フリーおにぎり
登場人物
・飯田狩虎:あだ名はミフィー君。主人公?
・イリナ:最強の勇者。主人公。
・黒垓白始:王様を守る部隊の1人。ワープの能力を持つ。
「用事があるって嘘ついてこんなところから盗み見するなんて……ストーカー?」
黒垓君の能力で遠出を装った俺達は、ユピテルさんが見える位置から彼女を観察する。
「ユピテルさんの性格が知りたくてさ」
「それってまさか……恋?」
「確かに美人で年上で手厳しいという性癖ドストライクではあるけれどそういうのではない」
「どう考えてもそういうのでしょ」
「美少女ハンターのオラから言わせればそうやって謙遜しながら女に近づく奴が1番危険なんすよ。むっつりどすけべ」
「あの人に死ぬのを望まれてるのに興奮してたら異常者もいいところだろ」
つーか黒垓君は美少女ハンターなのか。かなり小柄な部類に入るはずなのに……やっぱりモテる男は喋り上手だよなぁ。全然カッコよくないのになぜかモテる奴とかも話すの上手いしな。
「………昨日、ユピテルさんは俺の力を解放しなかっただろ?それらしい理由は言ってたけれど、俺は全てを鵜呑みにはしない。最悪の場合、彼女がカースクルセイド側の人間で、俺をリヒトに殺させる為に解放しなかったのかもしれないじゃないか。その確認の為にここに呼んだんだ」
「………それ本音?」
「うん?そうだけどそれがどうした」
イリナは戦慄した。あの場では納得したような返事をしていたのに、この男は心の奥底ではユピテルさんを全然信じていなかったのだ。疑り深いという言葉で片付けてはいけないほどの性格の歪さを感じた。
「俺の秘密を書いたメモ帳をあの場にさりげなく置いてきた。俺を倒しうる凄まじい秘密……もしそれを確認してどこかに報告したらアウト。俺はユピテルさんを裏切り者として扱うことにしている」
「そ、そんな凄まじい秘密を書いて置いとくなんて頭おかしいんじゃないの………いやそうじゃなくて、カースクルセイドではなくて勇者領の重役に伝えるのかもしれないじゃん」
「勇者領には敵のスパイがいる可能性が高い。重役に伝えるということは、遠回しに敵に情報を伝えるということだ。もし意図せずにそうしたのだとしても、そこまで頭が回らなかったというのは致命的だ。裏切り者として扱い情報の漏洩は防ぐべきだ」
「珍しく真面目に考えてるじゃん。いつも成り行きに任せてるくせに」
「遊んでられるような状況じゃなくなっちゃったからね。俺のミレニアルズの評価はかなり高いよ」
彼らの爆発力は危険だ。勇者と魔族を相手にしようと危機感は抱かないけれど、どちらも使える相手というのは可能性が未知数すぎる。そしてその未知数は魔王すらも倒しうる。これ以上は好きにさせない。
「………でもそんな素振り一切ないね」
ユピテルさんは子供達と遊んでいて俺のメモ帳に気がつく気配がない。
「俺勇者じゃないからなぁ。ユピテルさん達が何を喋ってるのか全然分からない。俺の為に何言ってるか教えてよ」
「一応勇者の力持ってるんだからね。練習だと思って声に耳を傾けなよ」
基本的に俺は練習したことしかできないポンコツだぜ?いきなりそんなこと言われても出来るわけがない。
「君が可能性を否定しているだけで本当は聞こえてるはずなんだよ。[出来る]と思ってちゃんとやってみなよ」
「あーい」
ユピテルさんの会話に集中してみる……あっ本当だ、なんか聞こえてきた。
「ユピテルさんはなんで勇者になったのー」
私の膝の上に座っている女の子が聞いてきた。さっきまで好きな絵本の話をしていたというのに話の変化が激しいな。これが子供の思考回路というやつか。
「生まれた時から決まっていたんだ。私がなりたいと思っていたわけではなく、家柄的にな」
貴族に生まれるというのはそういうことだ。本心の意思に関係なく勇者にならざるを得ない。
「いえがら?」
「うむ、私の家族は生まれた時から勇者になるのが決められているんだ。そういうのを家柄という」
「へーー……勇者になりたくなかったのユピテルさん?」
「……なんでそう思うんだ」
「だってそんな感じだったよ、いやーな感じ」
子供というのは感性が鋭いな。雰囲気を読むのがうまい。
「なりたくなかったわけではない。私は全ての民を守ってやると息巻いて夢を持っていたぐらいだ。……ただ現実を見ると悲しくなってな。この世界の強さは正義を無視する」
飯田狩虎がいい例だ。魔王のくせにその強さだけで勇者領の中心地に居座り好き勝手やっている。何か裏があるだろうに、彼のその強さのせいで誰も殺すことができない。現に私も野放しにしている状況だ。殺そうと思えばいくらでも殺せるのに………正義ではなく得を優先してしまっている今の自分が嫌いだ。
「もっと強かったら………あんな男に頼らずに済む強さがあったら………こんな気持ちになるぐらいなら勇者になんかならなきゃよかった」
「………怒っちゃやだー」
女の子が私の腕を両手で強く握った。子供というのは本当に………私にもこんな時期があったんだな。夢や自分の感情で頭がいっぱいの素敵な時期………この子達に下らないことを伝えたくはないな。それは大人になってから自分で理解すればいい。
「安心するんだ私は怒っていない。……さて!おにぎりでも食べてゆっくりしよう!」
「えーやだー食い飽きたー」
「それじゃあ私がテキトウなものを作ってあげよう」
「絵本読んで絵本ー!」
「はははっ、順番は大切だ。すぐに終わらせるから待つんだ。偉い子だから出来るだろう?」
俺達はユピテルさんと子供達が遊んでいるのを眺め続ける。
「やっぱりメモ帳は見なそうだね。……ミフィー君?」
何も返事をせずにユピテルさん達を見続ける俺が不思議だったのかイリナが聞き返す。
「やっぱそうした方がいいか」
「うん?」
「いやなんでもない。……ユピテルさんの話を聞いていると、本当に、カースクルセイドは倒さなきゃなって思うよな。あいつらの理想は理解できるが、平和を脅かすのは間違いだ」
そして……
「争いの火種は消さなくちゃいけない」
「…………」
「………だからって自殺はしないでよ」
「しないって。イリナに殺されるのが俺のゴールだ」
ユピテルさんは裏切り者ではない気がした。なんとなくでしか分からなかったけれど、それだけで十分だ。
「そういえば君の弱点って何?何を書いたの?」
「えーー………まぁ、イリナはいずれ俺を倒さなきゃいけないからな。伝えておいて損はないだろう」
俺はイリナの耳元で小声で呟いた。
「俺の数学のノートをシュレッダーにかけられたら立ち直れなくなるぐらいに凹むんだよね。あれいままでで最高の出来だったから」
俺はそれを聞いてニッコリと笑うと、今度は彼女が俺の耳元に口を近づけた。
「ひとまず明日にでも燃やしておくね」
「やめて!?マジで最高傑作なんだってあれ!」
「そんなんで倒せたら苦労しないよ!あーもー期待して損した!」
イリナが怒っちゃった。どうしよう、どうしようね。ひとまず話題転換するか。
「んじゃあウンモを呼んで今後の方針でも考えるか。今俺やる気あるから頑張りたい気分なんよね」
「逃げるつもりだ!……てかここに連れてくるの?騒ぎにならない大丈夫?」
「イリナやユピテルさんが近くにいたら大丈夫だろう。………多分」
それに、そろそろあいつもこの街を自由に出入りできるようにならないと不便だ。大丈夫、魔王が出入りできているのだ、ただの魔物ぐらいなんとでもなる。
「言いたいことはわかるけれどさぁ」
「大丈夫だってこれも大切なことだよ。というわけで黒垓君、俺をウンモの元に送り込んでくれ」
こうして俺は白色の扉をくぐり、ウンモをお迎えに来たわけだ。
「我は大地の守護神なり」
そして俺の目の前にいたのは、体長3mはある巨大な岩石の魔物。口から黒色の息を吐き出し、赤色の瞳を光らせ俺を睨みつけてくる。
「ウ、ウンモさん?」
「大地の守護神なり」
大地の守護神は、6本あるうちの2本の腕で握った大地の聖剣を振り払いその瞬間、大地がめくれあがり重力が反転した。




