トップオブ格下
「ヒャッハー!死ね飯田狩虎ぉお!」
莫大な空気抵抗を受ける形の剣を軽々と振り回す寿々乃井さんに、凄まじい殺気を向けられながら追い回される!
「ストップストップ!これじゃ修行になんないって言ってんだろ!」
俺は炎の壁を作り出し寿々乃井さんの進行を阻む!しかし彼女はそれを切り裂くと一瞬で距離を詰めてきた!
「お前のせいでイリナさんと離れ離れになったんだから一回殺させろ!」
「人は一回しか死ねないの!簡単に殺そうとすんじゃねぇ!」
どうなってんだこいつの攻撃!なんであの武器をここまで速く振り回せるんだ!水蒸気による推進力を利用して攻撃をかわし続けるが、そもそも勇者相手に身体能力で勝てるわけがない。ちょっとずつ追い詰められ、最後!
ガッ!
上に向けられていた意識の虚をついて放たれる足払いを見事に食らった俺の身体は宙に浮いた。
ギィインン!!
そして振り下ろされる剣撃を魔剣で受け止めるが………おっも!!マジでなんでこんな形状の武器で戦えてんだよ!地面に叩きつけられた俺にすかさず剣が振り下ろされる!それもまた魔剣で受け止め必死になって逃げ惑う俺!本来ならイリナに手加減してもらいながら練習するつもりだったのに…………なんでこんなに早く習得しちまうんだよ寿々乃井さん!俺はひたすらに逃げまくった。
ミフィー君の修行は寿々乃井さんに任せ私はとある屋敷に来ていた。一般の民家とは程遠い大きさをしており、外観だけで身分の高い人間がいるのは想像しやすい。
大きな扉を開けて私はドンドン内へと進んでいく。この世界の建築物の構造はイマイチわからないが、ひとまず玄関から離れた場所に偉い人がいる可能性が高い。ここは絶え間なく戦争を続ける世界。外敵から身を守るためには建物の中心部が一番効率が良いだろう。
ガシャン
そして当然、玄関周りには警備兵がいるものだ。勝手に侵入してきた私を止めようと宿直室から出てきたが、私を見て全員の動きが止まった。私はこの世界でいちばん有名な勇者なのだから当然のことだろう。
「ちょっと待っててね、ここの家主に話を聞きにきただけだから」
立ち止まる警備兵達に目もくれず私は中心部へと向かっていく。警備兵の階級は全員聖騎士長クラス………質がいいな。
手当たり次第に扉を開けていき部屋の中を確認する。さぁさぁさぁ、どこにいるんだい?そして7個目の扉を開いた時お目当ての人間が優雅に座っていた。
「サミエルについて聞きたいことがあるんだけど質問に答えてくれる?」
「いきなり来たと思えばそんなことか」
ここはサミエルの生家、世界3大貴族の一角であるアルモニア家の屋敷。そして目の前にいるのがその家長であるヒーメニック・アルモニアである。
「やつは出来損ないだ。やつが今なんどき何をしていようが一切認知していない。今頃勇者領の命令でどこか辺境の地で戦っているのではないか?」
嘘でしょ…………
「………サミエルは勇者領を裏切って敵になってるよ」
「ふむ………まったく、恥さらしも良いところだな」
ヒーメニックは顔色も変えずに呟いた。この感じでよくわかる。本当にサミエルに興味がないんだな。
「ああいうのが生まれる度に、我々アルモニア一族の格位が貶められるのだ。後でやつの戸籍を抹消しておくとして………で、なんだ。サミエルのことを聞いてどうするつもりだ?さっさと殺してしまえば良いだろう。ただの裏切り者だぞあいつは」
ハッキリ言えば良いのに………殺して欲しいんでしょ私に。私はこの男から感じる嫌らしさを我慢しながら話を続ける。
「………いや、もういい。あんたのたった少しの言葉でよく分かったよ。彼がなぜ勇者領を裏切ってまで力を求めたのかね」
「ふん………しかし、あのイリナがこうも丸くなっているとは驚きだな。確かに今のお前じゃあ飯田狩虎を殺すことはできないだろうな」
「………………」
私は無言で振り返り部屋を後にする。
「昔のお前には正義と悪を線びくための正義感が少なからずあった。しかし今のお前にそんなものはない。腑抜けてしまったのだ。基準のない人間の言動に価値はない。」
うるっさいな………仕方ないでしょ。彼が悪なのかどうか私にはわからないんだもん。彼はあまりにも優しすぎて…………
「人は嘘を吐くものだ………警告しておこうあの男は危険だ。大事になる前にさっさと殺しておけ。奴のあの笑みから邪悪が漏れ出ているぞ」
私は振り返ることなく部屋を出た。そしてまた別の民家に私は向かうのだった。
「ぎゃぁぁああああ!!!」
ドゴォォオオオンンンン!!!!
自ら生み出した水蒸気爆発に巻き込まれた俺はめちゃんこ遠くに吹き飛ばされる!やばいやばい一気に熱を持ってかれたから細胞が凍りかけてる!炎を生み出してなんとか解凍を…………んもぉお!!
そんな俺を相も変わらず追いかけ回して剣を振り回す寿々乃井さん!この人の殺意が本物すぎて修行にならない!新しいことに挑戦して万が一ミスったら殺されちまうからなぁ!
「あんたの生徒会に対する愛はもう分かったから!ね!?もうそろそろ真面目にやってくれ!」
「私の愛を理解したのならば尚のこと、私のこの殺意も納得できるはずだ!さっさと死ね!」
ごめんてそれはわからないんだって!どうする!?ここで殺されるぐらいならいっそ。
俺は左胸に手を…………
「あーもー!!君達なにやってるの!!」
イリナぁぁああ!!よく来てくれたイリナさーーん!!惚れそう!!
「イリナさぁぁああんんん!!会いたかったよぉぉおお!!」
しかし俺の心の声以上の喜びを表現する寿々乃井さんは、ボロボロに号泣しながらイリナに抱きついた。
「ちょっ、やめてよ!気持ち悪いから離れて!」
「いやだぁああ!!一生離れたくないぃいい!!」
変態とかそういうレベルじゃないぞ、常軌逸しちゃってるわ。
「………どうだった?ミレニアルズの身辺調査は」
寿々乃井さんを力尽くで引き離し終えたイリナに聞くとイリナは苦そうな表情になった。
「…私がいなかった1年間で色々あったみたいだね。そこまでいい待遇じゃあなかったみたい。」
イリナの話を聞くと、どうも彼らは腫れ物を触るような扱いを受けていたみたいだ。任務を与えられることもなく家での待機のみ。頑張って勇者の力に目覚めても彼らに役目を与えられることはなく…………今の俺と同じだな。魔族側の力を危険視されすぎて隔離されていたのだ。せっかくイリナに助けられたというのに彼らは…………
「よく愚痴を溢してたみたいだよ。[もっと誰かの為になりたい][平和のための力になりたい]って……彼らが勇者領を裏切ったのは誰かの役に立ちたかったからだよ」
うーーん難しい話だなぁ。確かに力があるのにそれを活かせないのは楽しくないが、それにしたって勇者領を裏切るってのはかなりの決断だ。本当にそれだけなのか?もっと他にもあるんじゃないだろうか………
「…………彼らを助けられないかな」
イリナが呟いた。
「…………俺らがするべきことじゃないよ。あいつらを助けられるのは当の本人だけだ」
たとえ納得がいかなくても裏切ってしまったのならば、俺らがどうこうできる状況ではない。全ては当人の責任だ。その責任を果たすのは俺らじゃない、当人だ。
「ありがとうイリナ。なんであいつらが勇者領を裏切ったのかある程度理解できたよ。あとは残りの期間で俺達がどれだけ強くなるか………それだけだな」
「いいよ、今から私が練習に付き合ってあげる」
「頼むぅ!寿々乃井さんじゃ全然練習相手にならなくて!」
「余計なことを言うな飯田狩虎!」
こうして俺はイリナと組手をすることになった。
しかしなんということでしょう。寿々乃井さんよりも練習になりませんでした。1発でノックアウトされちゃった。
アジト殲滅戦まで残り~2日~
人を焼き払い道を切り拓くあの感触を忘れられない。手にベットリと染み付いた血が広がり俺の身体を赤く染めていく。血が蒸発して炭っきれになった残骸を踏み砕き、前へ前へと進んでいく。誰かを殺し前へ進み続ける………それが俺の業なのだろう。誰か俺を止めてくれ。夥しい死を纏ったこの俺を誰か…………
「………………」
目が覚めた俺は汗を流すためにバスルームへと向かった。その時、鏡に映った俺の顔は別人のようだった。
「で、君は今回の戦いについてどう思う?計画通り行くと思うかい?」
朝のホームルームが始まる20分前。俺はノートを眺めながら復習を済ませていた。俺は物覚えが悪いから復讐を2度しなきゃいけないのだ。
「なんとかなるんじゃない?俺は勇者を信じてるよ」
「…………賭けようか。僕は君が一回しか死ねないと思うんだ」
「そうか?…………じゃあ俺は0回かな。俺の出番はないだろうね」
「ふっふっふっ………だといいけど」
遼鋭は相も変わらず勉強することなく、消しゴムを削って遊んでいる。いつもああやって消しゴムでフィギュアを作るのだ。器用だよなぁ羨ましいよ。俺は不器用だからさ。
「僕は本当にいつも思うんだ。君がもっと器用だったら楽しく生きられたんだろうなって。今のような評価じゃなくて、もっと別の人生が君にはあったんじゃないかって。今からでもいいから器用になりなよ」
削り続け、ドンドン形が生まれていく。ああ、これはなんかのアニメの主人公だな。主人公……羨ましいよなぁあいつら。成功する運命がもとから確約されてるんだから。プロットがあって、ネームがあって、一つの作品として人生が決められている。俺も創作物の主人公になりてーよ。今の時流ならハーレム物ばっかりだし。
「器用になれるのなら今からでも器用になるが、出来ないから困ってるんだろ」
「コツを教えてあげようか?他人のことなど考えずに身勝手に生きるんだ。自分の欲望だけを叶える為に努力し続ける………器用になるにはそれしかないんだ」
「遼鋭もそうなのか?俺に対してこんなに親身に察してくれるのに」
「君と宏美だけだよ。他の人間に関しては心底どうでも良い。たとえ狩虎以外のクラスメイトの全員が不幸な事故で死んだとしても、僕は悲しまないだろうね。そういう人間なんだよ。」
そうは見えないけれどなぁ。
遼鋭は完成したフィギュアを5秒ほど眺めた後、それを握り潰した。繊細に作られた細部は簡単にへし折れていた。彼は自分で作った作品を保存しない。彼の中では作ることにしか意味がなく、できた作品には興味がないのだ。
「………僕から言えることは、勇者にはそこまで期待しない方がいい。どうせあいつらは劣等種なんだから。」
ガラガラ…………
イリナが教室に入ってきてから遼鋭は黙り、始まるイリナと宏美の会話。俺はそれを聞きながら授業の復習を再開した。
~放課後~
「昨日の依頼は解決した方がいいと思うんだよね」
「…………どういう心境の変化ですか」
生徒会室でコーヒー牛乳を飲みながら近くにいる宏美に言った。そしたらなぜか翔石君が反応してきた。
「言っておきますけど僕はやですよ。彼らの問題を解決するということは、彼らと少なからず関わるということ。危険にも程がありますよ。僕らの命がいくつあっても足りません」
「でもさぁ。彼らを放っておく方がまずい気がするんだよなぁ。暴走されたら何されるか分かったもんじゃないし」
昨日の寿々乃井さんを見て思ったのだ。彼らの欲求が解決しないまま長時間過ごすと、彼らは変態を超えた圧倒的な超変人になりかねない。そうなったらどんなことが起こるか…………想像もしたくない。
「でも彼らと関わりたくはないですよ」
「俺もそうだけどさ、このまま何もせずに見続けるのも気分が悪いじゃん?頼ってくれてるんだから一応は頑張らないと」
「いつも仕事をしてないお前が言うと説得力がないよな。しかし、言いたいことはよくわかる」
仕事を終えた宏美がノートPCを閉じて背伸びをした。俺も真似て背伸びをすると、仕事してない奴がすんじゃねぇと叩かれた。
「でもあの人達とはもう関わりたくないんですよねー」
翔石君の言い分も分かる。現に昨日の夜、俺は寿々乃井さんの行動力に殺されかけてるからね。その気持ち大いに分かるよ。
「じゃあ寿々乃井さんともう一回話して、仕事を受けるに値するかどうかもう一度判断しないか?」
それにある程度恩を売っておけば、表面世界での俺の扱いが良くなるかもしれない。そうなれば修行にも専念ができるというもの。
俺の言葉にみんなが微妙な表情をした。まぁそれだけ寿々乃井さんのインパクトが強かったってことだもんね。躊躇うのはよくわかる。
「……珍しく狩虎がやる気になってるんだ、やらせてやればいいんじゃないか。」
驚いて見つめる俺にウィンクで返してくる宏美。
「まぁ、宏美さんが良いって言うのならば僕も賛成しますけど………」
流石宏美、鶴の一声だ。このやり取りだけで俺らの上下関係が赤ちゃんでも分かっちゃうな。………一応生徒会長なんだけどなぁ俺。
「んじゃあやってみろ。期待して待ってるぞ」
「期待はすんな。テキトウに待っててくれ」
俺は寿々乃井さんを探しに生徒会室を後にした。




