空に消えていった。
そしてカラスが一羽、鳴いた。
「………どう思うイリナ」
いつもより1時間遅れて表面世界に来た俺は、勇者の方々の修行風景を眺めていた。
「うん?んーー、私は修行したことがないから分からないけれど、頑張ってるんじゃない?」
こいつに聞かなきゃよかった。この才能人間がよぉ。
「黒垓君は?」
「努力が足りないんじゃあないっすかねぇ?オラも修行したことがないのでよく分からんすけど」
この才能人間どもめぇ!そして分からないのなら否定から入るのをやめろ!相手に対して失礼だろ!
「………あれはダメだな、全く集中できてない。このまま残り2日間を過ごしても何も身に付かずに死ぬだけだ」
彼らから危機感を感じない。あれじゃあなぁ……ん?
「おべっ!?」
後ろから肩を叩かれたから振り返ったらいきなり顔面を蹴られた!なにっ!?どうして!?
「今の俺はブチギレ寸前だ。殴るかもしれないから気をつけろよ」
俺の背後に立っていたグレンは両手をポケットに突っ込んで俺を見下ろしていた。いや、もう蹴ってるんですけど………
「そ、その………怒ってる原因って俺じゃないですよね?グレンさんとは当分会ってなかったんですけど……」
「亜花に余計なことを教えたせいで大変だったんだ。てめーのせいだボケ」
え?いや、イオンの存在を教えただけなんだけど………
「未発見の分子作りまくってウチが放射能の溜まり場になったんだよ。観光地も一個無くなったしどうしてくれんの」
自然法則を自分勝手に作り替えられる亜花君なら、確かに簡単に分子や原子を見つけられるよな。いやそうじゃなくて亜花君の進化がヤバいな。神にでもなっちまうんじゃないかあの子。
「………あっそうだ、グレンに教えて貰えばいいじゃん」
俺がグレンに殴られていると、イリナが妙案得たりといった感じに提案してきた。
「な、なにが?」
「だから、グレンに魔力の使い方をレクチャーさせればいいじゃん」
「ぐ、グレンさんに!?出来ないってこの人にそんな高度なこと!」
「俺のこと猿だとでも思ってんのか?俺は教育免許を持ってる立派な教師だぞ」
「教育免許持ってるったってどうせ小学校レベルでしょ?」
「表面世界の学校は小中高大、全てを一貫しているからね。教員免許を持ってるってことは大学レベルの知識があるってことだよ」
「どうでしょうかグレン先生。教鞭をとっていただけないでしょうか」
「変わり身はえーなおい」
こんなボロボロの服をきた言動全てがチンピラ野郎のグレンにそんな才能があったなんて。俺は額を地面に擦り付けながらグレンに頼み込む!
「まぁやってやらんこともないが内容によるな。下らねーことならやらねーぞ」
「いえいえ、大切なことですのでどうか承諾してくださいよ!」
俺はグレンに内容を説明した。
「魔法エネルギーねぇ………確かに、意識したことはないが、それらしきものを感じたことはあるな」
「第二類勇者クラスになると高位の魔族と戦うことが多いですからね。彼らに対抗するには魔法エネルギーのコントロールが不可欠です。グレンさんは無意識にそれをコントロールしてたんでしょうね」
「で、それをこいつらに教えると?……こんなたるみきった奴らにか?」
「そう!そうなんですよ!残り2日間で教えてあげて欲しいんですよ!このままじゃ2日後の殲滅戦で彼らが死んでしまう!」
グレンは返事もすることなく、両手をバキバキと鳴らしながら鍛錬中の勇者達に近づいていく。あれ?なんていうか………凄まじい殺気が………
「おらっテメェらぁ」
バキンッ!
一際大きな音が響いた!
「なめてるとぶっ殺すぞ」
そして飛び出すと近くにいた奴を蹴飛ばし、凄まじい速度でどこかに飛んで見えなくなってしまった。……マジで?
「昨日1日めいっぱい練習したんだろ?おら実戦だ。俺に殺されないように上手く立ち回れ。………言っとくけどよぉ」
彼の身体の周りが歪み、地面に転がっていた石ころが吹き飛び高速でどっかに飛んでいく!さらに風が渦巻き空が厚い黒色の雲で蓋をされた!
「俺の殺すはマジだ。死にたくなきゃ必死に戦え」
こ、これが教員免許を持ってる人間の教育なんですかぁ!?グレンが勇者達に襲いかかる姿を見ながら、俺は心底驚愕した。




